俺達はお化けマンションの一件を解決し、少しゆっくりと休んでいた。
そんな紗夜が俺の弟
「のう、何故そんな泥水を飲んでおるのじゃ?」
「紗夜ねえちゃん、これ、コーラだよ」
「甲羅……とな、ひょっとしてその亀の印からして亀の生き血を飲んでおるか?」
紗夜がなんだか気持ち悪そうな顔をしている。
どうやら地元のお土産屋のカメコーラのシールを見て亀だけに甲羅、亀の生き血と勘違いしているみたいだ。
試しに一杯コップにコーラを注いであげたんだが……。
――この時紗夜にコーラを上げなかったらどうなっていたんだろうか。
「な、何なのじゃ。この何とも言えん甘さと旨さ、それに口に来るシュワシュワとした感じ、これは……神の飲み物なのじゃ!!」
「それ、ただのコーラだよ」
「巧、もっとじゃ。ワシにもっとその甲羅をよこすのじゃ!!」
紗夜はあっという間に瓶三本のカメコーラを飲んでしまった。
これ、地元の亀山飲料が作っていたものの地元スーパー特売まとめ売りの最後の数本だったんだけどな……。
「ごめん、もう切れちゃったんだ」
「な、何じゃとぉー、もう甲羅は無いのか」
「コンビニのコーラなら売ってるけど」
「う、うむ。甲羅ならそれでいいのじゃ」
紗夜は俺を連れて近所のコンビニに向かった。
そこで俺は市販品のポカコーラの二リットルペットボトルを買ってやり、紗夜に渡した。
「お、大きいのじゃ、コレは飲みごたえありそうなのじゃ」
「そうだね、それじゃあかえってみんなで飲もうか」
「う……うむ、わ、分かったのじゃ」
あ、これ、一人で全部飲みたかったやつだな。
仕方ない、もう一本買って俺が持ってやるか。
俺はコーラを後一本追加で買って、持つことにした。
すると、紗夜がお菓子コーナーからぽてりこを持ってきたので、ついでにそれも買ってやることにした。
上機嫌で帰った紗夜は、コーラを飲みながらぽてりこを食べ始め、感動していた。
「そう、こ、これじゃ! これこそワシの求めていた理想の生活なのじゃ」
オイオイオイ、コレ完全にゴロニート生活じゃないかよ。
まあ横にいる満生さんはスマホポチポチしながらアームストロング缶チューハイを飲んでるけど。
この二人、完全にじいちゃんの部屋を自分達の居場所にしているな。
まあ、じいちゃんが認めたんだから、部屋をきれいに片付けるのも自己責任なんだけど、紗夜のいる側はきれいになっているのはあのヤンキー達に片づけさせているのだろうか。
満生さんは変Tとかに触られたくないらしく、自分の分は後でやるから良いと言って触らせず、そのまま放ったらかしだ。
最近部屋にアームストロング缶チューハイの缶と変Tシャツが無造作に積まれている。
さすがに子ザルの中のじいちゃんもそろそろ怒ってもおかしくなさそうな状態だ。
「そろそろ来るはずや、そうや、そのまま上がれ、上がるんやー!!」
「のう、おぬし。いったい何をしておるんじゃ?」
「うっさい、話しかけんな、このぽぽぽん姫」
「ぽぽぽん姫じゃと!? それはどういう事じゃ」
どうやら満生さんは何かスマホで必死に目を見開いて何かをやろうとしているようだ。
見た感じ、スマホゲームでは無さそうだ、指の動きがパズルゲームやアクションゲームのものとは違う。
俺もたまにパズルゲームやクイズゲームをやるからやる人の動きはよくわかっている。
「あーーーー! 落ちたぁー、あーしの全財産がー!!」
あ、これ、株でデイトレでもやってたんだな。
前回のお化けマンションの怪異騒ぎを鎮めた事で佐藤武蔵建設からはツムギリフォームに結構な報酬額が入った。
俺はその分の働きに紗夜や満生さんがかかわってくれたのを分かっていたので二人の分もお金を用意した。
