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2-5

 私立是善高校には28階建ての高層ビルみたいな本校舎と4階建てのそれなりなサイズの円形の旧校舎がある。

 かつてはこの旧校舎ともうひとつ別の校舎があって、どっちも使われていたのだが、そのもうひとつの校舎がリニューアルされ、現在の本校舎となった。

 そこから特別教室とかは使われていたらしいが、それも段々と使用頻度が減っていき、今では特別進学コースの自習室とか、部室とかに使われている。

 そんな旧校舎の4階はフロア全体がひとつの教室になっている。階段を上った先に重厚なつくりのドアが鎮座しており、装飾が施されたプレートには『視聴覚室』と書かれていた。

「ゲッ、鍵かかってんじゃん」

 両開きのドアを開こうとしたところで、ゴツい鍵を発見。太い鎖が左右のドアの取っ手にかかり、見事に部屋への入り口を塞いでいる。

 あの謎の先輩女子、鍵がかかってることを知ってて僕に教えたのか。だとしたらタチ悪いな。

 まぁ、正直この旧校舎の4階という場所自体がめったに人が来ないところなので、ここで時間を過ごしても問題ないのだが。

「……暗証番号のやつか」

 鍵の部分には4桁の数字が並んでいる。ダイヤルロックだ。

 これならどうにかなりそうだ。ダイヤル部分に指で触れて、ゆっくりと目を閉じる。

 頭に浮かんだダイヤルロックへ意識を集中させると、数字の部分だけが浮き出た。

 1から9までの浮かび上がった数字に意識をやる。やがて、頭の中の数字がチカチカと光りだして――4つ揃ったところで、目を開けてダイヤルロックを見下ろす。

 思い浮かんだイメージが消えてしまう前に、数字を並べていく。

「……よし」

 4つの数字を並べたところで、カチッと音が鳴って鍵が外れた。

 そこから鎖を取り外し、一応それを持ったままドアを開ける。

 当たり前だが、部屋の中は真っ暗だった。一旦ドアを閉めて鍵をかけ、スマホの懐中電灯の機能を使って部屋の中を照らす。

「とりあえず電気を……あった」

 入ってすぐドアの左右の壁を照らすと、それらしいスイッチがあった。

 近づいてみるとご丁寧に天井とか足元とか、色々書かれたラベルシールが貼られている。

 とりあえず天井でいいだろう。スイッチを押すと、教室がぶーんと唸り声をあげながら、蛍光灯が点灯していく。

 等間隔に放射線状に配置された蛍光灯はあっという間に自分たちの仕事を思い出し、室内を照らしていく。ようやく、この視聴覚室の全容が見えてきた。

「これは……なんか、思ってたよりもすごいな」

 旧校舎の視聴覚室は、4階のフロアのほぼ全てを使った部屋だった。丸い形の室内は樹木の年輪のように曲線を描いた机と安いクッションが敷かれている長い椅子が等間隔で並んでいる。

さらに部屋は中心へ行くにつれ床が段々と下がっていき、そしてその中心には大きめの丸テーブルがあり、コンソールっぽい機材が並んでいた。

コンソールから伸びたコードはまとめられて上へと伸びている。そのままコードを追っていくと、天井から吊り下げられた3枚のモニターに繋がっているようだ。

「ここで操作して映像を上のモニターで出力するのか?」

 ジッとよく見るとコンソールにはほこりがかぶっていた。いや、コンソールだけじゃない。上にある3枚の大きなモニターは三角形を形作るように並べられていて、どの席に座っていても映像が見えるようになっている――のだが、やっぱりほこりをかぶっていた。

今はだれも使っていないと、謎の先輩女子は言っていた。人がいないと、こんなにも簡単にほこりをかぶってしまうのか。

ひとまず中央から離れ、通路を歩く。近くにある長い椅子のほこりを一通り払い、とりあえず座る。

机の上のほこりも払い、リュックを置く。グッと背もたれ代わりの後ろの机に寄りかかると、自然と大きなモニターが視界に入り込む。

かつてはここで教材用の映画とか観てたのかもしれない。まるで小さな劇場だ。

「……意外と、悪くないかも」

 思い切ってごろんと寝転がってみる。うん、めちゃくちゃまぶしい。

「なんかリモコンとかねぇのかな」

 起き上がって通路に出て、入り口へ向かう。

 ドアの横にあるパネルのスイッチを押すと天井の照明が消えていく。

 完全な暗闇になる前に足元と書かれたスイッチを押してみる。映画館みたいに通路を淡い光が照らす。

「ん? なんだこれ……あぁ、なるほど」

 スイッチの横にツマミが3つあった。時間が表示されているところから察するに照明のタイマーだろうか。確かにこれを使えばタイミングをずらせる。

 遠隔で照明を操作するということだろう。とりあえずグイッとツマミを回し、30秒に合わせた。

 そそくさと席に戻り、また横になる。脳内で30秒ほど数えたところで、通路の照明が消える。

 室内が暗くなり、僕は目を閉じる。

 学校の喧騒も聴こえず、なにか機械が動いているような音だけが聴こえる。限りなく静かで穏やかな時間だ。

「悪くないな……」

 暗闇の中で呟いて、息を吐く。

 謎の先輩女子の正体は気になるが、今はひとまず、眠ることにした。

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