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第51話 狙撃

 ケネディ暗殺のに迫る談義は華が咲く。事件後の経過年数から考えても、これだけ話題を掴むのだから、いかに歴史に残る大事件だったが伺える。


「ナミさんの言う通り、そして暗殺の2分後に手ぶらで2階食堂に入ったのが目撃されます。そこでリラックスしてコークを飲んでいた、って話ですよね」

「ライフルを隠してから、6階から階段を駆け下り、息も切らさずにコークを飲んだというのだから驚きでおじゃる」


「オープンカーの右前方、グラシーノールと呼ばれる垣根。現場にいた警官を含め60人以上がグラシーノールから発砲があったと証言してるんだよ?」


 ザプルーダーが撮影した8ミリフィルムでも、大統領は銃撃で後方に反り返っていて、前方からの衝撃があった考えられる。しかし弾丸の射出口の向きとは反対方向に仰け反る場合もあるので確証には至らない。しかも血飛沫が前方に噴き出して見える映像もあり、それは後方からの狙撃とも考えられる。


「魔法の銃弾とはよくいったものね」


 今度はイイネ様の言葉にナミは唆られる。


(『魔法』なんて素敵な響きなのだろう……そんな弾に打ち抜かれたのなら、ケネディさんはきっと天国へ行ったに違いないわ)

 直後、興味を以ってザプルーダーフィルムを見たのなら、吐き気がした。


 この魔法の銃弾は『証拠物件399』と呼ばれ、ケネディの背中側から入り、喉仏の下から出て、前の席に座るコナリー・テキサス州知事の右肩に当たり右胸の下部から出て、さらに右の手首を突き抜け、最後は彼の左のモモに当たった、⦅* 弾道が任意に曲がった説は2人の着座位置で直線していることは証明済み⦆というビルの6階から撃った銃弾が『弾の入口より出口が高い』奇跡の軌道。

 決め手を欠いたままで、大統領暗殺事件を捜査している状況が発覚したのなら、CIAなのかFBIなのか反カストロなのか分からないが、ナミたちシーカーは狙われる立場となり劣勢となる。公開していないはずの内容を公表することでナミたちは、危険分子とみなされることは間違いないからだ。




 オズワルドは逮捕直後、『I'm just a patsy⦅はめられた⦆』と叫んだ。


 誰にハメられたのか? 『どっきりカメラ』なる番組があって、上手に騙したければ騙したいほど大掛かりで組織的に包囲した方が、騙していることに気付かれにくい。


 CIA元長官はソ連・フルシチョフが関わっていることに疑いはないとし、FBIはソ連が関わっていないことを明らかにしている。にも拘らずどこも一貫しているのがオズワルド単独犯説。

 ライフルから指紋も無ければ硝煙反応もない。つまりは警察官も殺してなければ大統領を撃っていないことが科学立証されているにも拘らず、だ。

 オズワルドが暗殺犯に仕立て上げるのに都合のいい経歴を持っていたためCIAもFBIもウォーレン委員会もそれを利用した。それはまるでダチョウ倶楽部の持ちネタ『どうぞどうぞ』である。


 社会心理学でいう『同調』の現象に過ぎない。



***



 ナミたちは『暗殺は行わなければならない』今回のクエストのため、1963

年11月22日、ケネディ暗殺当日、奇しくも『江川ドラフト会議』と同じ日付けでスタートする。


 教科書倉庫6階に1人。ザプルーダー傍に1人。グラシ―ノール垣根に1人。エルムストリート交差点に1人、トリプルアンダーパスに1人配置した。

 最後の1人はダル・テックス・ビル2F。ここは教科書倉庫ビルの向かい側にあるヒューストン通りに面したビルである。


 104人から聞き取りした報告書では、56人が倉庫、またはエルム通りの交差点付近から、少なくとも一発の銃声を聞いたとの証言。35人の証人は、グラシーノールまたはトリプルアンダーパスの方から、少なくとも一発の射撃があった、との証言。8人は他の場所から発射された銃声を聞いたと主張し、5人は銃撃が異なる2つの方向から発射されたとの証言があるからだ。



◆◇◆◇



 ナミの目の前には『青い服の少女』がいる。ナミはこの後の惨劇が分かっているので、その目はパレードの車列を待ちわびる沿道の人たちと違い、青い服の少女を意識することでの惨状からの逃避を図っている。


 青い服の少女の前を通り抜けたオープンカーは速度を落として左へと折れる。ジャクリーンと視線を交えた彼女は、人生が変わる感覚を肌に感じたが、ジョン・ケネディとはバチッときた感覚がない。彼女は急いで台座を降りた。


 ジャッキーと目を絡ませたのなら、カメラの覗くのを忘れさせられた。ジャッキーだけがオープンカーを追って左回転をしたのなら、ジャッキー―とのあの感覚を、もう一度大統領で味わいたくて抑えられなくなる。


「大統領、待って!」


 彼女がそう声を上げてエルム通りへと走った直後だった……湿気のない音が渇いたダラスの空気を奔る。その弾ける音は、起きた事態と比べ、とても軽やかだった。


 青い服の少女は、もう一度カメラを構えることなく、そして振り向いて欲しいと願った彼の瞳は何物も映すことなく、血しぶきを上げて前のめりに崩れ落ちた……。


「いやぁッ!」


 ナミも思わす声を上げていた……。

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