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力を求めて

「騎士団となるって事は、俺達は全員騎士という身分になるわけだ。トーマスはまた別だが」


 ギルベルトが黒騎士団の団員を集めて訓示を行う。正式な騎士団になる以上、こういう形式的な部分もないがしろにしてはならないのだ。


「俺が生まれた世界には多くの国があり、それぞれに騎士団があった。俺が見習い騎士だった頃に世界が崩壊の危機に陥り、魔物との戦いに向かうようになったんだ。まあ昔話はこの辺にして、俺が学んだ騎士の心得について話そう。簡単に言うと騎士には強さだけではなく弱き者を守る気概が必要だ。団によっては貴族でもあるからと立ち居振る舞いなんかも厳しく言われるところもあったが、そんな上っ面を取り繕うようなプライドはいらないぞ。騎士の誇りは民の笑顔を守る事にあると思え」


 要するに堅苦しい事は考えないで民を守れという事である。トーマスはギルベルトらしいなと思い、若い騎士達はギルベルトの過去に興味を持った。


 こうして発足した黒騎士団は、再び騎士団長の指導下で鍛練の日々を過ごすことになるのだった。


(急いては事を仕損じる……ってのはどこの世界で聞いた言葉だったかな。まずはこいつ等を一人前に育てなくちゃな。焦ってまた混沌の主にやられたらどうにもならない)


◇◆◇


 その頃、オークの国キャニスターとコボルトの国デルフォンの中間にある島、勇者の聖域に依り代を運ぶケント達が到着していた。


「やっと着いたネ!」


 コレットがくるくると回りながらはしゃぎ回る。聖域で受けられる修業とはどんなものかとワクワクしながらやって来たのだ。フォックスバローから移動する間、依り代を運んでいるので早く歩けないケントを急かしたりしていた。


「もう鍛えられたような気がするよ。主に心が」


 ケントは甘ロリファッションの少女人形を抱えて歩くという、年頃の男子にとってかなりの苦行を乗り越えてきた。そして今、ついに聖域の管理者が待つ島の円形闘技場コロセウムへとたどり着いたのだ。不思議な達成感に包まれていた。


「ケント様、こちらへ」


 アイリスがケントを呼び、以前管理者の声を聞いた場所へと移動した。


「お兄ちゃんもでしょ!」


 マキアに背中を押され、アベルも二人に続く。


 すると、彼等の足元に座っていた人形が立ち上がった。


「よくやったな、疎通者コミュニケーターよ」


 空狐が乗り移った時と同じように滑らかな動きで喋り出すその声は、見た目通りの少女らしい鈴を転がすような声だった。


「疎通者?」


 コレットが首を傾げた。


「疎通者とは、秩序、混沌の主と言葉を交わす者の事だ。かつてこの世界を支配した神々は世界を護る者として複数の秩序の主を創り、世界を破壊する者として混沌の主を創った」


 管理者は旧支配者の話を始めた。その内容は概ねギルベルトがアガートラームから聞いた内容と同じだったが、少し詳しい部分があった。引き裂かれた神の動機だ。


「……あのお方は、閉じ込められた混沌の主を哀れに思い共にこの世界で暮らすために次元の狭間から救おうとした。混沌の主の力を失わせてな。その願いは果たせなかったが、十二個に別れた神を身に宿す者達にはその力が宿っている。次元の牢獄を破る力と、混沌を封じる力だ。私がお前達に教えるのは、正しい力の使い方。そして奴を守る強力な魔物達に対抗するための戦闘技術だ」


 疎通者としての力は無くても、強くなって戦闘で力になる為に仲間達も鍛えてくれると聞いてコレット、ジャレッド、マキアも喜んだ。


「ところで、管理者様のお名前を聞いてもよろしいですか?」


 アイリスに問われ、管理者は自己紹介をする。


「おお、そうだったな。私の名はコーネリア。この地の管理を任された秩序の主の一柱だ」


 こうして、ケントとその仲間達はコーネリアの指導の下、修行の日々を過ごす事になる。奇しくもギルベルトとケント、両方がほぼ同時に修行を始めたのだった。教える側と教わる側という違いはあるが。

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