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第64話

【女性に追いかけられるのは性に合わんもんでね】


 そういう置手紙が1枚……それと共に時限装置が作動……そして爆発!


「ぺッぺッぺッ、こんちきしょー!」

「やられたぴょんが」

「ゲホゲホッ、くやしいでごす」


 服は破れ、煙に巻かれ真っ黒になって飛び出す3人。ヘロヘロともつれ合うように歩く3人は、続いて地下室へ……。今度は慎重に中へと入る。

 エモが言ったように、急いで撤退したのであろう、中は散乱している。イイネ様は何気なしに目に留まった【f(x)=x(nt+nW)】というメモを拾いポケットに押し込んだ。



◆◇◆◇



 ナミとデンちゃんはエモから借りた受信器を使いタキシードが立ち寄ったとされるビルに近づいている。普通のオフィスである。

 日中ドアが開かれたままのオフィス。無防備すぎるのは罠なのか。


 実はタキシードは発信器に気付いていなかった。エモの仕掛けた未来の発信器は当時のCIAの技術をもってしても分かろうはずがないのだ。


 2人は浅い呼吸で中へと入る。やけに空気が乾いているのを感じる。5台の机が並んでいて手狭だ。少しでも机に当たろうものなら、重ねてある書類やら文房具が音を立てて崩れるであろう。いいや、一つだけある窓も開いていて、今にもそのバランスを失わせそうな風が流れ込んでいる。

 吸い殻も山になっていて、ゴミ箱も分別なく捨てられている。


「デンちゃん、あれは?」


 ナミが指差したのは、1台だけ他の4席を見渡せるよう配置された机の後ろの戸棚。並べられたファイルの中に『ディープステート』と辛うじて読める。


 そっとその戸棚を開けてそのファイルを取り出す。


「ヤバイやつかな?」

「ヤバくないはずがないわよね?!」


 生唾を呑み込み、ゆっくりファイルを開く。【B=f(P・E)】と大きく書かれた文字が目に入る。

『ピー! ピー!』突如ナミの手に持っていた受信機が鳴る。それは離れていた発信器が受信機の設定した探知エリア内に近づいた警報である。

 このオフィスを特定するため、受信機の設定エリアを拡大し過ぎたため、発信器がかなり近づくまで、それを拾わなかったのだ。つまりはタキシードがかなり近づいていることを意味する。


「ヤバイかしら?!」

「ヤバくないはずないでしょッ!」


「どーしましょ?」

「とりあえず隠れよう!」




 思えばバカな所へ隠れたもんだ。タキシードは1分とかからずオフィスに帰ってきた。

 タキシードは自分の席にはすぐに座らず、オフィス内を歩き回る。何か不審を感じているのであろうか? ナミたちは気が気ではない。


 それもそのはず、2人はパーテーションで仕切られた応接エリアの机の下、長いテーブルクロスに隠れているのだから。全身が隠れている訳ではない。


「あれ? おかしいな? ディープステートの赤ファイルが見当たらないな? ペンシルが持って行ったかな?」


 タキシードの声が聞こえる。デンちゃんの手元を見ると、赤いファイルを持ったままだ。2人は口を押さえて悶絶する!

 そしてこのタイミングでデンちゃんがナミに指で示して顔を背ける。デンちゃんが指し示した場所にナミが視線を移す……しゃがんだナミのパンツが丸見え状態だった。それはそのはず、ナミが着ているのはあの『Aラインのワンピース』だからである。

 再びナミが口を塞いでもう一方で股を押さえる。その頭がテーブルに当たって音を立てる。


「あれ? 何かな?」


 タキシードの足音がパーテーションに近づく。心臓が激しく揺れる。どうするべきか? 病気の時のように刻はゆっくり流れるが、その時のように穏やかではいられない。色んな想定をする思考に決断が追い付かない。


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