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第58話 スパル

「あなたたちは一体何者ですか?」

「ただの観光客ですよー」

「あなたたちの身のこなしを見てそれで済むはずないでしょう?」


 ナミの前にはもう1人のCIAが立ち塞がる。あたりは暗くなってきた。摩天楼は不気味に灯り出す。ナミたちの時代に比べて、人も街も技術も成熟してない途上の脅威がこのアメリカにはある。そこから生み出された諜報員。


 彼はナミに笑顔を向ける。若い諜報員だ。CIAとは笑顔で人を制圧できる人間を作り出す機関なのであろうか? 恐ろしくなる、笑顔に微塵の温かみを感じない。

 CIAは殺しの機関ではない、仕込み武器が主流だ。言葉で油断させてからとでもいうのであろうか? 少なくともまだ攻撃の姿勢を見せない。


(きっと彼はわたしを捕まえたい。それに戦闘訓練は仁・武蘭ほどされていない感じね。だからきっとディアー・ガンを不用意に使っては来ないはず)


「それにその見たこともない武器」

「単なる暴漢除けよ」

「あなたたちも千畝さんと同じ未来人、って言うことでしょうか?」

「……?!」




「若い子とばかりとお話してないで、少しはおじさんも構ってくれや」


 千畝がナミとの間に割って入り、もっと下がるようジェスチャーする。その後ろから来た坊主頭のCIAも混じって2対1対1のような形で対峙する。


「嬢ちゃん、それは不用意に答えてはいけないよ」


 千畝はナミにだけ向けて囁いた。『最新科学やその存在●●●●などを規制した時代法』では最高禁止事項である。



「君たちは知り過ぎた。個人が持つ情報としては手に余る事案だ。君たちが接触してもいない人物たちの情報を持っているのは何故だ?」

「あなたたちがこれ以上アメリカを乱そうというのなら、捕まえて拷問しちゃいますけど?」


 言葉を畳み掛けてくる。そしてその言葉からナミはケネディを殺したのはアメリカ国そのものだと確信する。そしてタイム社は盗聴されているのであろう、間違いなくCIAはタイム社でのナミたちの会話のことを言っている。


「アメリカを乱したのは陰謀の主導者じゃなくって?」

「陰謀ではなく善処だよ」

「あなただって知っているんでしょう? 暗殺者が誰かって……」


「……じゃーなんで犯人がオズワルドさんなんですか?」

「……」「……」


 CIAたちはナミの質問に沈黙する。坊主頭が脱力して空を見上げる。空では藍のカイトがインフィニティ・ダウンワーズ⦅横8の字⦆とバーティカル・エイト⦅縦8の字⦆を繰り返し旋回している。

 視線を戻した坊主頭が懐に手を入れると、呟きとは言えない音量の言葉を溢す。


「困ったお嬢さんだ……」



「それは俺から後で話しておこう。それでいいだろう?」


 千畝が両者を取り持つように会話を断ち切る。双方を見渡す千畝から圧を感じる。その答えに近づいた人間に待っているのは『死』だ。坊主頭が懐で握ったのはショートバレルのワルサーP38⦅CIAオリジナルデタッチャブル⦆、それを悟ったからの千畝の行動である。


「……いいだろう……」

「ま、元々千畝さんがいたから、我々も姿を見せた訳だし……警告は済んだし、何となくあなたたちの素性も分かった気がします。でも……警告を無視するようなら……勿論、千畝さんは分かってると思うけど、今組んでるお仲間さんにもお伝えください」


 そもそもCIAは諜報員だ。容易く姿を相手にさらしたりしない。それを敢えて犯したのは自信以外の他にあるまい。


「もう二度と会わないことを祈るよ」

 もうすぐ月が満ちる11月の摩天楼へと消えた2人。


「仲間なんかじゃないさ……おい仁、ケンカは終いにして一旦帰るぞ……?!」

 消えた背中に語り掛けた言葉の後、思い出したかのように振り返る。見ると追い詰められているのは仁の方……あの仁が……?! 千畝は瞬間驚きを見せただけで、藍のカイトに視線を移してニヤリと笑った。

 藍のカイトはさっきまでとは違う複雑な動きを描いている


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