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第49話 暗殺

 歴史は知っている。このケネディアメリカ大統領暗殺は、歴史が留めてある事実と史実として収めてある事実が違う、最大の事件といっても過言ではない。


 歴史はデンちゃんたちに何を見せてくれるのであろうか? これほど簡単に歴史は改ざんされ、不公平なほど社会は乱れている……。



***



 ユリウス暦1963年11月22日、アメリカ・テキサス州ダラス、晴天、金曜日の暖かい日だった。


 研究者の間で密かに話題になっていた『青い服の少女』。エルム交差点、ディーリープラザ前の噴水に掛かる橋の右の台座にアントワネット・グローバーはいた。

 午後0時半前……大統領を乗せたリンカーン・コンチネンタルが左折しながらグローバーの前をゆっくり通り過ぎていく。数時間前から場所取りに並んで、大統領に見つけてもらえるように、一番目立つ服を選んだ。

 それはダラスの空と同じライトブルーのジャケットだった。


 道路を挟んだ目の前の建物は狙撃現場となった教科書倉庫。まだ僅か11歳の彼女がそんなことを知る由もない。


『大統領は子どもが大好き。もし大統領に私のことを知ってもらえたら、きっと誰も私を傷つけない』


 そんな願掛けをして臨んだパレードには、『大統領に会えたら私の人生はきっと変わる』……父親に怯えて暮らしていた彼女が人生を変えるための一大イベント。

 ジャクリーン夫人と目が合った……きっと大統領も自分に気付いたはず……、グローバーは見えている世界が変わったのを感じた……誰もが幸せの光に包まれているようだった。

 しかし変わったばかりの世界は再び色を失う……名残惜しむように見送ったオープンカー。0時38分……大統領の頭が吹き飛んで、それは赤い天使の輪のように見えた……少女から見たそれは国家陰謀、暗殺計画など全く関係のない、ただの『殺人』だった……。



***



 ナミたちは1962年8月からクエストに入った。それはマリリンモンローの不審死から始まる陰謀説である。FBIなのか、CAIだろうか、それともKGBか……ソ連なのかカストロなのか……ケネディと親密関係があると噂されるモンローの持っていた手帳には一体何が書かれていたのであろうか……。

 クエストにはケネディ大統領暗殺の阻止はタブーとされている。それはナミたちが挑戦した『3億円強奪事件』と同様の指令であった。


 ナミはデンちゃんとスーパーカブに跨り、ヒューストン・ストリートを越えてメインストリートであるディーリープラザの間を走り抜ける。


「デンちゃん、違うわよ、今のところを右折してエルム・ストリートへ向かわなきゃ」


 2人はダラスのパレードコースを辿っていた。デンちゃんが間違えた道は、最初に計画されていたパレードルートである。この迂回ルートはケネディ暗殺の前夜に変更されている。


 スーパーカブは変更されたパレード暗殺ルートを走り、オズワルドが撃ったとされる教科書ビル6階を見上げる。窓が光でキラリと光った。

 ナミはそこにいるはずのない狙撃者を浮かべ、寒気がした。


 ブラックタイトドレスとも呼ばれる黒のミニワンピースを主役に、白の襟が際立つ。映画『ティファニーで朝食を』をアイコニックし、かつミニのスカートが60年代のトレンドをカバーしている。

 その露出した足が、まだ暑さの残るダラスの空気に震えた。


「デンちゃん、わたし、なんだか怖い……もう、行こう……」


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