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第66話 基本式

「ちっ! またお前か!」


 デンちゃんが仁を引き付けた隙にカイトが炙り出したスナイパーを狩るべくタキシードが駆け上がる。


「……千畝さんのカイト……」



 デンちゃんと鍔迫り合いになっている仁に向けて、ナミが如意龍を放つ。仁が速い動きでそれを躱したのなら、ナミに向かって投げナイフを放つ。

 ナミがそれを鉄扇で撃ち落とすと再び仁に向かって如意龍が駆ける。仁が伸びきった如意龍が戻るのと同じ速さで、ナミの懐を目指す。


「前回と同じだな、今度は外さんぞ」


 仁のナイフが唸る!


「そうはいくかッ!」


 仁のナイフを阻んだのはデンちゃんの十手。


「2度目だ……」

「?!」

「お前はまた、ナミちゃんに殺意を向けた! 許さないッ!」


 そこへイイネ様の鞭が飛んでくる。仁はデンちゃんを突き放すようにして鞭を躱す。仁とデンちゃんが気合を発しながら、お互いへと突撃する。イイネ様の鞭を沈みこんで避け、仁の突撃スピードは瞬間下がる。そこへ放たれた如意龍は仁の左手のナイフで弾かれたかに思えた、しかし如意龍はイイネ様の鞭によって軌道を僅かに変えていた。仁の左手のナイフが叩き落される。


 それに瞬間気を取られた仁は、デンちゃんの十手に右手のナイフを絡み取られ、制圧された。


「やったー!!」


 ナミの歓喜の声を聞き、スナイパーは逃げ去った。



***



「こいつはあたいらが貰ってもいいかい?」

「いいですよ、今のアメリカじゃ未来人は裁けませんし」


「その返事はできないねぇ……あのおっさんみたいになりたくないからねぇ」

「どうぞご自由に」


「……でナミさん。赤いファイル、返していただけますよね?!」

「憶えてたのね?!」

「勿論」


「じゃー返すから、あの書いてあった【B=f(P・E)】の意味を教えて?!」

「なんのことはないです、『レヴィンの法則』ただのそれです」


 人間の行動【B】は人間性【P】と環境【E】の関数【f】で表される。⦅B=f(P・E)⦆つまり行動【B】は人間性と環境によって決まる。逆を返せば、行動を変えたければ環境を変えることが近道とする。環境を変えれば行動を変えさせられる。


 環境を変える、すなわちクエスト。それが未来を変えるパワーの根拠と言うわけである。


 これがディープステート=メディエの基本となったといえる。




「それだけ?」

「……大したことでもないものを、隠して見せるからこそ価値を創る、そーいうものでしょ?」


「もっと謎解きみたいなのかと思った……」

「控えめに慎ましやかな方が美しい、僕は日本人女性のようで素敵だと思いますよ」


「あたいもレジスタンスのねぐらであたいみたいに美しい数式のメモを拾ったんだけどね……」

「……見せてください」


【f(x)=x(nt+nW)】


 タキシードは首を捻るだけだ。すると仁が横から口を出す。


「これは一定【n】の時間と仕事量⦅それぞれt、Wとする⦆を使って変数xの行動をした積み重ねが歴史である、と。レヴィンの法則を代入したのなら、変数x=Bであると言えるかもしれない。これは我々レジスタンスの基本を表している。別に隠すようなものじゃない」


「何だか、みなさんどこの組織もそう言うの好きなんですね? 僕たちCIAも仕事に対する考え方で似たようなのを教わりますよ」


『力を加えて物体を変位させたとき、力は物体に仕事をした、これを仕事量という』。力=やる気、物体=やるべきこと と仮定したのなら、やるべきことにどれだけ力をぶつけたかによって仕事量が決まる。


「仕事は熱意だ! 情熱をもって働け!ってね……はぁ……嫌になる」


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