本殿の一角にある小さな客間に通される。
畳の香りがほのかに漂い、窓の外には一面の星空が映っていた。
「……しかし、いまだに信じられないよ。本当に死ぬかと思ったんだから」
トウヤはまだ動悸が収まらないようだった。
それだけ妖魔にとって、討魔師というのは恐怖の象徴だったのだ。
楪が隣に座り、クスっと笑う。
「うん、でも良かった。トウヤがここにいてくれるだけで、私、安心できるよ。……ねぇ、こっちに来て?星がよく見えるよ」
楪が手招きする。
灯りを落とした部屋で、二人は窓辺に座り、星空を見上げた。
「……綺麗だな。俺、今までこうやって、ゆっくり星を見上げることも無かった」
「ここは森の中だから、町の明かりが少なくて、とっても綺麗に星が見えるの。でも、トウヤと一緒に見る空は、なんだか特別な気がする」
トウヤが楪の手にそっと触れる。
「……楪、俺は絶対に修行を終えて帰ってくる。半年後、またこうやって一緒に星を見よう。……そうしたら、今度はもっと近くで、君を抱きしめてもいいかな?」
楪が顔を赤らめる。
「……うん、いいよ。……私、ずっと、ずっと待ってるから」
そう言って、首から下げていたお守りをトウヤに手渡す。
「これ、小さい頃にお父様に貰ったお守りなの。私が挫けそうなとき、いつも助けになってくれた。トウヤに預ける」
「いいのか?そんな大切なもの……」
「いいの。トウヤが無事に帰って来ますようにって。そのお守りが、会えない間、私のかわりだと思って欲しい……でも、必ず返しに来てね?」
「……! あぁ。必ず、必ず返すよ」
星空の下で、ふたりは見つめ合った。
静かな夜が更けていく。