松樫プリンスホテル・瑞鳳の間。
ここで今日下総市長に再選した山田剛市長の再選記念パーティーが行われる事になった。
俺は
今回は流石にドレスコードがあり、関係者だけ招待の特別パーティーなので甚五郎さんや母さんは招待出来ていない。
しかし……何故かペドロさんは参加している。
流石に普段のアニオタスタイルではないが、やはり浅黒にアフロの長身でボルサリーノに黒スーツで全身を固めていると、どう見てもSPかヒットマンにしか見えない。
紗夜は黒と黒のゴシックロリータスタイルに赤い大きなリボン、そしてなぜかまたぽてりこんぐのぬいぐるみを持っている。
流石にコーラは飲み放題だと言ったらペットボトルは持ってこなかったみたいだがポーチにぽてりこはしっかり入れているようだ。
一方の満生さんは……まるで別人かのような、完全なお嬢様スタイルだ。
普段の金髪を黒髪に染め、肩の見えるシックなドレスを着こなす彼女は間違いなく社交界の華といえるレベルだろう。
――だが、着替えの際にタンクトップで『女は度胸』と書いたインナーを着ているのは俺と紗夜だけが知っている。
「
俺は会場に入ると紀國市長の宮本さんや下総市長の山田さん、そして……松樫市長の比奈橋さんと名刺交換をした。
しかし、松樫市の市長なのに比奈橋さんって……混乱してくるな。
俺は山田市長に紹介され、地元住民の悩みの種だったホテル勝魚の問題を解決した功労者だと説明された。
その事に市長さん達は非常に興味を持ち、今までの事を色々と聞かれる事になった。
一方、紗夜や満生さんは、いかにも金を持ってます、と言わんばかりの市長の支持者の息子たちに言い寄られ、無難にあしらっていた。
「い、いやですわ……あー、わたくし、そのような事はしたことがありませんので」
「そうじゃ、満生がそんなことできるわけなかろうて」
どうやら特権階級の息子達は満生さんを自分達のエンジョイサークルに誘っているようで、豪華クルーザーだの別荘だのの話をし、是非とも一緒に来ないかと誘っているようだった。
しかし、普段のだらしない態度を見ている俺にしたら、あの立ち振る舞い、本当に完ぺきなお嬢様といった姿で、紗夜もお子様ながら、本物の姫としての作法で老人がたに気に入られたようだな。
このまま何もなければいいんだけど……俺は悪い予感がした。
「わたくし、今日は一緒に来ている殿方がおりましてー」
いきなり俺の腕に満生さんが抱き着いてきた。
どうやら同伴者がいると見せる事で、この特権階級のバカ息子達をあしらおうとしているみたいだ。
「こんな貧相な顔の男のどこが?」
「所詮は成り上がり者の土建屋だろ。それに比べて我が家系はあの戦国大名の里美家の家臣で、武勲をたたえられた由緒正しい家系なんですよ」
「何じゃと……里美……じゃと」
あ、これ……紗夜に一番言っちゃいけない言葉なんじゃないの?
確実に紗夜は体を震わせているのが見て分かる。
だが、意外に紗夜は冷静だった……と思ったのだが。
紗夜はわざと足元がふらついたフリをしてコーラを男にぶっかけた!
「すまぬの、足元がおぼつかず甲羅をこぼしてしまったのじゃ 許せ」
「な、ななな……何をするだぁー! このスーツ数百万円のオーダーものだぞ、お前程度に弁償できるのか!」
「オホホ、わたくしの実家ならその程度のスーツ オト……父上は数百着もってますわ」
こないだの外車数十台といい数百万のスーツ数百着といい、満生さんの実家ってマジで何者?
