建物の二階は一階のボーイズトイ、つまりは男の子向け玩具と違い、キャンディートイや女の子向けの変身グッズ等が棚のガラスケースに並べられていた。
しかしそれもガラスケースの中で光ったり音を鳴らしたり小さな玩具達が棚の上でわちゃわちゃ動いているので不気味といえば不気味、ここが常識の通用しない場所だと言っているようなものだ。
俺達はどうにか玩具のいない台所のダイニングルームに逃げ込んだ。
ここに在るのはせいぜい賞味期限の切れた菓子や子供向けクッキングごっこの玩具と型の古いレンジくらいのものだ。
俺達はここでドアを閉めて少し休む事にした。
窓の外には鬱蒼とした雑草や木が生い茂り、濁った水の中にはロボットの頭部だけが出ていて不気味な池がある。
そしてその反対側にはせり上がりかけた途中で風化した壊れた発射口が中途半端に開きさらに不気味さを増している。
どうやらここは元々庄屋の大屋敷だったものをこの家の主が買い取り、玩具屋敷にしたもののようだ。
だから二階の窓から見える庭や家の離れの土蔵など、旧家にふさわしい造りだとはいえる。
俺達はその台所で子ザルの作造の中のじいちゃんに話を聞いてみる事にした。
「なあ、じいちゃん。なんでじいちゃんはあの船の弱点を知ってたんだ?」
「アレはな、わしが作ったもんなんぢゃ。あの軍艦の名前は
そうなんだ、じいちゃんが戦争経験者だとは知っていたが、じいちゃんは俺にはそういった話をしなかったから俺にとってこれは初耳だった。
「天鷹は元々、熱田丸という豪華客船でな、食堂はそのまま熱田丸と書かれておったわい。そうそう、ライスカレーが絶品ぢゃったなー」
……その後しばらくじいちゃんの昔語りが続いた、まさか生前にはじいちゃんが軍艦乗りからガダルカナル島の飛行場建設に回されて死にかけたなんて、まったく聞いた事なかったな。
まあそれだけの危機を乗り越えたから、食べ物を粗末にする事には物凄く厳しかったのも納得だ。
「アレはわしが児童館の子供達にプラモの作り方を教えた時に、せっかくならその飛行機を乗せられる船が欲しいと言われてな、それで建築の廃材を使って数か月で完成させたんぢゃ」
「作造さん、あの時部屋に誰も入るなって言ってましたからね、完成品見た時はビックリしましたよ」
そうか、あの今の
「ふむ、ワシが知っておる中ではあれほどの
「あーしは神戸ならちょこちょこ行ったから潜水艦とか大型の客船なら見たことあるけど、あんなでっかい戦艦は知らんわー」
「満生ちゃん、アレは戦艦じゃなくて空母ぢゃ。アレは軽空母といっての」
「そんなん知らへんわー、戦艦なんてどれも同じに見えるわな、アームストロング缶チューハイとか酒の銘柄なら全部わかるねんけどなー」
今日の満生さんのTシャツには――日本酒風呂に入りたい――と書いている。
彼女の酒好きを象徴しているかのようなTシャツだけど、作造の中のじいちゃんはそんな満生さんに呆れていた。
「まあええわい。それよりどうにかこの屋敷を出ん事にはどうも出来んぞ」
「ワタシはここ楽しいからもっといたいデース」
「おいペドロ、こんな所に居たらいくつ命があっても足りんぞ、それでも居たいのか?」
「ジンゴローサン。さすがにそれは勘弁デース」
ペドロさんに甚五郎さん、二人とも少しは落ち着けたのかな。
俺達は少し休んで休憩した後、台所から外に出る事にした。
こういう大きな庄屋屋敷は、階段が一つだけとは限らない、あのプラモやロボット軍団の攻めてきた階段とは別の降りる階段があってもおかしくないはずだ。
俺達は台所から廊下に出て、別の階段を探すことにした。
水が通っていないのとまさかこんなに時間が長引くと思っていなかったのでもうペットボトルの飲み物は尽きてしまっている。
まあ、紗夜だけは自分ででっかいポカコーラの2リットルを持ってきていたので、俺達は彼女に少しずつ分けてもらい、喉を潤した。
「これはワシのものなのじゃ! と言いたいところなのじゃが……仕方のないヤツらじゃの、ほれ、ワシの甲羅を分けてやるのじゃ」
コップはそのあたりにあったものを借りたが、それも全部アニメのヒーローや魔女っ娘などがプリントされた子供サイズのコップが大半だったので、もしここの主がいたら勝手に使うなと怒られそうだ。
ペドロさんはみんなの持っているコップをまじまじと見ている。
「おい、ペドロ。もう行くぞ」
「わ、わかりまシタ、ジンゴローサン」
ふう、この先が思いやられる。
階段を探してうろつく俺達は二階の玩具の中を歩いた。
まあ足の踏み場が無いと言えばそうなのかもしれないが、これだけの巨大な屋敷でもびっしり玩具が積まれているって、いったい総額いくらくらいになるのやら。
二階には女の子の魔女っ娘変身用衣装やステッキなどが多く、どうやら一階は人に見せても屋敷の主が男性なら二階はあまり他人に足を踏み込まれたくない場所だったのかもしれない。
えっと、コレは母さんの部屋で昔見た覚えがあるような、確か……魔法のアイドル、なんとかエイミだったっけ。
掃除していた際に見つけて、母さんが顔を真っ赤にして倉庫にしまったっけ。
まあ俺も満生さんの事はとやかく言えないな、知らないものはどれも同じに見えてしまう。
俺達は女の子向け玩具の山を潜り抜け、別の部屋に入った。
「なんじゃこりゃぁー!?」
俺達の入った部屋に有ったのは、巨大なぬいぐるみの山だった。
なるほど、コレは大きくてかさばるから別の部屋が必要だったのか。
その中でも特に目立ったのが、巨大なゴリラのぬいぐるみだった。
そのゴリラのぬいぐるみ、学ランに鼻眼鏡のグラサン、そして巨大な腕と小さな足のユーモラスな体形で、右手にぽてりこを模したスティクのぬいぐるみ、左手にぽてりこの器を持った変なデザインだった。
「ウソやろ、あれあーし以前神戸の高架下の怪しい店で昔見たことあるで、確か、ぽてりこんぐやったっけ」
「ぽてりこんぐじゃと? それはぽてりこに関係があるのか?」
「せやなー、昔ぽてりこの販促用に作られたキャラグッズやな、他にもぽてりこあら、とか、ぽてりこおろぎ、とかぽてりこまいぬとかおったで」
色々あるんだな、その販促キャラ、でも、ぽてりこおろぎ、絶対に嫌な予感しかしない。
たぶんあのぬいぐるみの中のゴキブリっぽく見える奴だろうな。
ありゃあ人気出ないのも当然だ、というかよく企業があの企画を通したな。
他のぽてりこ販促グッズぬいぐるみもいろいろあったが、その中でも群を抜いて大きかったのがぽてりこんぐだ。
そして……ぽてりこんぐと呼ばれたぬいぐるみはいきなりジャンプしたかと思いきや、俺達を踏みつけようとしてきた。
「オーマイガーッ!! パパよ助けてくだサーイ!!」
「ななな、何じゃぁ!!」
やられるっ! そう思った時。
「ほう、おいたが過ぎるのう、この大猿ふぜいが。ワシの家臣に手を出すとは、お仕置きが必要じゃのう」
紗夜がぽんぽこタヌキ着ぐるみパジャマのままぽてりこんぐの踏みつけを手で防護し、不敵な笑みを浮かべた。