トウヤのいる小屋は、屋敷から徒歩で三十分ほど行った場所にある。
森を抜けていくと、少し開けた場所に出た。
「こんなところに小屋があったとはな」
「うん。前に散歩していた時に見つけたの。多分誰も知らないと思う」
トウヤはまだいるだろうか。
小屋の扉をコンコンと叩く
「トウヤ、私よ。いる?」
いつもあるはずの返事がない。
「……開けるよ?」
ガラガラと扉を開く。小屋の中は真っ暗だった。
「トウ、ヤ……?」
「なんだ留守か?」
「うん……出掛けてるのかな。トウヤ―――」
ふと何かの気配を感じ、部屋の奥を見た。
「……え!?」
そこには、全身を毛で覆われた男がいた。
殺気を放ちながら、いきなり襲い掛かってくる。
「うっ……!」
楪は動揺して動けなかった。
雅は素早く反応し、持っていた刀で攻撃を受け止める。
刃を爪がぶつかり、カタカタと音を立てる。
「はっ! これはまた、随分手荒な歓迎だな!」
「———あなたもしかして、トウヤ!?」
そこには狼の獣人がいた。
いつものトウヤの姿ではなく、頭から耳が生え、鋭い爪や牙が暗闇に光っている。
すぐにはわからなかったが、どこか彼の面影がある。
トウヤは攻めきれないと判断すると、身を翻して距離を取る。
「楪……やはり俺を殺しにきたのか……!」
愛憎入り混じる声。
彼の言葉に、楪は激しく動揺する。
「え、トウヤ……なんのこと?」
「
「待って! 違うのトウヤ、話を聞いて!」
「五月蝿い!」
トウヤが再び襲いかかってきた。
雅も冷静に刀を構える。
「やれやれ…そういうことか」
「待って、お姉ちゃん! 殺さないで!」
「安心しろ。命までは取らん……が、少しお説教をしてやろう!」
雅は刀身に手をかざす。
霊力を込められた刀は紫色の輝きを放ち、妖刀へ変化する。
「神籬の力、見せてやろう!」
迫りくるトウヤの爪と牙。だがそれは激情に任せた一直線の軌道。
雅にとって、そのような単調な攻撃を捌くのは造作もないことだった。
トウヤの渾身の一撃を受け流し、逆に弾き飛ばす。
「なっ……!」
「若造、かなり痛いが耐えろよ! 男ならばな!!」
袈裟切りの一閃。
体制を崩して無防備な体へ、光り輝く斬撃が、トウヤの体を一直線に切り裂いた。
「がっ……! ぐ、ぐうぅ……」
不思議なことに、切られた傷口から血は一切出ていなかった。
トウヤは呻きながら、その場に倒れた。
「トウヤ……! お姉ちゃん!」
「心配するな。肉体は切っていない。暫くすれば目を覚ますだろう」
「ほ、本当に……? 確かに今、刃が入ったように見えたんだけど……」
「やれやれ……お前はまだまだ修行が足りんな」
そう言って雅は刀を鞘に納めた。
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「う、うぅ……」
「あっ! 目が覚めた! トウヤ……!」
楪は彼にぎゅうと抱きついた。
「トウヤ……ちゃんと生きてるよね……! よかった……!」
「ゆ、楪……これは一体……」
トウヤが戸惑っていると、雅が近づいてきた。
「私は楪の姉の、雅という。お前が急に襲いかかって来たので、やむを得ず無力化した。今日の私は、ただのボディガードだ。お前を殺すつもりは毛頭ない」
トウヤは訳もわからずキョトンとしていたが、次第の状況が呑み込めてきたようだった。
「……つまり、お前は俺を殺しにきた討魔師ではないんだな?」
「ふっ、妖魔の目が覚めるまで待つほど、私は敵に対してお人好しではない」
「……そうか。すまなかった。俺はてっきり……」
「妹から事情は聞いている。今回ばかりは妹に免じて水に流してやろう」
「ごめんねトウヤ……私たち、貴方に聞きたいことがあって来たの」
楪は事の一切を話し始めた。