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怪異9 時の止まった学校 六街道分校跡編 3

 紀國市立第二小学校七不思議。


・走る人体模型

・いつの間にかある家庭科室の不味い料理

・タブレットを使う二宮像

・勝手に開く開かずの給食室の配膳扉

・勝手にパカパカ開くピアノの蓋

・勝手に消える黒板


・トイレに出る男の子の幽霊


 これが関係者から聞いた話だ。


 だが、ここの卒業生だった罪堕別狗(ザイダベック)の三人に聞くと、元々の七不思議はもう少し違ったそうだ。


 彼等は暮田ぐれた工業高校に入学前、ここに通っていたらしく、その頃から七不思議は存在していたそうだ。


 でもどうやら、その七不思議の消えたやつはどれもただの老朽化とかの問題だったらしい。


・動く骨格標本(風で釣っていたワイヤーがプラプラしていた)

・いつの間にかある家庭科室の不味い料理(続投)

・歩く二宮像(ある意味続投)

・枯れないチューリップ(卒業生の誰かのイタズラで造花が植えられていた)

・増えている階段(建物の老朽化で木製階段の一部が剝がれていた、現在は改修済み)

・音楽室の光る眼(配線工事のミスで電球の明かり漏れが薄い壁で見えていた)


・トイレに出る男の子の幽霊


 これを聞くと、トイレに出る男の子の幽霊はガチみたいだ。


 増えている階段は、朝に階段を修理しても夜には接着剤がきちんとつかず、夕方には板が増えているというオチだった。

 枯れないチューリップは水をやっていた女子児童がおかしい事に気が付いて抜いてみたら根が無かったので造花と分かり撤去されたらしい。


 音楽室の光る眼は壁の薄い手抜き工事のせいだったし、まさに幽霊の正体見たり枯れ尾花とは言ったところか。


 不味い料理は説明のしようが無いので本物の怪異だろうけど、特に被害者はいない……と思いたい。 


 でも……ずっと変わらず存在し続けるのがトイレに出る男の子の霊という事なので、これはガチ案件なのだろう。


 俺達は一通り誰もいない校舎を回ってみる事にした。


 紗夜さやはいつものぽんぽこタヌキ着ぐるみパジャマ姿、満生みつきさんは『雨ニモ負ケズ』の全文が書かれたTシャツを着ていた。


 これくらいなら宮沢賢治記念館に売ってるのかな?


 すると、罪堕別狗(ザイダベック)の錆田さびたさん達は夜の校舎を元気に走り回っていた。 


「夜の校舎窓ガラス壊して回ったって……やってみたいけど流石にそりゃあダメだよな、というわけでせめてこれくらいはやらせてもらおうぜ」


 と言って彼等は空き教室の黒板に『罪堕別狗参上!!』と大きく落書きをしていた。


 ……あまり褒められたもんじゃないんだけどな。

 ――だが、おかしな事はその後に起こった!


 彼等はドヤ顔で黒板にデカデカとヤンキー丸出しな落書きをしていたのに、知らない間に消えているのだ。


「おい、伊蛭いびる、勝手に消すなよな。せっかくデカく書いたのに」

「拙者知らないでござる。むしろ、蕪羅かぶらが……」

「ワイなんもやってへんで、人のせいにすなや」


 彼等は結局もう一度黒板にデカく落書きをしたようだ。


 だが、やはり黒板はきれいに消されていた。


「だから! 誰なんだよ!? オレっちたちのせっかく書いたのを消したのは!!」


 彼らが黒板を見ると、そこには誰もいないのに勝手に動く黒板消しが落書きを端っこから消していた。


「「「ッで、出たーぁあぁぁ!!」」」


 ――黒板消しの怪異を目撃した罪堕別狗の三人は、叫びながら廊下を全力で走って逃げ出した。


「ひィイいい! もう二度と黒板に落書きしませんからァァ!!」


 でもその中でもやっぱり錆田さびたさんの足は速い。タバコ吸っててでも根性だけで前を走る。


「ぜーっ、はーっ……オレっちの走りを抜かせるやつなんて、ここにはいねぇえっ……!」


 と、そのときだった。


 背後から、異様な風切り音―― 誰かが廊下を全力で走って追い抜いていったのだ。


 スパアッ!! とスライドするような勢いで蕪羅の前に割り込んだその“何者か”は……


 人体模型だった。


 しかもよく見ると、関節部はガムテで補修され、片目は取れ、肋骨の一部には「3-2」のマジック跡がある――確かにこれは、理科準備室の隅に立て掛けてあったあの古いやつだ。


「……って、いやいやいやいやいやいや!!!!」


 蕪羅は叫び、思わずその場で急ブレーキ。


 だがその瞬間、人体模型は――バッ! と華麗にターンし、今度はこっちに向かって全力で戻ってきた。


「来んな来んな来んなァァァ!!!!」「おまっ……廊下は右側通行やぞォォおおお!!!」「なんで戻ってくんねん!!!」


 哀れ罪堕別狗の三人は、ドアをブチ破り、家庭科室に突っ込んだ。


 あーあ、これ……修繕案件だよね。


 家庭科室の中にはなぜか料理が作られてテーブルの上に乗っていた。

 いったい誰が? というか材料どうしたのよ??


