紀國市立第二小学校の旧校舎。
ここのトイレには男子児童の霊が出るという。
まあよくある学園七不思議の一つだが、どうやらこれはガチかもしれない。
俺達は旧校舎のトイレの電気をつけてみた。
だが、電気は一瞬付いたかと思ったが、その後すぐにまた消えてしまった。
なんだかヒヤッとした感覚を感じる。
どうやら本当にトイレの個室に誰かの気配を感じるみたいだ。
「
「そうでござる、吾輩……音楽室での授業の後、ここのトイレを使おうと思ったものの、怖くなって別のトイレに行こうとして漏らした事があるのでござる」
「マジやで、
いや、お前ら友達ならそういう過去の汚点をわざわざ蒸し返してやるなよ……。
トイレの中に入ってきた
ってか、ここ男子トイレなんだけど……二人ともそれわかってるんだよね?
「ふむ、何やら無念の意思を感じるのじゃ、それも……
「せやな、これは……子供の気配や、それもかなり怯えとるみたいやな」
流石は元悪霊姫と霊能者といったところか、彼女達はこのトイレに誰かがいる事を把握しているみたいだ。
どうやら七不思議と言いつつの六つの付喪神の悪戯やただの建付けのポンコツとは違った本物の霊がここにいるようだ。
「せやな、ほなあーしがここに誰がいるのか見えるようにしたるわ、ちょっと待っとりや……オンマリシ……」
満生さんが何かの呪文を唱えると、トイレの中からボヤっと青白い光が漏れてきた。
俺が扉をコンコンとノックすると、中からか細い子供の声が聞こえてきた。
「入ってます……」
「え? 声聞こえるんだけど、オレっち達……マジでヤバいもの見ちゃったのか!?」
罪堕別狗(ザイダベック)の三人はトイレから声が聞こえてきてガチでビビってるようだ。
普段イキまいたヤンキーしてるのにだらしないなー……とも言えないかも、俺も紗夜や満生さんがいなくてこんなもん見たら流石にビックリするな。
「入っとるんはわかっとる、ちょっとお姉ちゃんと話せーへんか?」
「お姉ちゃん。ぼくの声、聞こえるの?」
どうやらトイレの中の霊は、自分と会話できる人がいる事に驚いているようだ。
そして鍵を開ける音が聞こえ、キイっときしむ音を立てながらトイレの扉が開き、中の便座に座った小さな男の子の姿が見えた。
「ひぃっ、ほ、北条くんは、い、いないよね……」
「北条? 誰だよそれ」
「何? 北条じゃと……?」
紗夜が美少女がしてはいけないような怖い表情になっている。
え? 北条って……紗夜に何か関係……あ!? ひょっとして北条って松樫プリンスホテルで出くわしたあの里美の家臣を気取った地元土建屋のバカ息子?
俺達がバリハワイアンセンターの調査と松樫プリンスホテルの無償修繕をさせられる羽目になったのが、里美の家臣の北条の末裔を気取った地元権力者のバカ息子が紗夜をブチ切れさせた為だったんだが、まさかそのバカ息子がいじめの加害者だったとは……。
「なるほどな、あのいけすかんバカ息子がいじめの首謀者ってワケやな。まあアイツ、魂腐っとったからなぁ。ほんで、アンタはその北条に何されたねん」
「ぼく、病気であまり体調良くなかったのに、北条くんがぼくをここに閉じ込めて出してくれなかった、そしたらいきなり胸が苦しくなって……ぼくはここで死んじゃったんだ」
うわー、そりゃいたたまれないわ。
いじめで閉じ込められた挙句に発作でそのまま亡くなるなんて、そりゃあ無念でここに残り続けるのも仕方ない。
「許せんのじゃ、北条の腐れ外道が。あの一族はワシの父上を裏切った頃から何も変わっておらぬ。弱き者を虐げ、強き者に媚び諂う。そこには気概も信念も何も在りはせぬ」
「せやな、あーしも許せんわ。ええやろ、ちょっとあーしも本気出してオシオキしたるわ。あのホテルでのパーティーでボコにせんかったのをちょっともったいなく思っとったしな。ちょっと……本気出すでー」
