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怪異5 作られた南国 バリハワイアンセンター編 5

 牧野さんは品の良さそうな紳士といった感じで、どうやら戦前は外交官もやっていたことがあるそうだ。

 その後、牧野のお爺さんが終の棲家として決めたのが、龍神に祝福された土地と言われた龍神沼だったらしい。


 だが、その土地が海外の大型テーマパークを誘致するという流れになり、彼は子供達の笑顔の為ならと土地を提供しようとした。


 しかし、この誘致は内陸部の為、陸路で建材を運ぶ松樫市ではなく、海から海外の物を運び込める隣接の寂れた漁村が選ばれ、龍神沼の土地は計画の中心から外されてしまった。


 今ではその寂れた漁村は世界でも有数の夢の国テーマパークのある市になり、高表市=夢の国テーマパークというくらいのイメージの場所だ。


 牧野さんは、それでも土地を守ろうとしたが、徐々に計画が進むにつれ、彼の想いは裏切られ、土地は業者に売り渡されてしまった。


「ワシノトチ……ダレモ……カンガエテ……クレナカッタ……」


 彼は哀しみに満ちた声でそう呟く。

 土地の記憶とともに残されたのは、かつての美しい自然と子供達の笑顔の夢だった。

 その想いが形を変え、俺たちの意識を泥の怪異として映し出していたのだ。


「なるほどなぁ……怪異はこの土地への未練と、裏切られた悲しみが具現化したものか……」


 満生さんが深く頷いた。


「せやせや。だからこそ、怒りをぶつけて攻撃しても意味がないねん。牧野はんの悲しみを理解して、和解するしかないんやな……」

「じゃあ、どうしたら……?」


 俺が訊くと、満生さんはゆっくりと目を開け、力強く言った。


「あーしらが、この土地と牧野さんの想いを大切にするって約束をするんや。過去の傷を癒すためにな。」

「約束……か」


 紗夜も静かに頷いた。

 でも困ったな……ここはもう解体後は産廃処理施設になる予定だというのが決まってしまっている。

 それをどう伝えればいいのだろうか。


「そうじゃのう……ワシらも力になろうぞ。しかし……その牧野どのを騙した男、許せんのじゃ。ワシがきっちりとお仕置きをしてやるのじゃ」

「お仕置き?」

「せやな、あーしらは今までも腐れ外道どもを次々と地獄や冥界へ送り返したったからなぁ」


 俺達は牧野さんに今までの経緯を伝えた。

 ブラック工場長、火災の悪夢に潜む夢魔、ヤクザの悪霊、これらの怪異をこの紗夜と満生さんは次々と倒し、救われない魂を助けてきたと伝えると、俺達の事を信用してくれたようだ。

 そして、俺達は牧野さんを騙した悪徳社長、大金権蔵の事を聞き、必ずお仕置きすると約束した。


「ありがとうございます、貴方がたになら、この土地をお任せできそうです。どうか、子供達の為にここを再び笑顔のあふれる場所にしてください……どうぞ、どうぞよろしくお願い致します……」


 未練の無くなった牧野さんはスっと姿を消し、泥田坊によって作られていた泥の空間はきれいさっぱりと姿を消し、そこには水の無い乾いた廃墟だけが残った。


「これで一歩、解決に近づいたな。」

「でも、まだまだ気を抜けへんで。南国の怪異はまだ潜んどるやろうしな。」


俺たちは泥の跡を踏みしめながら、再びバリハワイアンセンターの奥へ進むのだった。

 そう、ここにはまだ何かがいる。

 あの泥で出来たテツジーン、アレは間違いなくここの誰かが意識したものだ。


 それもかなり強い想いだと言える、あれだけ細かいところまで具現化していたくらいだ。

 まあ、ペドロさんは特別だと思おう……。


 ――そして……俺達はついにその正体が何かに気が付いた。


「ここや、そこの排水溝跡、その一部が狭くなっとるやろ。そこから強い念が漂って来とるわ。あーしが今その子を見せたる」


 満生さんが呪文を唱えると、そこには小学生か幼稚園年長くらいの半透明の男の子が姿を見せた。

 ひょっとして、あの泥のテツジーンをイメージしたのはこの子だったのか?


