バンス将軍がプレツの砦の攻略指揮を執っている戦場に突如現れたムルカはバンスに騎士団を脱退した理由をやや挑発じみた言い回しで問われるが、あえて挑発に乗り、その問いに答えることとした。
「バンス将軍よ、貴殿がそこまで私が騎士団を脱退した理由を知りたいというなら教えてやろう」
ムルカはそうバンスに対し宣言すると息を一瞬呑み込んでから言葉を発する。
「私は戦争で妻を亡くした。そしてその際に私は憎しみに囚われ多くの敵を斬った。もはや私の戦いに大義などなかった、だから私はもう騎士団にいる意味を見出せなかったのだ」
ムルカは自らが憎しみに囚われ多くの敵を斬り、その事が自らを騎士団にいる資格なしであることをバンスに話すが、バンスが残念そうに返事を返す。
「どのような理由かと思えば、そのような理由か。『プレツに騎士ムルカあり』と言われた男がこのような腑抜けに成り下がっていたとはな……期待外れも良いとこだ!」
バンスの返答に対しルルーは怒りの感情を見せる。
「バンス将軍!あなた今なんて言ったの⁉ムルカ様を腑抜けだなんて」
「ふん、よいか娘よ騎士たるものは身内をも失う覚悟、時には身内とすら殺し合いをする覚悟を持たなけれならん。その覚悟がなかったこの男は腑抜けも同然であろう!」
「それはあなた達の理屈でしょう、大事な人を失い悲しみに浸るのは人として当然の感情よ!」
ルルーの言葉を聞いてバンスは一呼吸置いて自身の事を語りだした。
「娘よ、それを飲み込んでこその武人なのだ。このわしのようにな」
「えっ?どういう事なの?」
「神官戦士よ、先程の話の礼替わりにわしのことも話してやろう。それとも敵の話を聞く気はないか?」
突如自身に対して礼替わりに自らの話をすると宣言したバンスに対しムルカは落ち着いて返答をする。
「聞こう、と言うより気になるような言い回しをしたのであろう」
「あえて乗るわけか、よかろう。では話してやろう」
ムルカの言葉を受け、バンスも自らの事を語りだす。
「わしも10年前に妻を亡くした。お主と同じく戦争でな」
10年前という言葉にブライアンが反応を示す。
「10年前ってことはあんたらがボース国内で反乱を起こしたときか?」
「そうだ、陛下……当時のギガス将軍のお考えに我らも賛同し集結し、王国の転覆を目指したのだ」
バンスの言葉を聞いてムルカが反応を示す。
「待て⁉確かその際に王国側が反乱軍についた将の家族を人質にとったはず。まさか……」
「そうだ、わしの妻も人質にとられた。幸い娘は侍女たちがうまく逃がしてくれたがな」
娘のピリカが人質にとられずに済んだことを語るが、その際の心情を更に語り始める。
「わしもその時はさすがに迷った。だが陛下のお言葉で迷いが消えたのだ」
ギガスがバンスに語った言葉とは?