「……はっきりしたね、
イイネ様は藍に同情することなく言い放った。
「父さんは……そうだ、父さんはシーカーだ、だから……」
「そうよ、シーカーなら、歴史の力で『殺し』はできないはず、ですよね?」
ナミは思いっきり藍に寄り添う発言でイイネ様に反論する。
「それはね……あんたの父親は『スパル』されたんだよ。スパルされた人間は歴史の力から解放される。つまりは懐妊と殺人ができる」
「そんな……」
「メディエ史上一人だけ『スパル』された人間がいる。そしてそのクエストは以前のスペシャルレアクエスト、この『ケネディ大統領暗殺事件』ってわけさ。
イイネ様の全てを知っていたかのような口ぶりに戸惑うのは3人。
「……父さんが帰って来ないのは、クエストだというのは分かってました。でも死んだとは思いたくなかった、だからスパルされたけどどこかで生きている、と信じていました」
「まさかレジスタンスにだったとはね。そいつはあたいも予想外だったね。それにしてもスパルされたのが、あたいたちのクエストと同じケネディ暗殺前の時代に飛ばされていたなんて驚きだね……ちょいと出来過ぎじゃないかい?!」
珍しくイイネ様は、その奇麗な顔立ちを隠すほど深くかぶった、トレードマークの帽子の下から目を覗かせる。
「父さん、どうして……」
「ま、何にしても
イイネ様がわざと軽く言っているように聞こえる。イイネ様の言う通り、暗殺の真相を知るだけなら確かに簡単かもしれない。それを世間に知らしめること、世間を信じ込ませるだけの証拠、そして身の危険……知った後の対応の方が難しい。それはイイネ様も分かっている、だからこの台詞はわざとだ。
「でもレジスタンスの目的は? 何がしたいのかな?」
「それもこれもレジスタンスどもをとっ捕まえれば分かるってもんじゃば」
「どちらかといえば、クエストはクリア同然、レジスタンスを捕まえる方がメインになってきたぞりゃ」
「それは……ラン先輩のお父さんも捕まえるってことですか?」
「そりゃ……そうなるかねぇ……」
イイネ様、煙草なんて吸っていたっけ? 徐に火をつけた紙巻きたばこの煙が部屋に広がっていく。その煙を遠く吹き飛ばすように、フゥーっと長い息を吐き出した後、深くかぶった帽子にその目が隠された。
この時代は分煙などという概念の無い時代……1960年代のアメリカはまだ、平和と戦争、無知と偏見、貧困と豊かさといった『ニューフロンティア』の時代であった。
そして仁の残した言葉通り、オズワルドはケネディ暗殺の2日後にジャック・
ルビーによって殺されてしまう。『グッバイ、オズワルド』……。
ルビーに撃たれたオズワルドもまたパークランド病院に搬送されたのは皮肉なものだ。そして後年ジャック・ルビーもまたパークランドメモリアル病院で息を引き取ることとなる。
「歴史の悪戯、なんですかね?」
「パークランドは、なにか因縁を感じただろうね」
「それだけじゃない、ジャック・ルビーはアルカポネの下働きしてたって話じゃないですか」
「ケネディの父さんは、アルカポネと組んで密造酒で大儲けしてたって話もあるよね」
「それにケネディ大統領自身も大統領選挙でマフィアの不正加担で当選したって何かに書いてあったりしたわ」
藍がイイネ様に向けた呟きを、今度はナミとデンちゃんで拾う。
「なんかの因縁ってなら、そんなもんじゃないよ」
再びイイネ様が顎を上げて、その目で周囲を見渡した。その目は先程より少し実を宿したように思われた。きっと話の方向性がそうさせたんだと思う。
「過去にリンカーン大統領も暗殺されたんだけどね、奇妙な共通点があるのさ」
「奇妙な共通点って?」
「暗殺された大統領の代わりに昇格した副大統領が同じジョンソンという苗字だったり……アンドリュー・ジョンソンとリンドン・ベインズ・ジョンソン」
イイネ様の後を引き継ぐようにバズとエモが得意気に話し出す。
「リンカーンはワシントンのフォード劇場で暗殺されたが、ケネディが暗殺されたときに乗っていた自動車はフォードだった、両方とも金曜日だった、二人ともフランス語を話す24歳の女性と結婚した、でじゃばす」
「さらにリンカーンがフォード劇場に行くのを止めようとした側近の名がケネディ、ケネディがダラスに遊説するのを止めようとした側近がリンカーンという名前だったりするでん」
すべては筋書き通りの陰謀なのか歴史の悪戯なのか。その脚本は誰が描いたストーリーなのか……。