別に構わないけどな、どう思われようと。
実際褒められた教師ではないし。最低、変態教師、エロ教師⋯⋯。俺に与えられた称号なんて、所詮こんなのばっかだ。
まぁ、惜しみなくこの称号を与えてくれるのは、唯ひとりだけだが。
「誰かを助けたって言うんなら、お前たち側に、もうひとりいたことになるな。でも喧嘩を見たって言う人は、相手は三人、お前たち含めて五人だったと証言している。誤魔化すなら、もっとましな言い訳をしなさい!」
林田が鋭い眼差しをぶつけても川崎先生は意にも介さない。それより俺を見て鼻で笑っている。顔には『まだまだ甘いな』と書いてあるようだった。
川崎先生が疑うのも分からなくはない。
だが『でもよ』と思う。理由があるんじゃねぇの? 林田、言葉少なそうだし。言葉の少ない奴は読み取るの難しいから。誰かさんみたく。
「誰だが分からない目撃者の言葉より、うちの生徒の話を先ずはじっくり聞いてあげるべき――」
「そんなに生徒に気に入られたいですか」
皮肉を言うのも結構だが、奈央じゃあるまいし、せめて最後まで喋らせろ。
気に入られたいなんてお門違いも良いとこだ。生憎とそんな努力できるほど、立派な教師じゃねぇよ。
反論する間も与えない川崎先生は、今度は矛先を林田に向け、なじり始めた。
「やったならやったと、悪いなら悪いと謝ればいいんだ。なのに誤魔化して、こんなに時間ばかり取らせて」
「川崎先生、ちょっと待ってくださいよ」
決め付けんなって。
これじゃ、林田だって素直になれるはずがない。
ほら見ろ、すげぇー怖い顔で睨んでるし。
「何だ、林田その目は! そんな格好して、疑われたって文句は言えないんだぞ!」
挑発してんのあんただろ。これの何処が指導だ。
「見た目で判断するのは間違ってる!」
人は見た目じゃ分からない。俺がこの一ヶ月で、嫌ってほど学習したことだ。
でも、やばい。ちょっとばかし声を荒らげすぎたか。
職員室にいる同僚たちの視線が、一斉に俺へと集まる。
こりゃ、後で指導受けるのは俺の方かも。
血圧上昇中なのか川崎先生の顔は真っ赤で、教頭だけじゃなく川崎先生にも目を付けられた可能性大だ。
――いや、確定だろうな。さてと、どうすっか⋯⋯。
考えながら目を動かした先には、新品の腕時計。その針は12をとうに回っていた。
もう昼も過ぎているし、そろそろふたりを解放してやるべきだろう。腹も減っているだろうし、俺だってペコペコだ。
「川崎先生、今日のところは――」
「あの」
この辺で勘弁してください、と続けるはずが、またもや邪魔が入る。
今度は誰だ、俺の話を遮るのは! と声の主を探せば、それは手伝いを押し付けていた奈央だった。
「沢谷先生、もう終わったので帰ってもいいですか?」
柏木たちに気を取られていたせいで、奈央の存在をすっかり忘れていた。
「あぁ、ごめんな水野。サンキューな」
「私もそう思います」
⋯⋯はい?
えーっと、奈央!? 俺と話が噛み合ってないようなんだが。
一体、何がどうして『そう思う』に至ったんだ?
「どうした水野?」
奈央の瞳は問い掛ける俺には目もくれず、華麗に素通りしていった。