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第6話 裏切り

 トウヤのいる小屋は、屋敷から徒歩で三十分ほど行った場所にある。

 森を抜けていくと、少し開けた場所に出た。


「こんなところに小屋があったとはな」

「うん。前に散歩していた時に見つけたの。多分誰も知らないと思う」


 トウヤはまだいるだろうか。

 小屋の扉をコンコンと叩く


「トウヤ、私よ。いる?」


 いつもあるはずの返事がない。


「……開けるよ?」


 ガラガラと扉を開く。小屋の中は真っ暗だった。


「トウ、ヤ……?」

「なんだ留守か?」

「うん……出掛けてるのかな。トウヤ―――」


 ふと何かの気配を感じ、部屋の奥を見た。


「……え!?」


 そこには、全身を毛で覆われた男がいた。

 殺気を放ちながら、いきなり襲い掛かってくる。


「うっ……!」


 楪は動揺して動けなかった。

 雅は素早く反応し、持っていた刀で攻撃を受け止める。

 刃を爪がぶつかり、カタカタと音を立てる。


「はっ! これはまた、随分手荒な歓迎だな!」

「———あなたもしかして、トウヤ!?」


 そこには狼の獣人がいた。

 いつものトウヤの姿ではなく、頭から耳が生え、鋭い爪や牙が暗闇に光っている。

 すぐにはわからなかったが、どこか彼の面影がある。

 トウヤは攻めきれないと判断すると、身を翻して距離を取る。


「楪……やはり俺を殺しにきたのか……!」


 愛憎入り混じる声。

 彼の言葉に、楪は激しく動揺する。


「え、トウヤ……なんのこと?」

とぼけるな! 俺は……俺は信じていたのに……! 結局君は仲間を連れて来た! お前もあいつらと同じだ!」

「待って! 違うのトウヤ、話を聞いて!」

「五月蝿い!」


 トウヤが再び襲いかかってきた。

 雅も冷静に刀を構える。


「やれやれ…そういうことか」

「待って、お姉ちゃん! 殺さないで!」

「安心しろ。命までは取らん……が、少しお説教をしてやろう!」


 雅は刀身に手をかざす。

 霊力を込められた刀は紫色の輝きを放ち、妖刀へ変化する。


「神籬の力、見せてやろう!」


 迫りくるトウヤの爪と牙。だがそれは激情に任せた一直線の軌道。

 雅にとって、そのような単調な攻撃を捌くのは造作もないことだった。

 トウヤの渾身の一撃を受け流し、逆に弾き飛ばす。


「なっ……!」

「若造、かなり痛いが耐えろよ! 男ならばな!!」


 袈裟切りの一閃。

 体制を崩して無防備な体へ、光り輝く斬撃が、トウヤの体を一直線に切り裂いた。


「がっ……! ぐ、ぐうぅ……」


 不思議なことに、切られた傷口から血は一切出ていなかった。

 トウヤは呻きながら、その場に倒れた。


「トウヤ……! お姉ちゃん!」

「心配するな。肉体は切っていない。暫くすれば目を覚ますだろう」

「ほ、本当に……? 確かに今、刃が入ったように見えたんだけど……」

「やれやれ……お前はまだまだ修行が足りんな」


 そう言って雅は刀を鞘に納めた。



 ******



「う、うぅ……」

「あっ! 目が覚めた! トウヤ……!」


 楪は彼にぎゅうと抱きついた。


「トウヤ……ちゃんと生きてるよね……! よかった……!」

「ゆ、楪……これは一体……」


 トウヤが戸惑っていると、雅が近づいてきた。


「私は楪の姉の、雅という。お前が急に襲いかかって来たので、やむを得ず無力化した。今日の私は、ただのボディガードだ。お前を殺すつもりは毛頭ない」


 トウヤは訳もわからずキョトンとしていたが、次第の状況が呑み込めてきたようだった。


「……つまり、お前は俺を殺しにきた討魔師ではないんだな?」

「ふっ、妖魔の目が覚めるまで待つほど、私は敵に対してお人好しではない」

「……そうか。すまなかった。俺はてっきり……」

「妹から事情は聞いている。今回ばかりは妹に免じて水に流してやろう」

「ごめんねトウヤ……私たち、貴方に聞きたいことがあって来たの」


 楪は事の一切を話し始めた。

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