満生さんはその元手を使ってデイトレをしたみたいだけど、それが一気に溶けてしまったって事か。
すると、紗夜が何とも悟ったようなジト目で満生さんの肩を叩き、一言つぶやいた。
「諸行無常じゃのう……」
「うっさいわ、このぽぽぽん姫ー」
「じゃからそのぽぽぽん姫っていったいどういう事じゃ」
確かに俺も気になる、何故満生さんは紗夜の事をぽぽぽん姫と言うようになったんだろうか。
ちょっと前はぽんぽこ姫だったはずなのに。
「あのなー、アンタ、ぽてりこ好きやろ」
「うむ、ぽてりこのない生活なぞ、もう考えられんのじゃ」
「そんでー、いつもぽんぽこタヌキ着ぐるみパジャマ着とるやろ」
「うむ、タクミが可愛いと言ってくれたからのう、これがワシの一番具足なのじゃ」
まあ、たしかにぽんぽこタヌキ着ぐるみパジャマは俺のせいだけどね。
今は洗濯中で俺の中学時代のジャージ着てるけど。
「それにその今持っとるポカコーラが加わったやろ。だからぽてりこ、ポカコーラ、それにぽんぽこタヌキ着ぐるみパジャマ、それ三つ合わせたらぽぽぽん姫やろが!」
「な、何じゃと、ワシはぽぽぽん姫なのか!」
い、いや、そこ別に驚くとこでも何でもないから。
てかこの二人、本当に最近姉妹みたいな感じだよな。
しかしさすがの紗夜もこのぽぽぽん姫呼ばわりは恥ずかしかったようで、顔を真っ赤にして満生にコーラの空いたペットボトルを投げつけた。
ぺコーン。
「あー、何すんねんこのぽぽぽん姫!」
「変なあだ名をつけるで無いわ! ワシはぷりんせす・さーやなのじゃ!」
「何がプリンセスや、プリンでも食っとれや」
あーあ、またしょーもないケンカが始まった。
こうなったらしばらく放っておくしかないな。
「社長、お電話です。紀國市役所からなのですが」
「わかりました、すぐ出ます」
俺は倉持さんから電話を引き継いだ、でも市役所から電話? ツムギリフォームが何かやったわけじゃないだろうけど、いったい何なのだろうか。
「はい、代わりました、社長の積木です。え? 玩具屋敷??」
どうやら市役所から入ってきた電話は、俺達に事故物件の解体を依頼する話だったようだ。
その場所は市の郊外の一軒家で、その家は玩具コレクターの家だったそうだが、この家の持ち主のデイトレーダーがバブル崩壊で自殺、その後空き家になっていたのを取り壊そうとするも、家に入った瞬間玩具の軍団に襲われて何人もが怪我をしたらしい。
その曰く付きの玩具屋敷を俺達なら解決できると思い、依頼してきた形か。
まあ前回、軍需工場跡地のお化けマンションの怪異問題を無事解決した話が市役所関係者にも伝わったんだろうな。
あのお化けマンション跡地はショッピングモールららもーととして数年後に完成予定だ。
その工事の際には内装とかでツムギリフォームにも仕事を回してもらえるように交渉しておいた。
まあその着工はしばらく先なので、それまでの間、別の仕事はスポットでも入れておいた方がいい。
そういう点ではこの玩具屋敷の解体は一度見積もりに行った方が良さそうだな。
俺は市役所の職員立会いの下、玩具屋敷と呼ばれている一軒家を調べる事になった。
その際には紗夜と満生さんもついてくるようだ。
仕事としては甚五郎さんやペドロ達も来る事になった。
とくにこの中でもペドロは玩具屋敷と聞いて、一番目を輝かせていたくらいだ。
「オモチャヤシキのゴーストハウス、とても興味がありマース! どんなオモチャがあるか、非常に楽しみデース!!」
まあ、外国人アニメ特撮マニアのペドロさんにしたら、そりゃあ喉から手が出るほど欲しいような玩具があるかもしれないな。
そして、数日後、市役所の職員立会いの下、俺達は玩具屋敷と呼ばれる一軒家に到着した。