ギン達がスップのミッツ教団の教会に戻ろうとしている時、ムルカは妻の眠る墓へと再度向かっていた。
墓前まで着くと先程ブロッス帝国の襲来を受けて止まった話の続きを再開する。
「メイリー、すまん、今戻った。このプレツに侵攻してきた者がおったので、追い払ってきた」
ムルカは少し間を置いて、自らが妻に語りたかったことを妻に向けて話す。
「メイリー、いつも私はお前に暗い話ばかりをしてきたが、今年は少し違う話もしようと思っているのだ」
そう言ってムルカは自らの周りで起きた変化を話す。
「私にとっては久しぶりとの人間との戦争で、ブロッス帝国といってボース王国内で起きた内乱がもとで興された国があり、その国が先日もこのプレツに攻めてきたのだ」
ムルカが語ったのは妻亡き後に興されたブロッス帝国との戦いが開戦していることであった。
「お前は怒るかも知れんが、正直私はその戦いで華々しく散るのも悪くないと思った。だが……」
ムルカは様々な思いが頭の中にうずまき言葉をまとめるのに苦労するが、自らの率直な思いを妻であるメイリーに伝える。
「その戦場に若者が現れたのだ。それも本来戦争などとは無縁でいられたはずの者達がだ。彼らは私や他の者達を助ける、ただその為に帝国のような巨大国家に対し剣を向けた」
ギン達のことを語りだし、言葉が段々と力強くなっていったムルカはこれからの決意をメイリーに伝える。
「だから私は思ったのだ、私にできるのは彼らや彼らの子供達が安心して過ごせる未来を守ることだと。彼らの思いは純粋で真っすぐだ。しかしそれ故、危ういところもある。私は彼らを見守り支えていく」
最後にムルカは目を潤ませながらメイリーに対して思いを話す。
「だからお前も頼む。私と私の仲間たちを見守ってくれ」
そしてムルカは後ろを向きゆっくりとその場を去っていく。
妻も安心して微笑みを自分に向けている。そう考えながらムルカは未来へと歩んでいく。
そんな時スップのミッツ教団の教会にギン達は到着し、エイムがギン達に声をかける。
「皆さん、お帰りなさい、お疲れさまでした。あ、ムルカ様は?」
エイムの疑問にルルーが返事を返す。
「ムルカ様はメイリー様のお墓よ。待ってれば帰って来るから」
「そうですか」
エイムとルルーがやりとりをしている時、ギンがエイムに話しかける。
「エイム、もう大丈夫か?」
「はい、大丈夫ですよ。ずっとあの女の子、マリンちゃんっていうんですけどお話してて」
「そうか、それは良かった」
「あのギンさん、私思ったんですけど、帝国との戦いが終わらない限り、マリンちゃんやいろんな子供達が安心して過ごせないですよね」
エイムの語りにギンは若干聞き覚えがあるもののエイムの話を聞いている。
「私達が頑張って早く帝国との戦いを終わらせなくちゃいけませんね」
「えらいなエイムは、俺がお前くらいの年の時はそんな事考えたこともなかったぞ」
「そ、そうなんですか。別に私がえらいわけじゃなくてマリンちゃんがいつ外で遊べるかを気にするから、それでなんとなく思っただけですよ」
「そこからお前なりに色々考えているのがすごいんだ。俺もそうしていければ良いと思っている」
ギンの言葉を聞いてエイムは屈託のない笑顔で返事を返す。
「そう言ってもらえるとうれしいです。ギンさんも妹さんと会えるといいですね」
「そうだな」
ギンとエイムのやりとりを聞いて、ブライアン達が話に入る。
「なんだギン、お前妹がいたのか?」
「会えればってことは、生きているの?」
戦いは続く。だがこの仲間達となら……そう思いをはせるギンであった。