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「正麗、具合はどうだ?!」
気休めにもならない言葉を毎日い言っている自分に腹が立つ。千畝は自宅内で隔離してある部屋のベッドに横たわる妻の手を取る。伝染したってもいい、その覚悟はとっくにある、それよりもできれば変わってあげたい。
レゴリスウィルスは人体の生命活動が停止すると、細胞の中でレゴリス自身の抗体として生まれ変わる性質を持っている。その抗ウィルス機能は1等身内にのみ効果がある。つまり正麗が死んで生まれた『レゴリスワクチン』は子である藍には効果がある、と言うわけだ。
正麗がレゴリスウィルスに感染し、まだ幼かった藍は母親から離れようとせず、レゴリスに感染してしまう。
藍が生き延びるには正麗の死によって生まれるレゴリスワクチンが必要だった。反対に正麗が生きるには藍の死が条件となる……千畝は悩む……。
「私の方が病気の進行が早いわ。私が死んだら藍をお願いしますね」
正麗はそう言い続けた。必ず隣で眠る藍に優しい目を向けて。
「こんなむごい選択を迫るウィルスを持ち込んだのは……アポロ計画……」
仮に千畝がレゴリスウィルスに罹って死んでも、藍を助けることはできるが、正麗を助けることはできない。事実上、正麗が助かるには藍の死だけでしかない。
この死の連鎖を覆す方法はただ一つ、『歴史を変える』ことだ。
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「藍、すまんな……俺はレゴリスに罹っている。そして俺の母親、藍のお祖母ちゃんもレゴリスを患っているはずだ。だから俺が死んだら、俺から取ったワクチンを、お祖母ちゃんに……頼む……無能な親父からの願いを、バカ息子からの最期の想いを母に届けて……欲しい……」
「そんな……父さん……」
「妻は……正麗は学生のとき随分モテたんだよ……」
見つめる藍の視線から外れた千畝は遠くを見て語り出す。
「何を言ってるんだよ」
「父さんには高嶺の花でさ、父さんなんかと結婚しなければもっと幸せな人生を送れたんじゃないかってずっと思ってた」
「父さん……」
少しずつ千畝の呼吸が荒くなる。
「でも……妻は……正麗は……最期に言ったんだ『あなたと結婚してよかった』って……」
「うん、うん。そうだね、よかったね父さん」
「だから父さんの最期は息子のお前に『この家の子に生まれて良かった』って言ってもらえたのなら、俺の人生は全うする……」
「何言ってるんだよ父さん」
「嘘言っても無駄だ……父さんは……お前が嘘を吐く癖を知っている」
「父さんと母さんの子で良かったに決まってるじゃないか! 父さんともっと一緒に暮らしたいよ。またカイトを教えてよ、父さん」
「ありがとう、藍……」
「!! …………」
藍からもう言葉が出ることはなかった……ただ、ただ、ただ涙だけは止まることはない……。
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ディープステートの新世界秩序とは『イルミナティ13血流』が支配層となる⦅ケネディ家やオナシス家も含まれている⦆世界。世界人口は現在の1割以下の5億人まで減らす。日本だけで6000〜7500万人、これはナミたちの暮らす日本4エリアに当てはまり、現メディエがこの新世界秩序の意向を継いでいることを意味する。
この記録を見て疑問が湧く。ケネディ大統領暗殺の真の黒幕はジャクリーン・ケネディ・オナシスなのではないだろうか?
流産、死産を乗り越え、闘病生活を献身的に支えたにもかかわらず、ケネディの30名以上にも上るホワイトハウスでの不適切行為。そのホワイトハウスのイメージアップさせたのはジャクリーンだったのに、である。
ジャクリーンはケネディが不要だったかもしれない、ジャクリーンにはケネディの大統領再選よりもビッグなニュースが欲しかったのかもしれない。
『国を支配しているのは男。その男たちを支配しているのは……』想像の域を超えるものではない……。
クエストでクレオパトラの鼻を低くできていたのなら、この名言は生まれていなかったはずである……。
クエストはギブアップで終わる……。