「計4人が2人から一定の距離で張り付いている。1組はレジデンス、もう1組は多分CIA、かな」
「なんで1組はレジデンス確定なの?」
「それは父さんが、俺のカイトに気付いたからさ……デンくん、ナミさん来るよ」
藍のカイトが上空からデンちゃんたちの周囲の警戒に当たっている。カイトは千畝が藍に教えたものだ、だからいち早く千畝は藍のカイトに気付いた。
つまりはレジスタンス側は、デンちゃんたちがマークされているのを承知で誘ってきていることを解っている。
千畝は藍の誘いにわざと乗ったわけだ。
「ごきげんよう、藍のパーティ……いや、お友達かな?」
「初めまして、ラン先輩のお父さん」
まだパーソナルゾーンには程遠い距離。しかし千畝は警戒しているのか一定の距離を保つ。
「近づくのはその辺までにしてもらっていいかな……派手にやってるね、ケネディ暗殺の黒幕を炙り出すために。あんまり目立つとおじさんより怖いCIAとかに叱られちゃうよ?」
「やはり黒幕はCIAなんですか?」
「……でもデンちゃん、ケネディさんを撃ったのはランちゃん先輩のお父さんで、今のはお父さんがCIAではないって発言になるよね?」
「若いっていいねぇ。直球勝負で」
太陽を背負って現れた千畝の表情は見えやしないのに、確かに笑った。この状況下での笑顔。
「ケネディ大統領は死なねばならなかったのでしょうか?」
「君たちは暗殺の真相に近づきすぎている。勿論暴かれては困る人たちがいる、これは忠告だ……だから俺は姿を現した、その俺をフォローすべくもう1人がこの状況を見張っている。そして後2人……俺たち4人の動向を監視している、それはCIAだ」
「真実を隠さねばならない大義名分はなんなんですか?!」
デンちゃんが千畝に至極真っ当な疑問をぶつけたときであった。見えていないはず千畝の表情が緊張感を伝えてくる。
「来るぞ!」
千畝のその言葉で、3人は散開する、そこへ1発の銃弾が撃ち込まれた。9mmパラベラム弾である。それはCIAのディアー・ガン、連弾できない。だから一気に距離を詰めてくる。そんな中CIAの1人、坊主頭の男が単独の千畝目がけて格闘体勢なまま声をかける。
「新道千畝、久しぶりだな」
「日本以来だな。ひょっとして殺す気で撃った?」
「あれで君が死なないことは知ってたさ。確認するまでもないのは分かっているが、
「前回はファイルズに譲ったが、今回は俺に手柄が回ってきただけさ……そちらさんは
「そっちの方が重要だと思わんかね?」
「……そうだな……だから俺は未だここにいるわけだ……」
「今は誰に雇われているんだい?」
「誰にも雇われちゃいない、強いて言うなら未来、かな?!」
「また戯言を……」
親し気な会話と共に肉弾戦が行われている。いつの間にか仁も加わってきてナミとデンちゃんに襲いかかる。
「仁。彼らは敵じゃない」
「いいや、こいつらは俺の正体を知っている。それにメディエ側と繋がってもいる……生かしておけば禍根を残す」
千畝の制止を聞かず、仁が得意のナイフを抜いた。そのナイフを払い落とそうとすかさずナミがの如意龍を放つも、仁は像を残すスピードで避けた。
「ナミちゃんは下がってて。……仁・武蘭。ラン先輩のお父さんはお前たちと同じレジスタンスなのか?」
「……違う……」
「じゃ、何なんだ?」
「お前たちは知る必要もない」
戦闘開始だ。
仁のナイフにデンちゃんは防戦一方だ。弁慶の薙刀と違い、ナイフと十手では間合いが近い。そうなると技術とスピードが優劣を生む。
仁の
デンちゃんは弁慶の姿を思い出す、圧倒的な自分を見せつけ全てを跳ね返す強さ。近代技術にはない積み重ねてきた分厚い自信、それこそが伝統と歴史。
科学では追いつけない閃きは、『学習』とは違う『経験』であることを人間が体現しなくては人が生命である理由を失う。
弁慶は仁の動きを目で追っていなかった、弁慶は十手を見て『兜割』『捕縛』と得物の特性を理解していた。仁の使うナイフはダガーナイフ。弁慶も仁との戦いで彼のナイフは切るより刺すと判断した。
切るは円運動、刺すは直線運動の軌道、それが予測できれば動きが変わる。
予測と勘が仁のナイフを先読みする、読まれることの焦りが仁のナイフを迷わせる。迷いは仁のドーピングスーツによる身体能力向上を妨げ、効率を鈍化させる。
「仁・武蘭、お前は一つやってはならないことをやった」
「? ……なんのことだ?」
「ナミちゃんに殺意を向けた!」
「……フン、笑止な」
デンちゃんは十手の束にあるボタンを押すと、ビュンと一振りする。すると警棒のように刀身が伸びた。これでナイフより間合いが広がる。
「俺はお前を許さない!」