ケント達が無事召喚されていくのを見送り、ギルベルトは息をつく。
「さあ、これ以上近づいたらぶった斬るぜ」
集まってくる龍に向かって、剣を構える。目の前には次元門に飛び込んでいく人々。話によるとディメンションワームは次元門の中にまで追ってくるようだ。全員が通り抜けるまで防がなくてはならない。
「俺達も戦いますよ!」
クラレオをはじめとするギルベルトの弟子達が武器を構え、参戦する。
「おう、あいつらは図体がデカ過ぎて一度には襲ってこれない。敵の多さに惑わされるなよ」
ギルベルトは彼等に指示を出した。自分が戦う術を教えたのだ、頼るべき仲間として認める事が、自分がこれまでやってきた事を肯定する事に他ならない。
龍の吐息を多重の障壁で防ぎ、魔法で連続攻撃をしていく。近づけば、ギルベルトが強力な斬撃をお見舞いした。
非戦闘員が全員次元門に入ると、弟子達を一人ずつ逃がしていく。一人離脱する度に、残った者の負担が増える。誰もが残りたがるが、ギルベルトは力量と関係なく目についた順に離脱させていった。弱い順では先に指名された者の自尊心を傷つけるからだ。
そのために弟子の中でも中心的存在のクラレオや防御に長けるルンバーノも早い段階で離脱させた。
「さすがにきつくなってきたな」
最後の一人を次元門に放り込むと、不敵に笑った。ここで気を抜けば、次元門に龍が殺到する。いっそう気合いを入れて守らねばならないのだ。
全力で吐息を押し返す。いくつもの稲妻が身を打つ。次元門に頭を突っ込もうとした龍の額を剣で突き、牙が胴を掠める。
『ゴロロロロ……』
龍の唸り声を聞きながら、次第に意識が朦朧としていくのを感じた。
「もう少し、あと数秒でも……」
なんとかして、全ての仲間を無事に元の世界に帰す。どうせ自分はフレスガルドの人間ではないのだ。いつ死んでもいい天涯孤独の身。だから、命の火が消えるまで、戦い続けてもいい。
「愚かな事を考えるな」
自分の身を犠牲にしようとしていたギルベルトを叱る声。身体が優しい光に包まれ、怪我が治っていく。
振り返ると、そこには銀髪の少女人形が立っていた。
「親父さんと妹はどうした?」
身体にも、心にも活力が漲るのを感じながら近くにいた龍の首を斬り飛ばした。口から出る言葉も軽い。改めて、一人ではないという事の心強さを感じる。
「もうしばらくは二人で過ごしてもらうさ。それよりも、さっさと出るぞ。お前が通らないと次元門が閉められないだろうが」
そう言ってギルベルトの手を掴み、一緒に門へ飛び込む。黒騎士は引かれる左腕の心地よさを噛み締めていた。
◇◆◇
あれから一年が過ぎ、世界は新たな姿を見せている。
エルバードの議会は、トーマス議員を核心として多種族間交流を進めていた。ザッハークは魔王軍と通じていた事が勇者カストルに告発され、失脚。
ジョディの両親は娘を失った悲しみに暮れていたが、そんな彼等を慰めたのはモルガーナだった。彼女は二人の義子となる。
黒騎士団は、ビアスを団長ジョッシュを副団長として、幅広い種族から団員を受け入れていた。ゴブリンのジャレッドが入団を希望した事がきっかけである。オークのレオノーラも入団し、毎日のようにジャレッドの求愛を受けてはあしらいつつも、まんざらでもなさそうにしている。
才能値を測る風習は廃止された。混沌の主が力を封印され、生まれつき高い戦闘力を持つという事が無くなったからだ。相変わらず、人間やその友好種族に害をなす『モンスター』は多数存在し、この世からいなくなる事はない。勇者のような特別な存在に退治を任せる事はなくなり、代わりに冒険者達がモンスターと戦う機会が増えた。マキアは冒険者となって各地を飛び回り、フォックスバローで祭司を勤める兄のアベルを心配させている。
ケントは、アイリスと結婚していた。もうすぐ第一子が誕生するようだ。ギルベルトは、新しい世界の形に満足しながら、議会へと向かった。
「トーマス、頼みがあるんだ」
多種族の代表者が集まり、世界のインフラ構築等の話し合いをしている会議の場で、ギルベルトが議長のトーマスに請願をした。この場にはオークのボブ、コボルトのフロリッツ、
「もう準備はできていますよ」
何も言わないうちに、トーマスはにっこりと笑って答えた。
「まだ何も言ってないぞ?」
困惑するギルベルトの左肩に、突然重みが加わった。
「悪い神様をやっつけにいくんでショ?」
妖精のコレットが、いたずらっぽい笑顔で話しかける。彼の考えはお見通しだと言わんばかりだ。
「どうせ一人で行こうとするだろうから、僕達も一緒に行く準備をしてきたんだよ!」
右肩にリスのラタトスクが登ってしがみつく。
「……仕方ねぇな。頼りにしてるぜ」
呆れたような口調だが、自然と頬が緩むのを感じるギルベルト。頼れる仲間がいる素晴らしさは痛感している。
「クウコ、アガートラーム、ミダース、コーネリアの四神に協力を仰ぎました。イエネオス神の加護により、異世界への移動が簡単に行えるようになります」
「いつの間に!?」
淡々と説明するトーマスのあまりの手際の良さにギルベルトが驚愕する。
「まさか私を置いていくつもりじゃないよね?」
そこに、背後からなぜか抜き身のクラウ・ソラスを持ったモルガーナが笑顔で問いかけた。
「コールドウェル夫妻の許可は頂いております。アガートラーム神からは『泣かせたら許さん』というお言葉を頂戴しました」
「まてまてまて!」
完全に外堀が埋められている。ギルベルトは絶体絶命のピンチに立たされた気分になっていた。
「さあ行きましょう、邪神からいくつもの世界を守りに!」
「ケント!? お前妻と子はどうする気だよ!」
いつの間にか隣で気合いを入れているケントに、またもや驚きの声を上げる。
「だからこそです。ギルベルト様が必ず私達の所へ帰ってきて下さるように。ケント様の事をよろしくお願いします」
身重のアイリスが、補足する。全員隠れて待っていたようだ。
「ウチも忘れんといて!」
マキアが転がり込むように入り口から入ってきた。父親のライオネルが「気をつけてな」と声をかけている。
「なんで俺に声をかけてくれないんッスか!」
さらにイジュンも駆け込んできた。
「……賑やかな旅になりそうだな」
ため息をつき、観念したギルベルトは必ず七人揃ってこの世界に戻って来ると心に誓った。
「ギルベルトさん、あなたはもう一人ではないんです。今度こそ置いていかないで下さいね」
そう言ってケントが右手を出すと、ギルベルトは力強く握手するのだった。