 とりあえず出された料理は食べるのか? 俺はやめた方がいいと思うんだけど、罪堕別狗の三人は家庭科室の謎の料理に手を出してしまったようだ。


「ぶふぉっ!? この卵裏側真っ黒こげだ!」

「こっちの味噌汁なんて、上薄すぎて下が濃厚ってレベルじゃないでござる」

「ご飯がべっちゃべちゃやー、コレ作ったン誰やねん」


 あーあ、言わんこっちゃない。


 どうやら家庭科室にあった料理はクソ不味かったらしい。

 これってひょっとして、料理を失敗されたフライパンとかの調理器具の怨念か?


 満生さんが隣で腕組みしながら冷めた目で呟く。


「そらあかんわ……これ、食べたら胃が爆発するレベルやで。つーか、こんな料理、料理とは言えへんやろ!」


 紗夜は目を細めてニヤリ。


「ぷくく……、これはたぶん、料理を失敗した怨念か、家庭科室の付喪神の悪戯じゃな。見た目は酷いが怖がることはないのじゃ。」


 俺は科学的に考え込みながら言う。


「怨念って言うより、昔の調理器具や食材に染みついた負の感情が怪異化したのかもしれないな。でも、食べるのは自殺行為だろう。」


 罪堕別狗の三人は顔をしかめながらも、まさにその味の地獄を舌で味わい続けている……。


 残すと何かひどい目に遭うと思っているのかもしれない。


「誰か早く止めてやれよ、見てる俺達の胃が持たん…」

「しゃーないな、ほな……やったるかいな」


 満生さんが豊かな胸元から独鈷を取り出し、テーブルの上に叩きつけた。

 すると、料理が一瞬で消え、家庭科室は何も無い状態に戻った。


「どうやら付喪神が悪さしとるみたいやな」


 満生さんはひと息つきながら言った。


「もう二度とこんなもん作ったらアカンで。料理の怨念って怖いけど、これじゃ付喪神も怒るわな。」


 紗夜はニヤリと笑い……。


「料理の恨みは深いのじゃ。怨念が強いと、怪異にもなるのじゃよ。まあ、これで一安心じゃな。」


 俺は冷静に言葉を添えた。


「怨念も浄化できたみたいだし、さあ次はあのピアノの怪異を見に行こうか。」


 罪堕別狗の三人はまだ顔をしかめながらも、ホッとした表情を浮かべていた。


「はあ……もう料理だけは勘弁してくれよな……」


 音楽室に行くと……ピアノの蓋がパカパカ開いて閉じてを繰り返していた。


 あ、これ単に建付けが悪くて隙間風が入ってきてるのが、蝶番の壊れたおんぼろピアノの蓋を微妙に上下させて開け閉めしてるだけだ。


 もう一つの音楽室の怪異と言われた音楽室の光る眼(音楽家の肖像画の眼が光る)は、校舎の改修で準備室との壁の配電を直すと出なくなったらしい。


 他の二宮像にタブレットを置いた子供の悪戯が付喪神に変な知恵を与えた形になり、歩くより座ってタブレットをいじっている姿を見た時は唖然としたが、それでも検索項目を遠目に見ると、伊能忠敬とか青木昆陽とか、井沢弥惣兵衛とか渡辺崋山、平賀源内等を調べているのを見ると、江戸時代の自分以外の偉人をライバルとして調べていたのだろうか……。


 それも微妙に武士や学者でありながら庶民目線に近い偉人をチョイスしているのが、流石といったところか。


「なんでこのタブレット、サツマイモの糖度とかキャッサバとか農林水産省とかも調べとんねん……付喪神の域超えとるやん」


 いや、満生さん。ツッコミどころそこじゃないから。


 いやはや流石は江戸時代の農林学者というのか、今の時代の道具を与えるとここまでやるのかと感心だわ。


 給食室の配膳扉は単に水平が傾いてて鍵が壊れていたから閉めても閉めても開いているというオチだったので、これで学校七不思議の六個は付喪神かポンコツと判明。

 そして……俺達は幽霊の出るという噂の男子トイレに足を踏み入れた。

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