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第44話

「そのトンビが一体これ以上何を狙おうってんだい?」


 イイネ様がそこには・・・・視線を向けずに声を放つ。どこに目を向ければ分からないナミたちを気遣うようにゆっくりと姿を現したのは仁・武蘭……。


「気付かれていましたか」

「真球を奪ったあんたが、これ以上どんな油揚げを盗ろうっていうのさ?」


「旧政府派の飼い犬がこの後どうするのか気になりましてね」


「イイネさんってメディエ直属のシーカー?」

「そ、だからクエスト頑張るより、こうやってレジスタンスを見つける方があたいたちは……査定が上がるってもんよ!」


 エモとバズが仁の捕縛に動く。周囲の殺気に空かさず交戦タイプでない藍は、足手まといにならぬよう距離をとる。デンちゃんとナミはそれぞれの得物を抜くと身構える。


「こっちも面を見せてしまったからには、生かしておくわけもない」

「それで、わざわざおいでくださったってわけかい」


 仁はこの時代にどうやって持ち込んだのか、ドーピングスーツを着けている。事実上の5対1の状況で殺しに来るただならぬ自信は、ここからといえる。


 仁はナイフ使いのようだ。仁はイイネ様を睨むと一言。


「飛行機ではわざとやられてやったのに、調子に乗って俺様を足蹴にしやがった借りがあったっけな」

「豚みたいな悲鳴を上げたとこしか覚えちゃいないよ」

「ブヒッッッ!」


 仁が一気にイイネ様との間合いを詰める。イイネ様の武器は鞭だ。援護でエモが2人の間に球体を膨らませるも、仁のナイフの連打が球体を破る。

 これがイイネ様の鞭を邪魔してしまう結果となり、気付けば仁がイイネ様の眼前に迫っていた。仁のナイフを鞭で受けながら身を捻る。鞭は切られたが辛うじてナイフの軌道が逸れた。しかし宙にはイイネ様の美しい髪が舞っていた。その瞬間ナミが仁に向かって如意龍を放つ。イイネ様から離れた仁はターゲットをナミに変えた。


 ナミは懐に入られないよう、如意龍を立て続けに繰り出す。如意龍が伸びきったタイミングで、巻き戻るスピードに負けずに距離を縮めてくる仁、ドーピングスーツで身体能力が飛躍している。ナミは鉄扇を広げて防御に入るがそれはナミの視界をも狭める。その死角を突いて仁のナイフが繰り出される……速い。


「きゃあぁぁ」


 間一髪躱したナミのひとえがナイフで切り裂かれる。この時代には見られない下着の紐が肩から露出する。


「ナミちゃん!!」


 怒りのデンちゃんがナミを護るべく割って入る。仁の追い討ちを十手で防ぐ。そしてそれは触れれば流れる電撃モード。


「ブヒブヒッ……?!」


 驚いた仁は距離を置く。そしてゴムグリップのナイフに持ち替える。このタイミングで、騒ぎに気付いた弁慶たちが駆け寄る。ナミの姿に目を置いた弁慶は、すぐさま仁に襲い掛かる。


 得物の差も当然ある。ナイフの間合いは薙刀相手に遠すぎる。仁は極限まで伸ばした身体反応で神速の動きをする。しかし弁慶は目で追えぬスピードさえも戦う動作を読み切り、乱されず、崩されず薙刀を一振りする。


「バカな……」


 仁は間一髪避けたが、皮を裂かれる。


 弁慶の武勇は近代科学ドーピングスーツを凌駕する。これが天下無双、テクノロジーが相容れない鍛え抜かれたテクニック。デンちゃんはここに父の未来を見た気がした。


「チッ……さすがに無勢すぎる……」


 仁は負け惜しみを吐くと、超人的な速さで離脱した。


「あやつは妖か? 人が動ける速さではないぞ」


 弁慶はそう言って薙刀の柄を地面に着いた。


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