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第37話


 別に構わないけどな、どう思われようと。

 実際褒められた教師ではないし。最低、変態教師、エロ教師⋯⋯。俺に与えられた称号なんて、所詮こんなのばっかだ。

 まぁ、惜しみなくこの称号を与えてくれるのは、唯ひとりだけだが。


「誰かを助けたって言うんなら、お前たち側に、もうひとりいたことになるな。でも喧嘩を見たって言う人は、相手は三人、お前たち含めて五人だったと証言している。誤魔化すなら、もっとましな言い訳をしなさい!」


 林田が鋭い眼差しをぶつけても川崎先生は意にも介さない。それより俺を見て鼻で笑っている。顔には『まだまだ甘いな』と書いてあるようだった。


 川崎先生が疑うのも分からなくはない。

 だが『でもよ』と思う。理由があるんじゃねぇの? 林田、言葉少なそうだし。言葉の少ない奴は読み取るの難しいから。誰かさんみたく。


「誰だが分からない目撃者の言葉より、うちの生徒の話を先ずはじっくり聞いてあげるべき――」

「そんなに生徒に気に入られたいですか」


 皮肉を言うのも結構だが、奈央じゃあるまいし、せめて最後まで喋らせろ。

 気に入られたいなんてお門違いも良いとこだ。生憎とそんな努力できるほど、立派な教師じゃねぇよ。


 反論する間も与えない川崎先生は、今度は矛先を林田に向け、なじり始めた。


「やったならやったと、悪いなら悪いと謝ればいいんだ。なのに誤魔化して、こんなに時間ばかり取らせて」

「川崎先生、ちょっと待ってくださいよ」


 決め付けんなって。

 これじゃ、林田だって素直になれるはずがない。


 ほら見ろ、すげぇー怖い顔で睨んでるし。


「何だ、林田その目は! そんな格好して、疑われたって文句は言えないんだぞ!」


 挑発してんのあんただろ。これの何処が指導だ。


「見た目で判断するのは間違ってる!」


 人は見た目じゃ分からない。俺がこの一ヶ月で、嫌ってほど学習したことだ。


 でも、やばい。ちょっとばかし声を荒らげすぎたか。

 職員室にいる同僚たちの視線が、一斉に俺へと集まる。

 こりゃ、後で指導受けるのは俺の方かも。


 血圧上昇中なのか川崎先生の顔は真っ赤で、教頭だけじゃなく川崎先生にも目を付けられた可能性大だ。


 ――いや、確定だろうな。さてと、どうすっか⋯⋯。


 考えながら目を動かした先には、新品の腕時計。その針は12をとうに回っていた。


 もう昼も過ぎているし、そろそろふたりを解放してやるべきだろう。腹も減っているだろうし、俺だってペコペコだ。


「川崎先生、今日のところは――」

「あの」


 この辺で勘弁してください、と続けるはずが、またもや邪魔が入る。


 今度は誰だ、俺の話を遮るのは! と声の主を探せば、それは手伝いを押し付けていた奈央だった。


「沢谷先生、もう終わったので帰ってもいいですか?」


 柏木たちに気を取られていたせいで、奈央の存在をすっかり忘れていた。


「あぁ、ごめんな水野。サンキューな」

「私もそう思います」


 ⋯⋯はい?

 えーっと、奈央!? 俺と話が噛み合ってないようなんだが。

 一体、何がどうして『そう思う』に至ったんだ?


「どうした水野?」


 奈央の瞳は問い掛ける俺には目もくれず、華麗に素通りしていった。



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