ぽんぽこタヌキ着ぐるみパジャマ姿の
「ほう、良い面構えをしておるな、相手にとって不足は無しじゃ、ワシと相撲対決と行こうではないか!」
え? と思った俺だったが、相撲って思ったより歴史が古くて昔は神事扱いだったんだな。
――と考えていた俺がバカだった。
紗夜とぽてりこんぐが始めたのは、どう見てもプロレスそのものだったからだ。
相手の身体を掴んでは投げ飛ばし、体を組んでは関節締め、コレのどこが相撲なんだろうか。
まだ古武術の柔術だと言った方が通用しそうな番外乱闘だ。
ぽてりこんぐの攻撃で紗夜のぽんぽこタヌキ着ぐるみパジャマのフード部分がめくれて残念な美少女の顔がむき出しになっているのがまたなんというか可愛いけど変というべきか……。
そしてその紗夜は不敵なドヤ顔でぽてりこんぐを反対につかんで畳の上に頭を叩きつけようとしていた。
「これがワシの相撲技、脳天兜割りじゃぁぁ!」
いや、それどう見てもただのパイルドライバーだからね。
呆れた表情でプロレス騒動を見ている俺と違い、子ザルの作造の中のじいちゃんや、甚五郎さんは目をキラキラと輝かせている。
「おお、懐かしいわい。街頭プロレスの牧道山対ジャントニオ井場を思い出すわい」
「いやいや、作造さん。これは牧道山対ザ・ダストロイマシーンの伝説の一戦ですよ、いけ、そこだ、マキ・ラリアットだ!!」
このジジイ達、いったい何を言っているんだろうか。
俺には全く理解できないが、じいちゃんと甚五郎さんはぽてりこんぐと紗夜のプロレス対決を見てかなり興奮している。
呆れ気味な俺達をよそに、昭和組のじいちゃん達はかなりハッスルしている。
だが、それに感化されてきたのが満生さんで、俺の首にグッと手を回して抱え込んできた。
……いや、大きな胸が俺の顔の前にあって、あまり正気保てそうにないんですが。
「ええやんええやん、あーしも興奮してきたで、いけー、そこやー。いてもたれー!!」
「お、満生ちゃんもプロレスの良さわかってきたか、わしと一緒に応援するか」
じいちゃんの誘いに対し、満生さんがグッと高く左手の拳を突き上げた。
「せやなー、おーいぽぽぽん姫、そんな奴に負けるんやないでー」
満生さんの応援を受けた紗夜は、さらに気合を入れた。
ぽてりこんぐの巨体をぐいっと引き寄せ、畳をギシギシいわせながら持ち上げる。
「見よ、これぞワシの奥義、直下型鎌首落としじゃぁぁぁ!!」
叫びながら叩きつけたその技は、ただのギロチンドロップにしか見えなかった。
「よっしゃー! 決まった! ぽぽぽん姫最高やぁぁぁ!!」
「ぐっ……! な、なんか俺も……盛り上がってきたかも……!」
気付けば俺も満生さんたちと一緒に、タヌキ着ぐるみ美少女のプロレスを拳を握りしめて見守っていた。
いかんいかん、この変な空気に俺まで染まったら、だれが収集をつけるんだ。
「うおおー、そこやそこや、捻り潰したれぇぇ!」
満生さんの興奮は最高潮で、俺の首をがっちりホールドしたまま、ぐいぐい力を込めてくる。
いや、あの、俺、別に戦ってないから。観客だから。
そして顔の真正面、大きなおっぱいが、柔らかい衝撃でぐにゅっと……。
「……ぐ、ぐるじい……」
幸せなのか苦しいのか、わからなくなった俺は、変な声を漏らしていた。
一方の紗夜はぽてりこんぐの両足を持ち、遠心力で大きくぶん回した。
「これがワシの必殺技、大回転旋風投げじゃぁぁ」
いや、それただのジャイアントスイング。
どうやら戦国生まれの紗夜は外来語をあまり知らないようで、プロレス技を自己流に名前を付けているものの、どれもこれもが血なまぐさい物騒な名前ばかりになっている。
「これがワシの必殺技、裏諸手投げじゃぁ!」
いや、それただのバックドロップだって。
他にも……。
・血飛沫砕破落とし(ただのDDT)
・天地連山流し(ただのリバーススープレックス)
・烈風牙突落とし(ただのショルダースルー)
・荒波寄せ斬り(ただのクロスボディ)
・鳳凰天翔突き(ただのダイビングボディプレス)
これ、本当にプロレス知らないのだろうか、本当は知っているけど技名を知らないってやつなんだろうか。
紗夜とぽてりこんぐの死闘は三十分以上続いている。
辺りにあったぬいぐるみは巻き添えを逃れる為か、すごすごと俺達の後ろに隠れてきた。
こあら、こがねむし、こおろぎ、このはずく、こまいぬ、こりー、こよーて、こんどる。
それは全部ぽてりこ販促シリーズだったみたいだが、よくもまあこれだけ全部揃えたもんだ。
これ全部ダジャレで名前つけてるだろ。
その中でも異質を放っているのがあのぽてりこんぐというとこか。
紗夜とぽてりこんぐのプロレス対決は、お互いかなり疲労しているみたいだがまだ続いている。
そして技の応酬の後、紗夜が鮮やかなコンボ攻撃を決めた!