「もういい、ボクのパパはこの地域の名士なんだぞ ボクに逆らったらこの土地で仕事できないと思え!」
そう言うと男は強引に満生の腰の後ろに手を伸ばそうとし、ビンタで反撃されていた。
「なにをするだぁー このクソオンナ!」
「アンタ、器が小さすぎるわ。顔洗って出直してきーや」
「適当なウソ言ってんじゃねえぞ、このクソオンナッ!! 黙ってボクに従ってればいいんだ!!」
とりあえず冷静に……冷静に。ここで騒動を起こすわけにはいかないんだ。頼む、満生さん、もう少し大人しくしてくれ。
――だが、物事はそう思い通りにいかなかった。
特権階級のバカ息子達は俺の方を指さし、悪口を言い始めた。
「あんな成り上がり者が連れてきた女は所詮下品な奴だな」
「パーティーにぬいぐるみ持ってくるようなガキ連れてくるなよな。ここを遊園地か何かと勘違いしてないか」
我慢我慢、それが社会人の在り方。
ゴシャァンッ!!
だが、特権階級のバカが満生さんにつかみかかろうとして料理の群れに突っ込んだ。
そこでドレスの汚れた年配の女性が「何してるのよ!」と殴り返したため、もう収集付かなくなる大混乱に。
それから後はあちこちで溜まっていた鬱憤晴らしとばかりに小競り合いが始まった。
俺はどうにか我慢しているものの、周囲で乱闘があちこちで勃発、ペドロさんが見るからにマフィアかSPなのにその場にうずくまってしまい、会場は料理を投げる乱闘場に。
あちこちで騒動が大きくなったとこで満生さんが……。
「あーもー我慢の限界や! こうなったら我慢してたぶん徹底的にやったるでー!!」
で、紗夜も。
「滝川家を愚弄した愚か者はどこじゃ! 成敗してやるのじゃ!!」
ともう収集付かなくなっている。
「……ふぅ、あれでも一応、爪の先ほども霊力は使ってへんで。せやから大丈夫や」
「ワシは礼儀として指一本だけで応じてやったのじゃ、感謝されてもよいくらいじゃろ」
我慢……我慢……って! もうやってられるかっ!! こうなったらもう自棄だ!!
俺はパーティーで人と会話するために我慢していた食事を無事な部分を集めて混乱に乗じて食べ始めた。
流石は一流ホテル、料理は最高級だ。
紗夜と満生はドレス姿のまま大暴れで会場は阿鼻叫喚の地獄絵図になっていた。
まあ流石に犯罪者でもない普通の人間相手にフルパワーを出さなかったので病院送りは数人程度だが。
特権階級のバカ息子は半べそをかきながら一目散に会場を逃げ出した。
まあこれで彼らも二度と紗夜や満生さんに近づこうとはしないだろう。
……だが、嵐の後の静けさとはならなかった。
兵どもが夢の跡……。
会場は料理がぐちゃぐちゃに散乱し、皿は割れ、参加者たちのスーツやドレスはコーラ、ワイン、ビール、タルタルソースにデミグラスソース、醤油、そして血と涙で汚れていた。
被害額は会場費にクリーニング代まで合わせて数百万円クラスの損害!! しかも弁償は誰がやるんだよ。
俺の目線から目を逸らす満生&紗夜&ペドロ……もう知らん。
そして今回の責任者はなぜか……俺、まあ監督不行き届きと言われたら反論もできない。
流石にこの惨劇は宮本市長も山田市長もかばい切れなったといった感じで……。
若者たちの暴走を止められなかったんだよなぁ?と各市長たちの冷たい目で見られた。
だが流石に数百万を即金でどうにかしろとはならなかったようで、この松樫プリンスホテルの修繕を無償で行う事で会場費の一部は免除してもらえたのだが……。
「積木くん、今回は君の力で場が収まらなかったが……うん、分かっているよ。これ以上の混乱を防ぐためにも――例の場所、バリハワイアンセンター跡地”の調査を頼みたい」
「いや、俺そんなこと一言も――」
「“これはもう正式に、松樫市としての調査依頼”ということで」
「断る自由は?」
「……ない」
そんなワケで俺達はホテル勝魚の次にこの松樫プリンスホテルの件を甚五郎さん達に任せ、バリハワイアンセンターの廃墟に向かう事になった。
どうやら松樫市の産廃処理場建設予定地なのだが、工事しようとすると不可解な事故が立て続けに起こり未だに工事が進んでいないそうだ。
後日俺達は、松樫市の外れにあるバリハワイアンセンターの跡地に向かうことになった。