あれから半年ほどの月日が過ぎた。ケント達がコーネリアの指導を受けている間に世の中は大きく変わっていた。
まず第一に、人間の世界で黒という色に対する認識が激変した。ギルベルト率いる黒騎士団は、これまで数少ない勇者が行っていたモンスター退治を進んで行い、人々からの信頼を勝ち取るまでになっていたのだ。
そして第二に、才能値というものの扱いが変わった。完全に無意味なものにはならないが、少なくとも低い事で表立って蔑まれる事は無くなっていた。現在の世界で最も強く、最も活躍している人間である黒騎士団長ギルベルトの才能値が『5』だからだ。
もちろん、内心才能値の低い者を見下す者は未だ多数派である。異世界人であるギルベルトだけが特別なのだと公言するものもいる。それでも、才能値が低い人間達の心に自分もあるいはという思いが生まれ、今までなかった『訓練』という概念が急速に広まっていき、人間全体の戦闘能力が飛躍的に高まっていった。
「お前達もずいぶん強くなったものだ」
ケント達を前に、華美な服装に身を包んだ少女人形が語る。修行が終わる時が来たのだ。
「へっへーん! この半年頑張ったもんネ!」
相変わらずのコレットが空中に浮かびながら胸を張って見せる。ジャレッドは自分の力こぶに見惚れていた。そんな二人を微笑ましく見守るアイリスも、さほど変わった様子はない。はしゃいで剣を振り回すマキアをアベルが危ないと叱る蛮族の兄妹も見た目に変わりは見られない。
だが、その実力は半年前とは比べ物にならない。
「具体的に言うと、現在のケントの戦闘力は才能値三十万相当、他のものも二十万以上の実力になる。分かっていると思うが、それほど強くなっても魔王軍の幹部と単独で渡り合うのは無理があるだろう。お前達の最大の強みはチームワークにあるという事を決して忘れるでないぞ」
ケントが一番強いのは、才能値の差もあるがギルベルトに教わった剣術を繰り返し鍛練していた経験によるものでもある。修業を始めた当初、コーネリアは彼を褒めた。
「ケント、お前の剣筋は素晴らしいな。師の教えを忠実に守り、強固な基礎を築いたお前は今後誰よりも伸びるだろう」
ケントは、自分よりもギルベルトを褒められたように感じて余計に嬉しくなった。コーネリアはその基礎を伸ばすように指導し、新たな教えは主に体の内に眠る神の欠片の力を引き出す方法であった。ケント達疎通者は神の力を用いて混沌の主の力を防ぐ技を身につけたのだった。
◇◆◇
ギルベルトは弟子を鍛えると共に、自分自身もアガートラームを頼り新たな力を手に入れていた。
「光竜の秘術かなんかを教えてくれよ」
とてもお願いする態度ではないが、光竜は快く引き受けた。さらに力を得ながら、ギルベルトは黒騎士団を率いて各地のモンスターを退治してまわる。そうして人々の信頼を得ながら、ずっと最後の疎通者を探し続けていたのだった。
エルバードにホロウスタッド、南の島々やオークの国キャニスター、コボルトの国デルフォンも回り、蛮族の地フォックスバローにまで到達したギルベルトは、ライオネルからケント達の活躍とアベルの事を聞く。
「なるほど、これで俺が把握した疎通者は七人になる。あと五人は……やはり北の地か」
ギルベルト、トーマス、イジュン、モルガーナ、ビアス。黒騎士団の基幹メンバー五人はフォックスバローから更に北にあるゴールドレイクへと向かう事にした。
実際には魔王軍に疎通者があと四人いるので、不明の疎通者はあと一人なのだが、その一人が何者であるかは全力で捜索している魔王軍すらつかめていないのが現状だ。
そして、北に向かう黒騎士団を遠くから観察する者達がいた。
「あいつらが探しているのは、忌み子か」
「どうするのだ、カストル殿?」
勇者カストルとアウローラだ。二人はエルバードに戻り、黒騎士団の結成を目撃する。勇者としての正義が揺らぐように思えたが、半年間ギルベルトと黒騎士達を観察して邪悪な存在ではない事は理解していた。
「あの騎士団長とは馬が合いそうな気がするんだがな、どうしても俺には忌み子が無害な存在とは思えない。ケントの件もあるからね」
アウローラはアイリスを思い眉をひそめたが、考えは同じだった。性格が善良であろうとも、存在そのものが悪である生物はいくらでもいるのだ。そしてそんな存在を情に流されずに倒すのが勇者の役目でもある。
「ま、今は先にやるべき事があるがね」
カストルの言葉にアウローラも頷く。勇者達は常に人の世の安定のために剣を振るっている。その彼等が今やるべきは、忌み子を敵視する事ではないのだ。
◇◆◇
「さて、修行を終えたお前達は早速ゴールドレイクへと向かうのだ」
その頃勇者の聖域にいるケント達もまた、コーネリアから北の地ゴールドレイクを目指すように言われるのだった。