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疎通者の秘密

「疎通者が我等や混沌の主と意思を疎通できるのは何故か教えよう。支配者達がこの世界を捨て、異世界へと旅立つ少し前の話だ。支配者の内の、ある一柱の神が混沌の主を牢獄から解放しようとした。その理由は分からないが、彼女を自由にしてしまえばこの世界は崩壊し次元の狭間に消えてしまう。他の支配者達は阻止するために彼と戦った。激しい戦いの末、元凶の神は身体を十二個に分割された。だが支配者たる神を完全に滅する事は他の神にも出来ないので、それらのパーツをこの世界に生きる生物の体内に封じる事で再び一つになる事を防いだのだ。疎通者は神の身体の一部を身に宿す者という事だな。封じられたパーツは宿主が死を迎えればまた新たな命に宿るのだが、厄介な事に疎通者が寿命を迎える前に外的な要因で命を落としそうになると、その気配を察知した混沌の主が闇雲に力を放って命を救おうとしてしまう。その余波で周囲に破壊の嵐が吹き荒れるのだ」


 アガートラームの言葉に、ギルベルトはE地区の惨劇を思い出した。


「つまり、ジョーカーはイジュンやモルガーナと同じ疎通者だという事か」


 その言葉に、イジュンとトーマスは息を呑みギルベルトの顔を見た。


「それだけではない。魔王と呼ばれ、悪魔達を率いる者も疎通者だ。奴等の目的はかの神の復活、つまり疎通者を全員集めて開封の儀式を行う事なのだ」


 淡々と語る竜の真意を探るギルベルト。


「お前の目的はその阻止か? モルガーナはお前が助けたのか?」


 質問に対し、変わらぬ口調で答える。


「私の目的はこの世界の安定だ。モルガーナは放っておけば混沌の力で辺りを破壊しつくす危険があったから助けた。……話し相手が欲しかったという理由もあるがな。モルガーナと共に過ごして、言葉の通じる相手がいる幸せを感じた。そのせいか少々混沌の主に対する同情のような気持ちが生まれてしまったのは失敗だったかも知れぬ」


 淡々と話していたアガートラームだったが、最後の部分でわずかに声が揺れた。


(感情の無い機械では無さそうだな。幼いモルガーナと接して父性だか母性だかが目覚めたか)


 ここまで警戒を解かずにいたギルベルトだが、相手の感情の揺らぎを読み取り緊張を和らげた。演技などではない、むしろここまで意図的に感情を抑えていたのだと分かる。単なる洞察力ではなく、彼の身に纏う鎧がもたらす偽りを見抜く能力がそう告げているのだった。


「……その鎧、支配者の手によって作られたものだな。全く同じとはいかないが、近い性能を持つ鎧を作れるだろう。材料があれば、だが」


 今度はギルベルトの鎧に話を移した竜だったが、これに強く反応したのはイジュンだった。


「本当っすか!? オレもギルベルトさんと同じ鎧が着れるんすか?」


 彼は尊敬する黒騎士と同じ格好が出来ると喜んでいるが、大人二人は実用的な理由で内心興奮していた。


「愛用している俺から言わせて貰えば、本当に良い鎧だぞ。可能な限り量産したいぐらいだ。だが、この世界で黒は良くないだろう?」


 ギルベルトはトーマスに確認する。


「そうですね……今までは。ですが、忌み子と呼ばれた人達の復権と共にこの無意味な風習は捨て去ってしまった方が良いかも知れません」


 だがトーマスは悪戯っぽい笑みで答えた。


「必要な材料はこのメモを見るといい。全てこの国で手に入るはずだ。モルガーナに聞けば場所はわかるだろう」


 ギルベルトはどこからともなく現れた紙のメモを受け取ると、肝心のモルガーナがどこにいるのかを聞いていない事を思い出した。


「それで、モルガーナはどこでどうしているんだ?」


 アガートラームは彼女が少し離れた場所にある村で人間の生き残りと共に生活している事を告げ、最後にこう付け加えた。


「……モルガーナを、よろしくお願いします」


 これまでの語り口と明らかに違う態度で請い願う竜に、黒騎士は親指を立て力強い笑みを向けるのだった。

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