モルガーナはアガートラームのそばにいたかったが、彼が言う事に間違いは無いと信頼していたので素直に従った。また、追放された時に議員達がいつか迎えに来てくれると思った事を忘れていなかった事も、彼女が笑顔でこの場を離れた理由の一つでもあった。
「でも、どこに行ったらいいのかな?」
首を傾げ、独り言。すると腰に差したクラウ・ソラスが振動した。剣を抜くと、切っ先が勝手にある方向を指し示す。
「あっちに行けばいいのね?」
剣に導かれ、森の奥へと進んでいくモルガーナ。しばらくすると、森の反対側に広がる草原に出た。こちら側はエルドベアに近い側と違い、住居の残骸は見られない。代わりに目に付いたのは、遠くに立ち並ぶ簡素な住居――知的生物の集落である。クラウ・ソラスはそれを指し一瞬光を放つと静かになった。
「あそこに人間がいるのね?」
住居を建てて集落を作っているからといって人間が住んでいるとは限らないが、アガートラームが人間の世界に行けと言って渡した剣に導かれたのだ。モルガーナはそこが人間の住む村だと信じて疑わなかったし、実際その通りだった。
「子供だぞ!」
モルガーナが近づいた時、警戒していた村の大人が上げた叫び声だった。彼等も、まさか十歳の少女が単身徒歩でやって来るとは夢にも思っていなかった。最初はモンスターではないかと疑ったが、言葉を交わし彼女の身の上を聞くと笑顔で村へと迎え入れたのである。
「この国は滅び、我々も外の世界を知らずに生きてきた。だが、いつの日かこの国を復興してエルバードとも再び国交を結びたいと思っているんだ」
そのために、この村を拠点として発展させ徐々に支配地域を広げていくつもりだと村の大人は語った。モルガーナには彼等の決意がよく理解できなかったが、村から始まる国作りは楽しそうだと思ったので彼等に協力する事にした。
村の人間は彼女の生い立ちを可哀想だと思っていたが、本人は特に気にしていなかった。おかげでアガートラームに出会えたし、マントをくれた大人達がいつか迎えに来てくれると信じていたのだ。自分を見捨てて死んでしまった薄情な両親の事など、もう顔も覚えていないのだった。
◇◆◇
そして現在。黒い鎧に身を包んだ男と黒い手袋をした少年、それに
「うむ、完全に滅んでるな。こんなところに五歳の女の子を放り出したのか。一体どうやって生き延びたんだろうな?」
ギルベルト達の眼前に広がる荒地は、八年前と変わらず荒れたままだった。
『ついにこの時が来たか』
その時、イジュンの耳に不思議な声が届く。
「えっ?」
少年は声の主を探して周囲を見回すが、それらしい者は見当たらない。
「どうした? イジュン」
「なんか変な声が聞こえたっす」
トーマスとイジュンのやり取りを聞いたギルベルトは、ジョーカーの言葉を思い出す。
――混沌の主と心を通わせ、この世界への道を開く力を持つ者達だ。
「イジュン、その声はまだ聞こえるか?」
聞かれ、イジュンは耳を澄ます。
『よく来た、
「……って言ってるっす」
言われた事をそのまま復唱してギルベルトとトーマスに伝える。
「なるほど、俺の事も知っているという事は、そこらの精霊クラスじゃないな。神に近い存在だろう」
一度はこれが混沌の主かとも思ったが、都合が良いという言葉に違和感を覚えた。他にモルガーナの手がかりがあるわけでもないので、ギルベルトの判断により一行は謎の声に従って森を目指すのだった。