「おじちゃんたち……だれ?」

「オー、おじちゃんはひどいデース。ワタシこれでもまだ30前デース。おにいちゃんとよんでください。ペドロおにいちゃんデース」

「わかったよ、ペーにいちゃん」

「!!??」


 ペドロさんが男の子の霊の受け答えに大きく反応をした。


「その言い方……間違いなくテツジーンの!」

「そうだよ。ぼく、テツジーンがだいすきなんだ。おーにいちゃん、ちーにいちゃんみたいなかんじで、ペーにいちゃんってよんだんだ」


ペドロは男の子の手を握り、何かを言った。


「くだものやさいは……」

「たべましょう」

「間違いありまセーン! 彼は大のテツジーンファンに違いありまセーン!!」


 すまん、俺には謎の会話すぎてまるでついていけない。

 だがあの男の子はペドロや紗夜と意気投合してテツジーンの話をしていた。


「それで、ぼく……ここがテツジーンをさつえいしたばしょで、いえからいけるばしょだからとパパやママといっしょにホテルにとまってプールをたのしんでたんだ……でも」


 成程、それで波の出るプールに足を取られ、溺死してしまったという事か。

 それだとバリハワイアンセンターに出る幽霊っては彼の事だったんだな。


 男の子の名前は羽佐間健治はざまけんじ、みんなにはケンちゃんと言われていたらしい。

 そしてテツジーンの話をしているうちに彼の表情が暗くなってしまった……。


「ゴメン、ぼくその……ゴブランしょうぐんってのを、みるまえにしんじゃったんだ。だから、さいしゅうかいもしらないし、そのゴブランしょうぐんってのまだみてないんだ」


 そうか、最終回を見る前にここで溺れ死んでしまったのが彼の心残りになっているという事か。


「ゴブラン将軍かー。あーあのカッコええやっちゃな。ええで、お姉ちゃんが見せたるわ」

「え? 満生サン、ゴブラン将軍のフィギュアなんて持ってたんデスカ? あれってソフビ出る前に番組終わっちゃって結局出ないままだったデース」


 満生さんは呪文を唱え、呪符を流れるプール跡の床に置いて結界を作った。


「蘆屋の名において命ずる、我が式神となりて……悪しきものを討つ力とならん! 出でよ、鉄腕将軍ゴブラン!!」


 なんと! 満生さんは、式神を呼び出す術でゴブラン将軍を作り、この場に呼び寄せてしまった!!


「アワワワワ。本当にゴブラン将軍デース!」

「ふむ、強そうじゃの。じゃがてつじーんには勝てまいて」


 満生さんが呼び出したゴブラン将軍は、全身を黒い西洋鎧で身にまとい、両腕が超巨大な装甲で作られていてその手に目の付いたいかにも強そうな戦士といった姿だった。


「うわー、カッコいいなー。でも、テツジーンにはかてないんだ、そうだよね! テツジーンはゴブランしょうぐんにかったんだよね!?」


 すると……ペドロさんは泣きそうな表情になり、悲痛な声で……。


「テツジーンは……空に輝く二つの星になったのデース……」

「えええー! テツジーン、まけちゃったの!?」


 ペドロさんの話はまだ続いた。


「イイエ、彼らは勝ちまシタ。そして宇宙の平和を守ったのデース。でも、エネルギーがもう残っていなくて、もう変形する力もなかったのデース。それでも彼らは二人で手を合わせ、体を回転させながら体のエネルギー炉を限界まで高メ、ゴブラン将軍もろともガガ星ヘルサタン大星帝王ナンカス・ゴイデスを倒し、宇宙の星になったのデース」

「そうかー。みたかったなー。でももうテレビでほうそうなんてしないもんな。ペーにいちゃん、おしえてくれてありがとう」


 話は聞いてもまだ心残りのありそうなケンちゃんに対し、俺はタブレットを取り出し、話しかけてみた。


「ケンちゃん、実はテツジーンの最終回、ここで見れるんだ」

「えっ!! ホント!」


 そりゃそうだよな、彼が亡くなった時にはこんなタブレットなんてない時代だもんな。


 俺は家で契約中の宝映チャンネルにテザリングでネット接続したタブレットでアクセスし、テツジーンの最終回を課金購入した。


「宇宙ー! 兄弟ー!! テツ……ジーン!!」


 そして、最終回が始まった。


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