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第63話

「姐さん、いいんでばんで?」

「調べてからでも遅くはないわ」


「本当にレジスタンスではないんでしまっか?」

「ウソを言っているようには思えないねぇ」


 今度は千畝が去っていくのを見送る6人。藍だけは涙で震えている。そしてナミたちは捜査を開始した。今度は『ケネディ大統領暗殺事件』ではなく、千畝とレジスタンスについて、だ。


 窓の外に揺れる摩天楼の灯りは異世界への入り口にも感じさせる。東京とは違う魔都市の誘惑が溢れている。



◆◇◆◇



 タキシードと千畝の居場所は分かっている。なぜならエモが先日ガムに見立てて膨らませたゴムに発信器をつけて彼らに付けたからだ。


「お手柄だよ、エモ」

「姐さんに褒められるなんて、ハグしてもらっていいでがんすか?」


 抱き着こうと満面の笑みで近寄るエモ。イイネ様の張り手が飛ぶ。


「気持ち悪い顔して近づいてくるんじゃないよ! お手柄だけど、あんなに巻き散らかすもんだから、全員に発信器ついてるじゃないか! 全く取れやしないよ!」

「だってぇ……どこで踏むか分からなかったもんじぇ~」



◆◇◆◇



「僕は先ず、調べたいことがあるんだ」


 藍は1人で出かけて行った。ケネディに関する捜査でなければCIAは手を出すまい。仁の方をイイネ様たちが見張っているのであればそちらも大丈夫であろう。


 藍が向かったのは図書館。図書館で何を調べるのかその動向が怪しまれる。そしてタキシードはペンシルにこう報告している。

『片っ端から歴史の教科書を読んでただけだった』と。藍はナミたちにも同様の報告をしているが、それには意図があった。


「恐らく父さんのスパルの理由のもう一つは……」

「そー言えば幾つかって言ってたのに、他の理由、聞いてなかったね」


「恐らくそれは『伝説のシーカー』なんて存在しないってことを知ってしまったこと、かと思われる」

「先輩それって、秦の始皇帝になるべく秦王を暗殺したって言う、あの伝説のシーカーのこと?」

「そう、あれは恐らくメディエのでっち上げだと思う。確信はないけど」


 これを見て欲しい、と一冊の教科書を投げてよこす。帰りに買ってきたのだという。デンちゃんがそれを受け取ると、真新しい本にはすでに癖が付いていて、何度も読み返したであろうそのページが開かれる。

 そこには『紀元前221年 秦は中国を統一した』『天子の称号として【皇帝】号をつくり、自ら【始皇帝】と名乗った』とある。更には『万里の長城などの大規模な工事に着手した』などとある。


「世界史の教科書さ。『始皇帝が漢の劉邦』だというのは僕たちの時代だけで捏造された教科書だってことだと思う」



◆◇◆◇



 もう一方、イイネ様たちは発信器を頼りに千畝の居場所を探っている。


「さすがに気付いたみたいね」

「ま、それでも少なくとも奴がここに居たことには変わりないでべし」


「奴は必ず仁と接触する、奴がレジスタンスであろうとなかろうとね」


「ここに来る前に奴は、あの地下へと寄っているでばらん。発信器に気付いて急いでここを引き払って、あの地下室へも連絡したとしても時間が無かったと思うじゃらん?! きっと何か残してるべぎゃ」

「それに……恐らく探りに来るあたいらを狩る準備も、ね」


「姐さん、怖いでげし」


 エモがイイネ様に甘えてその胸に頬ずりする。すかさずイイネ様のゲンコツがお見舞いされる。バズがその空気を引き締め直す。


「何人ほどで待ち伏せてるじゃごすかん?」

「多いほど……査定アップじゃないの!」


 そう言うとイイネ様たちは千畝のねぐらに踏み込んだ。


「『イイネ様一家Q sedai』参上だよ!」


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