数日後、材料を集めたギルベルト達はアガートラームの住処を訪れていた。
「よく来た、お前達の身体に合った鎧を作ろう」
厳かだが優しい響きのある声で語りかける光竜に、モルガーナは抱きついた。
「久しぶりだね!」
アガートラームは、尻尾の先で彼女の背中を一撫ですると、言う。
「ずっと見ているぞ。これからはギルベルト殿についていきなさい」
その様子を微笑ましく思いつつも、本当に過保護だなと内心苦笑するギルベルト。よろしく頼まれたが、ずっと監視されているのならば、もしモルガーナを泣かせるような事があればどこにでも飛んできそうだ。
「じゃあ早速頼むぜ、これで全員分になるだろ」
トーマス、イジュン、モルガーナの他に村人十人が鎧を着てモンスターと戦う。この数日間でギルベルトの指導を受け、元々モンスターを追い払って生活していた事もあり全員が十分に戦えるようになっていた。
「少し待て、全員分の鎧は今日中に用意しよう」
十三着もの鎧を一日で作ると聞いて、驚くと共に便利だと思う一行。完成するまでまたギルベルトの稽古を受けて待つのであった。
完成した鎧を着こんだ一行は、全員統一された黒い鎧に身を包んだ事で騎士の一団に見える。
「いいっすね! これでオレたちは黒騎士団っすよ!」
イジュンがはしゃぐ。トーマスは軽さと邪魔にならない着心地に満足したように身体を動かし、モルガーナはギルベルトの隣に立って嬉しそうに「お揃いだ……」と呟いている。
「よし、明日からモンスターを蹴散らして行くぞ。アガートラーム、またよろしくな!」
ギルベルトがにわか騎士団を指揮し、光竜に挨拶をして村へと戻る。アガートラームはゆったりと尻尾を振り、黒い鎧に身を包んだ一行を見送るのだった。
次の日、モンスター退治に向かう。この国を我が物顔で歩くモンスターは獣の姿をしているものが多く、黒騎士達はハンティング感覚でモンスターを倒していく。
「同じ生物だと思って情けをかけるな! 敵であれば例え相手が同じ人間であっても非情になれ!」
食べる目的以外で獣を殺す事に戸惑いを見せるモルガーナに、ギルベルトは厳しい口調で声をかけた。彼女の命に関わるので、優しさと甘さをはき違えてはいけないとしっかり教え込まなくてはならないと思っていたのだ。
厳しい声をかけられてさすがに動揺するモルガーナの脳内にアガートラームの声が響く。
『心配するな。ギルベルト殿はお前の身を案じてあえて厳しい事を言っているのだ』
保護者の太鼓判を押されて安心し、更にギルベルトへの信頼感を増すモルガーナ。当のギルベルトはそのような声が掛かっているとは知らず、言う事を聞いてモンスターに向かっていく少女を素直な子だと思っていた。
それから数日かけて周辺のモンスターを倒していくうちに、黒い鎧が地平線の向こうに見えただけでモンスターが逃走するようになっていった。
「いいぞ、なかなか順調だ。そろそろ人を呼んでも良さそうだな」
ギルベルトがそう言うと、トーマスは
「準備は出来ているか? ……よし、では進入してくれ」
トーマスの部下は戦闘力こそ高くはないが彼の命令を遠隔地から受けて様々な工作を行う事が出来た。
そうしてエルドベアからやって来る職人や兵士達の中に、忌み子であるビアスも混じっていたのだった。
「ギルベルトさんか……どんな人なんだろうなぁ?」
彼の顔は希望に満ちていた。
ビアスは黒い鎧の英雄と会う事を何より楽しみにしていたのである。