「いやー、いい話だったな」
「そうですね。私も最後は感動して涙が出てしまいました」
映画を見終えた俺たちは、映画館を出て次の場所へと向かう間、今さっき見た映画の話をしていた。
笑える部分もありながら、悲しんだり、応援したりするところもあった。心を動かされるとは、まさにこういうことなんだろう。
「こういうよく出来た物語を見ると、創作意欲が湧いてくるよ。俺もあんなストーリーを書けるようになりたいな」
「これでゲーム開発も捗りますねっ。定期的に映画館に来るのもいいのかもしれません」
木乃花ちゃんが俺を見上げ、ニコッと目を細めて笑う。
「次は、プレミアムシートは遠慮しておくけどね·····」
「事前予約しておいた方がいいですね」
「だね」
二人で笑いながら歩く。
と、突然、木乃花ちゃんが立ち止まる。
「ん? どうかした?」
「見てくださいあそこ。陽葵の本が置いてあります」
木乃花ちゃんが指を指した方向は、本屋さんだった。もちろん、たくさんの本が並べられてある。
「どれだ⋯?」
「これですよ。名前は
「猫宮、向日葵⋯?」
結構売れているようで、重版決定!とか色々と書いてある。
「自分の作ったものが、こうして形となってみんなの元に届くのって素敵ですよね」
と、木乃花ちゃんが呟く。
「木乃花ちゃんだって、デザイナーとして活躍してるじゃないか。そして俺もゲームを世に出すために頑張ってるところだ。みんな同じさ」
「ですね! あ! あそこのお洋服屋さんに、良さそうな服がある予感がします!」
「よし、じゃあ行くかー」
イレギュラーが起こるのも、計画の内だ。多少のズレで取り乱すようなことが起こったら、それは良いプランとは言えない。
「わあっ! かわいい! これも! これも!」
木乃花ちゃんは、服を選んでカゴに次々と入れる。
デザイナーにここまで褒められるということは、相当にすごいのだろう。
「えっと、試着できますか?」
子供であっても会社の社長である。店内のスタッフに話しかけに行くのだって一切躊躇う様子を見せない。
「はい。こちらでどうぞ」
店員さんに案内された場所に木乃花ちゃんは入り、カーテンを閉める。
「結城さん、ここで待っていてくださいね」
カーテンの隙間から声をかけられる。
「う、うん·····」
ファッションショーでも始まるのだろうか。色々な姿の木乃花ちゃんを見られるのも、悪くはない話だ。いや、むしろありがたい。
しばらくして試着室のカーテンがバサッと開かれ、木乃花ちゃんが現れる。
「ど、どうですか·····?」
肩が出ている水色のフリフリのワンピースだ。木乃花ちゃんの清楚さをより際立たせており、とても似合っている。
「かっ、かわいい!」
あまりのかわいさに、思わず声に出してしまった。
「えへへ。正面から褒められると、ちょっと照れますね」
「でも、ちょっと夏っぽい服は早いんじゃないの?」
「確かにそうなんですが、買っておいて損はないので·····」
「そっかぁ」
木乃花ちゃんはお金に気を使う必要はないし、余計な口は挟まないでおくべきだな、と思い直す。
「次の服に着替えてきますね」
それから木乃花ちゃんのファッションショーが続いた。
「こんな服はどうですか?」
ゆったりとした白いブラウスにデニムの短パンを履き、黒い帽子を被っている。首にはネックレスが付けられていた。
「おおっ。すごい似合ってる!」
「ここに、これをこうです!」
木乃花ちゃんは、サングラスをどこからか取り出してかける。
「すっご·····」
もはや、なんと褒めれば良いか分からない。それくらいにセンスがいいのだ。さすがデザイナーだな。
その後も、肌面積が大きい服や、七分袖の吹くなどを着こなしてみせた。モデルがいいから、どんな服でも完璧に似合ってしまう。
会計を終え、大量の荷物は家に直接送ってもらうことにした。確実に邪魔になるし、何より重かったのでとても助かる。
「付き合ってもらったので、次は結城さんのお洋服を見に行きましょうか?」
木乃花ちゃんは、細かな気遣いのできる女の子である。自分だけが楽しむことを許さず、みんなが幸せになることを望んでいるのだ。
「服には困ってないから大丈夫だよ。それに、木乃花ちゃんの色んな姿を見れて楽しかったからね」
「そ、そうでしたか·····」
少し恥ずかしそうに顔を赤らめていて可愛いい。気が付くと、俺は無意識に木乃花ちゃんの頭を撫でていた。
「あっ、ごめん」
慌てて手をバッと離す。木乃花ちゃんの様子を見ると、俯いていた。
うわ·····。俺、やっちゃったかな。
「·····してください」
「えっ?」
「も、もう一回頭なでなでしてください·····」
木乃花ちゃんはモジモジしながら言う。
「わ、わかった·····」
手を頭にそっと乗せ、ゆっくりと動かす。サラサラな髪の毛を直に感じる。
「んっ·····。気持ちいい·····」
木乃花ちゃんは、とろけそうなくらいの甘い顔をしながら、目を閉じて感触に浸っている。
「次行く場所は決めてあるんだ」
もう太陽も落ちかけている。このデートもそろそろ終盤だ。