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第59話

「……父さん……」

「藍、来たか」


 ナミたち6人は千畝と会っていた。藍がカイトを操って、千畝に伝言を残していたからだ。相変わらず千畝は、みんなから一定の距離内には近寄らない。


「こっちの2人は、年齢と『ラン先輩』って言葉から藍のお友達……でこっちのは『メディエのシーカー3人組』ってとこかな?」


 一同を見渡した千畝が口火を切る。


「……あたいらだってチーム名くらいあるってもんさ。それより年齢ってとこが随分と棘があるねぇ」


 イイネ様が軽口で返すとエスプリの利いた会話が始まる。


「俺好みのいい女、ってことさ」

「生憎、あたいも若い子が好みでねぇ」

「だってよお嬢ちゃん、気をつけな」


 そう言われたナミは気の利いた言葉を返せなかった。話しが切れたところでイイネ様が切り込んだ。


「下世話はそこまでにして単刀直入に聞かせてもらおうか、CIAの目的は何だい? あんたはレジスタンスでないなら、あんたはここで何をしている? 何故スパルされた?」


「やれやれ、どれから答えればいいのかな?」


 スパルされた理由? 


「それは恐らく幾つかの理由がある思われる」


 1つは『未来人だとばれてはいけない』ということ。千畝が前回のスペシャルレアクエストに挑戦したのは、1960年1月2日にケネディは上院幹部会議室において民主党予備選挙に立候補することを表明し1961年大統領に就任している。千畝のクエスト参戦はそれよりも前の1957年。

 ケネディの暗殺を防ぐクエスト……そのクエストの始まりの場所は、日本だった。


 オズワルドは1957年に日本のアメリカ海軍厚木基地に赴任している。そのとき千畝はオズワルドと接触。そして1959年にオズワルドはソ連に亡命している。

 翌年、オズワルドの任に関わるU‐2米軍偵察機がソ連に撃墜されたのに、オズワルドの関与が疑われていたからである。


「オズワルドは亡命し、ロシア人との家庭を持ち、撃墜事件への疑いもある中、アメリカに帰国できたのは、何らかの司法取引が成された可能性がある」

「じゃあ、もしアメリカが大統領暗殺の黒幕だとしたのなら、『オズワルド実行犯』を早くからシナリオ化されていたってことかい?」


ちまたでのCIA黒幕説の基礎はピッグス湾事件に端を発するわけだからね。現論されている陰謀説において、CIAがオズワルドに目を付けたのは、彼が不審人物で、純粋にアメリカの脅威になり得る可能性だったに過ぎない、ってことになっている」


 千畝が言っていることは正しい。CIAは大統領・・・になったケネディとの確執が大きい。まだケネディは大統領に選ばれていない。


「ただ……オズワルドにソ連が接触してきた可能性は大いにある。結果、彼の履歴はCIAにとって利用価値の可能性を生み出したし、俺にもKGBとCIAの両方からお誘いがあった」

「お誘いってなーに?」


「俺は1960年代に紛れ込んだシーカーだ。『メディエ』がその時代の俺の身分を保証してくれているが、俺の履歴は謎に包まれていて経歴を辿れない。これは1流のスパイでも簡単にできることではない。だからスカウトされた」


「坊主頭のCIAがそのスカウトってわけかい」

「そういうことだ」


「それでCIAの手先になったってわけかい」

「いいや、シーカーとしてアメリカに渡った。そこでオズワルドの帰国を待ってた」


 オズワルドはクレムリンより、ケネディ暗殺を依頼された。しかしフルシチョフは土壇場でその命を撤回した。

 オズワルドは妻のマリーナから軽侮されており、『男らしい』劇的なことをして見返してやる必要があった。だからフルシチョフの命を無視した。

 オズワルドがキューバ大使館で『ケネディを殺してやる』と言ったという情報をFBI・フーバー長官は握っていた。


「じゃあ、やっぱりオズワルドさんの単独説が正しいの?」

「いいや、物語はそんなに簡単ではないんだ……」


 千畝は持って帰れば時代法に抑えられてしまうであろう、ヴィンテージジッポライターで火をつけると、深く煙草を飲んだ。


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