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ゴブリンキングとの決着

 ゴブリンキングは構えた大剣を頭上に振りかぶる。


「んぬあああ!」


 全身に力を込め、気合と共に振りかぶり、振り下ろす。王の行うたったそれだけの動作によって、ケントは総毛立つ感覚に襲われた。


 喰らわなくても、気配で分かる。これはアイリスの障壁すら打ち砕いて致命傷を与える一撃だと。


 彼の後ろにはコレットとアイリスがいる。回避した時に彼女達が余波で傷つく可能性を否定できなかった。


――受け止める? いや、防ぎきれない。


――ならば、打ち払うしかない!


 瞬時に思考を巡らせ、取るべき行動を決めたケントは足を踏み込み自分の剣で相手の大剣を打ち払おうとした。


 ケントの剣はキングの振り下ろしに負け、弾かれた。だが、これによって若干の威力を相殺し軌道を変えたため、キングの大剣はケントの身体を覆う障壁を打ち砕くのが精一杯だった。


 ほぼ大剣の重みのみで袈裟掛けに斬り付けられたケントの身体は、肉を割かれ出血するものの致命傷には至らずに済んだ。


「ぐっ……」


 痛みに顔をしかめるケント。


「ケント!」


 声を上げ、近寄ろうとするコレットに軍師が魔法をかける。


『ウィンドボム!』


 コレットが吹き飛ばされ、アイリスに決断の時が訪れた。


(ケント様に治癒の魔法をかけるには、障壁を解除しなくてはならない……)


 一瞬の躊躇ためらい。そこにケントが声を上げた。


「傷は浅い! 障壁を!」


 ケントの声に後押しされ、アイリスは再び障壁の魔法をケントに張り直した。



「やせ我慢をするな、痛みで前のような動きは出来まい!」


 キングは再び、大剣を振りかぶった。


「んぬあああ!」


 実際、ケントは出血により思うように身体が動かなかった。


「勇者様!」


 ジャレッドが叫び、駆け寄る。だが彼の足では間に合わない。それでも懸命に地を蹴るゴブリンの顔には必死の形相が浮かんでいた。


「死ね!」


 キングが大剣を振り下ろす。ケントは剣で身を庇い――


『ウィンドボム!』


 コレットの朗々とした声が響き渡る。魔法の発動位置は、ジャレッドの背後。


 爆風に押され、弾丸のように弾き飛ぶジャレッド。彼は考えるより先に自分の大剣を胸の前で固定し、切っ先をキングに向けていた。


「うおおおお!!」


 キングの大剣が障壁に阻まれ勢いを落としている間に、弾丸となったジャレッドが彼の脇腹に激突した。


「王!!」


 叫ぶ軍師の周りを、ゴブリンの兵達が取り囲んでいる。前の魔法の直後、彼等は一斉に軍師を取り囲むように移動したのだった。


「貴様ら、どけ!」


 杖を振りかぶった軍師は、一斉に突き出された大剣に全身を貫かれた。


「ば……か、な……」


 血を吐き、ゴブリンメイジはそのまま絶命した。



 ジャレッドはキングに激突した際、障壁が破れていた。目の前には脇腹を大剣で貫かれた王がいる。だが、そいつはまだ生きていた。


「おのれぇ!!」


 怒りの形相で拳をジャレッドに振り下ろす。強烈なハンマーパンチを喰らったジャレッドは、軽々と宙を舞う。


「ジャレッド!」


 ケントは呼びかけるが、地面に落ちたジャレッドはその場で痙攣けいれんし意識を失っている。


「……終わりだ」


 王は三度大剣を振り上げた。


「その技はもう見飽きた・・・・・・


 傷ついた敵を前にし、妙に頭が冷えている。


 ケントの目にはキングの動きが酷くゆっくりと見えた。振り下ろす大剣の脇を入り身ですり抜け、半ば癖のように返す刃で無防備な首を斬り落とす。


 こうして、人々をさらって殺すゴブリンの王国は完全に消滅したのであった。


◇◆◇


「ゴブリンの王が死んだな」


 玉座に座る何者かが、側近に知らせる。


「ケントが、あの個体を倒しましたか」


 玉座の左脇に控えた異形の悪魔が応えた。その頭には捻じ曲がった二本の角があり、尖った耳の後ろに長い髪が垂れる。背中には巨大な蝙蝠の翼を持ち、体は漆黒の鱗に覆われていた。


「あのゴブリンは才能値が10000を超えていたはず。この短期間でそれほどまでに成長したのですね」


 また別の側近が言葉を紡いだ。


「アイリスも合流したのか?」


 玉座からの質問に、黒い猛禽の翼を持つ魔物が答える。


「まだ正式な仲間にはなっておりませぬが、共に戦ったようです」


 その場にいる者達から感嘆の声が漏れる。


「ふむ、概ね余の計画に沿って進行しているな。だが、あの黒騎士の存在が気がかりだ」


「奴は、私にお任せを」


 玉座に座る者の懸念に、異形の悪魔が応えた。

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