あーあ、満生さんも美人がしてはいけないようななんか悪いことをしようという顔になってる。
まあ、どうなるかもう俺は知らん。
とにかく俺達は男子トイレの男の子の話を聞いた後、学校を後にした。
その後、滝川の乱破の霊からの報告で、北条のバカ息子はホウジョウホールディングスと名前の変わった北条土建の総会で松樫プリンスホテルに来ることが分かった。
「ふふふふ、あーしを怒らせたらどうなるか見せたるでぇー。あのバカ息子、ホテルのパーティーの時から気に食わんかったんや」
「満生、ワシにも何かやらせてほしいのじゃ。北条のバカ息子をとっちめてやらんと気が済まんのじゃ」
だから紗夜、美少女がしてはいけない怖い顔になってるって……。
「せやなー、あのバカ息子、トイレに閉じ込めてあの子を殺しておきながら親の権力でもみ消したんやろ、ほな……因果応報といったろやない。トイレでお仕置きや」
「ほう、それで……どうするつもりなのじゃ?」
紗夜と満生さんが二人で内緒話をしている。
まあ、ロクでもない事なんだろうけど、今回はあえてそのままやらせちゃうか。
「な、これならもう立ち直れんやろ」
「ぷくく、しかしその為には亀様にも手伝ってもらわんといかんのう」
亀様って、家の池に住み着いた天之龍沼命?? これイタズラの域超えたとんでもない結果になりそうだな。
で、結局……俺はトイレの前の工事中看板を用意することになり、二人のオシオキのサポートをすることになった。
――そして二人は……。
数日後――。
例の松樫プリンスホテル。
ホウジョウホールディングス主催の経営報告パーティーが始まろうとしていた。
会場では、いつものように地元有力者が集まり、見栄の張り合いと挨拶まわりが行われていた。
そこに登場したのは、あの北条のバカ息子。例のごとく真っ白なスーツでキメた“自称貴公子”スタイルだ。
俺は紗夜と満生さんに頼まれたように、工事中看板をトイレの前に置いておいた。
これはどこの業者と分からない名前の無い工事中の普通の立て看板なので、ツムギリフォームの物とは一目見ただけでは分からない。
そこに以前見た北条のバカ息子が姿を現した。
「ははっ、いじめだぁ? あんなもんビビってる奴の自己責任だっつーの。弱肉強食で食われる側は黙っていう事聞いてろよ。負け組は大人しく孫請けらしく搾取されてろっての」
あの言い草、こいつが酷い目に遭っても俺は何の感情も持たないでいられそうだ。
さて、こいつがトイレに入った瞬間、この立て看板をトイレの前に置けばいいんだよな。
そして、トイレに北条のバカ息子が入った直後、俺は工事中の看板をトイレの前に用意し、その場を離れた。
後は……紗夜と満生さん達がやるらしいので、俺は何食わぬ顔でいかにも工事業者っぽくその場を離れた。
◆
あーしはエスケープくんに女子トイレからここの中に通り道を作ってもらい、男子トイレの方に入った。
そして、開いてた全部の個室に式神を入らせ、内側から鍵を閉めさせて、様子を見る事にした。
「さて、ほなあーしは女子トイレの方に戻るで、この穴からここの様子は見れるからな」
あーしが女子トイレの壁の方に戻ると、丁度そこにあの北条のバカ息子が姿を見せた。
どうやら巧がきちんとやってくれたみたいやな。
ほな、地獄見てもらおうやないの。
北条のバカ息子は個室でスマホをしながら用を足すつもりでスマホゲームをやりながら個室に入ろうとしたみたいや。
でも残念やったな、もう全部の個室があーしの式神で埋まっとるねん。
「クソッ、全部使用中かよ、オレが用を足すための専用のトイレぐらい用意しろよ」
北条のバカ息子が外に出ようと扉を開けようとしたが、扉は押しても引いても全くビクともしなかった。
どうやら紗夜の部下がきちんと外から閉じ込めてくれてるみたいやな。