肘鉄、膝蹴り、パンチにビンタ、そして首投げ飛び蹴り四の字固め(本人は足十字締めと言っているけど)。
ヘロヘロになったぽてりこんぐに紗夜がとどめの必殺技を出した!
「そろそろ引導を渡してやるのじゃ! これがワシの秘奥義、かんぬき天井投げじゃぁああ!!」
いや、それただのかんぬきスープレックスだから。
だが、すっぽ抜けたかんぬきスープレックスはぽてりこんぐを天井までぶん投げ、照明に激突させた。
ガッシャーーンッ!!
派手な音を立てながら照明に激突したぽてりこんぐは、そのまま落下し、完全に沈黙した。
するとじいちゃんはそのあたりにあった金属製の器をゴング代わりにカンカンカンと叩き、甚五郎さんが紗夜の手を高く掲げた。
どうやらこのアホなプロレス対決がようやく終わったみたいだ。
紗夜はやり切った感でドヤ顔だけど、まだ問題解決したわけじゃないからね。
そして、畳の上に倒れていたぽてりこんぐがのっそりと起き上がり、紗夜のもとに向かった。
え? まだ何かやるのか?
……と思っていたのだが、ぽてりこんぐは紗夜に向かい、すっと……ぽてりこのスティックを持った右手を差し出してきた。
どうやら戦いを終えた握手をしようというのだろうか。
「おぬし、なかなかいい戦いっぷりじゃったぞ、ワシも楽しかったのじゃ」
死闘を繰り広げた紗夜とぽてりこんぐは、お互いががっちりと固い握手を交わした、それはまるで強敵との激闘を通じ、お互いが理解したかのようなものだった。
「そう、これぢゃ、これなんぢゃ。死闘を終えた後にお互いを健闘する、それがプロレスの醍醐味なんぢゃぁ!!」
「作造さん、儂も感動しました、まさか令和になってこんな熱いプロレスが見れるなんて」
だからそこのジジイ共、少しは自重しろって。
「ううー、ええ話やったわー、あーしも感動したでー」
「ボクもデース。まるでライガーマスクのライガー対ブラックライガーの話を見たようでシター!」
オイオイオイ、この中で冷静保ってるの俺一人だけかよ。
この興奮しているアホの群れはおいておいて、どうにかこの屋敷の主の部屋を見つけないと。
そして俺達は玩具の一切置かれていない事務所らしい部屋に入った、どうやらここが屋敷の主が首を吊った部屋らしい。
そして、俺達はこの部屋の中で誰かの気配を感じた。
「さっきから見てましたけど、いったいアナタ達は何なんですか!? 人の家に勝手に入ってきて玩具を壊しまくるなんて、アナタそれでも人間なんですか!」
「い、いや。ワシは一応悪霊姫と呼ばれておるがのう」
「一応人間やで、能力人間離れしてるかもしれへんけど」
「わしは人間……とは言えんな、サルとも霊ともなんといえばいいかわからんわい」
紗夜達が返答すると、謎の人物は驚いていた。
「え? アナタ達、私の声が聞こえるんですか?」
どうやらここはきちんと話し合いをした方が良さそうだな。