ミッツ教団司祭に同盟交渉の旅の報告を終えたルルーは、ブライアンがいる聖堂へと戻り、ブライアンに声をかける。
「ブライアン、本当にずっといたの?」
「言っただろう、俺はこの街にはあまりいい思い出がねえって」
ブライアンの言葉を聞いて、少し遠慮気味に聞く。
「ねえ、ブライアン、何があったか話しても大丈夫?」
「まあ、お前がそんなに知りたきゃあ話してやるよ。俺はこの街で兵士をやっていたんだが、ある奴と折り合いが悪くてな」
ブライアンはかつて同じ兵団に所属していたカールの話をルルーに対してできうる限り簡素に話そうとしていた。
「まさか。それで兵士を辞めたの?」
「いや、そいつにはめられて、2日ほど飲まず食わずでいて、腹が減っていたところをギン達に助けられた」
「ギンはエイムの依頼の途中だったのよね?そんな時にあなたの事も助けたの」
ルルーの言葉を聞いて、ブライアンがしみじみと自らの思いを語りだす。
「今考えるとギンの行動もすげえが、自分の親父さんを一刻も早く助けてえはずのエイムも見ず知らずの俺の為に力を貸してくれたんだぜ。あの時は俺もそこまで気が回らなかったけど。今思えば2人とも信じらんねえことをしてたんだな」
「そうね、ヨナの時も思ったけどギンもエイムも他者を思いやる心が強いの」
「まっ、ギンはちょっと分かりずれえけどな」
「それでも最初に会った時よりは分かりやすくなったと思うわ、あ……」
突如、ルルーが何かを思いついたかのように声を発したので気になったブライアンが尋ねる。
「どうしたんだ、いきなり?」
「ごめん、いや、あのね私思ったんだけど。私達ってなんか不思議な関係よね」
「不思議な関係?俺達がか?」
「だって、慌ただしかったのもあるけど私達ってそんな自分達の事を話したことってなかったじゃない」
ルルーの話を聞いて、思い出しながらブライアンが語りだす。
「そういやあ、そうだな。確かに俺がお前にこの話をしたのは初めてだな」
「そうでしょう、ギンのことにしても、今日初めて聞いたでしょう」
「一体、それがどうしたんだ?」
「私達はあまり自身についての話をしないし、あえて深く聞いたりもしない。でも……」
ルルーは言葉を溜めて、自らの思いをブライアンに打ち明ける。
「それでも私達はお互いを信頼している。少なくとも私はみんなを信じているわ。だからちょっと不思議に感じているのかな」
「あのなルルー、ある人の受け売りなんだが互いに命を預けるのは理屈じゃねえ。俺はギンやムルカの旦那の過去を知ったからって、みんなが俺の命を預けるべき存在だってことに変わりはねえ。難しく考える必要はねえんじゃねえか」
「ブライアン……」
一瞬感激した表情を見せるルルーであったが、次の瞬間目を細めて言葉を放つ。
「じゃあ、今すぐ前に手当係って言ったのを訂正しなさい」
「って!まだ根に持ってんのかよ。さすがにもういいだろう」
「いいえ、私にとっては屈辱の言葉よ。すぐに訂正しなさい」
ブライアンとルルーがやり取りをしているとミッツ教徒が聖堂に現れる。
「ルルー様!」
ミッツ教徒の接近に気付いてルルーが反応をする。
「どうしたの⁉」
「帝国軍がこの街に迫っております!」
遂に迫るブロッス帝国軍。果たしてどう迎え撃つのか?