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部屋の片づけ

 シェナは自分の拠点に明かりが灯っているのをみて、少しだけため息をついた。

 身を隠す必要があるっていうのに、自分からみつかる可能性を上げてどうするんだ。近所の人間にも目立たないようにそっと扉をあけて中に入る。


「おかえり。ジノヴィ達はみつかった?」


 セトは、調理台に向かっていた。


「片付けておなか空いたから、勝手に色々使っちゃったよ。あとで埋め合わせするね。シェナもおなか空いてない? 丁度出来たところだから、食事にしようよ」

「ちょ……まぁ、いいか」


 セトの緊張感の無いのんびりした様子に、シェナはもう一度溜め息をついた。

 それにしても部屋が明るく感じるのは、ごちゃごちゃした品物の山がきちんと整理整頓されて部屋の端に並べられているからだ。椅子も床も輝き、寝台の布団まで整えられている。


「ちょっと。ボクの部屋こんなに綺麗だっけ? 家事的な魔法?」

「いや、散らかし過ぎ。このくらいは普通だと思うよ。部屋は綺麗にしようね」


 そう笑うセトは、どこか家庭的で、くすぐったいような気持ちにさせる。



 セトにしてみれば、いい気分転換だった。

 拘束されながらの山登りを強行してきたうえに、魔女探し達に攻撃されたりいつのまにかジノヴィ達とはぐれてしまったりして疲れ切っている筈だが、一度眠っていたせいか、頭はすっきりしている。

 片付けを始めると止まらなくなり、つい片っ端から目に付く場所全部を掃除してしまった。

 食材を見つけて空腹に気付き、勝手で申し訳なく思いつつ調理を始めていたという訳だ。

 今までも、独りで暮らしていたのだから、そういう事は別に苦にはならない。


「それで、ジノヴィ達は見つかったのかい?」


 セトは適当な器に2人分のスープをよそって、シェナが誰も連れていない事に首を傾げた。

 出掛けてから結構な時間が経っているから、簡単に捜し出せずに見つけるまで駆け回っているのかと思っていた。それとも、この街に辿り着いていなかったのだろうか。


「みつけたよ。でも、今は機嫌が悪いから会わないほうが良い。下手すると殺されるかも。……これ、毒入ってないよね?」


 スープを口に運んでから、彼女はぱっと目をひらいてスープをみる。毒が入っていたら、手遅れな質問だが。


「入ってないよ。君の家の中にあるもので作ったんだから。僕も食べるし――」

「あるもので?! どういう魔法? ありえない位美味いんですけど! 凄い旨い!」

「酒場料理の真似だけど、口に合ったなら良かったよ。まだおかわりあるからね」


 立ったまま2杯目までしっかり平らげて、やっとシェナは椅子に腰をおろした。

 セトが一人前を食べ終わるのと同時位だったから、結構な早食いだ。


「ごちそうさまでした! お腹空いてたのに気付いてなかったみたい。食べ過ぎたー。あー。しあわせ~」


 ぺたりと机に突っ伏して、気持ちよさそうにダラダラし始めた。

 あちこち走り回っていたようだし、疲れているのだろう。それにしてもシェナがいきなり脱力したような動作に、セトはもういちど首を傾げた。


「ジノヴィは、そんなに機嫌が悪かったのかい? 早く合流した方が、逆に薬になるような気がするけど」

「今日は駄目だね。1回休んで冷静になって貰わないと。お腹すいてて疲れてて機嫌も悪いとか、危なすぎるでしょ」

「そうか……。あ、アルヴァは無事だった?」


 シェナは突っ伏した頭をもたげて、少し首をひねる。


「アルヴァ? ……もしかして金髪の子ども?」

「そうだよ。彼がリュディア王国の、教会代表の立場にあるんだ。魔女探し達と戦ってもきりがない。アルヴァの立場を使って、魔女探し達を止められないかな……と、なんとなく、片付けながら思ってたんだ」

「……時間稼ぎには、なるかもね」


 シェナはふらりと立って、片付いた寝台に頭から突っ込んだ。

 そんなに疲れているようには見えなかったが。そういえば炭鉱の酒場の女店主が、時々似たような動きをしていた。


「……もしかして君、お酒飲んできた?」

「む、そういえば。その後、けっこー、走ったかな。それより、さっき酒場に行って状況を掴んできたよ。纏まらない集団だけど、一目置かれてる奴がいるんだ。交渉するなら奴がいいかも」


 セトは卓上の食器を片付けながら、さっきの考えをすすめる。


「――アルヴァには、その人物と対話する形で、足止めをして貰う。リュディア王国の教会の代表としての立場がどのくらいの力を持っているかは分からないけど、そうして貰っているうちに、先に進む。それである程度は時間稼ぎができそうだよね。理想は、魔女探し達に撤退して貰うことだけど」


 シェナがころがる寝台の隣に腰掛けて、考えていたことを少しずつ話す。


「それは良いけど。……リーオレイス人だけに囲まれる事になるよ。アンタの危険度が上がるんじゃない?」


 眠気に負けそうな顔をあげたシェナは、話相手の顔が意外と近いことに、目をひらいた。


「それは、君がいれば大丈夫だよね」


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