それからも柏木の質問は幾つか続き、曖昧な言葉で返す俺と笑みだけでかわす奈央。
柏木の自宅付近まで来て漸く、心臓に悪いトークも終わった。
「柏木、次どっちいけばいい?」
「あ、その十字路を左に⋯⋯本当にすみません。家まで送ってもらっちゃって」
「気にすんな」
家までの道を訊ねる俺の横では、
こらっ、奈央!
何、お前は煙草なんて取り出してんだよ。誰がそこまで大人のフリしろっつった! そもそも、どうして持ってるんだ!
怒鳴りたくても叶わずの状況下、思いっきり睨みを利かせながら左手で煙草を奪う。
俺の睨みなど屁でもない奈央は、前を向けとばかりに偉そうに顎をしゃくりやがった。
――覚えとけよ、この小悪魔。
チラチラと奈央を
「先生、あそこのマンションです」
「おぅ、了解⋯⋯あ? あれって、林田じゃないか?」
「えっ」
柏木の自宅マンション前では、青い傘を差した林田が佇んでいた。
小さく驚いた声を出した柏木は、「先生、ちょっと待ってて」と言うと、車が停まるなり林田の元へ駆け寄り、二言三言交わしてから運転席側に戻って来た。
「先生、彼女さん。本当にありがとうございました」
「もう無理はすんなよ。何かあったら、俺じゃなくてもいいから誰かに言え」
「うん」
そんな柏木に林田が近付いてきて傘を頭上にかざす。
「よぅ、林田」
「⋯⋯」
にこやかに声をかけてみても、まるっと無視。林田は俺を眼中にも入れず、助手席の奈央へと視線を注ぐ。
「先生の彼女さんだよ」
ご丁寧にも柏木が林田に説明をする。
「え」
微かに漏れ出た林田の声。眼差しは縫い付けられたように奈央から離れない。
奈央もまた、それを受け止めるように首を少しだけ動かし、サングラス越しに林田を見ている。微塵とも笑みを浮かべず、寧ろ冷たさを漂わせて。
恋人役に徹するなら、ここは笑みの一つでも作った方がいいんじゃないのか。
たった数秒の出来事なのに、何となく嫌な空気が孕む緊張感。
とうとう奈央は笑み一つ見せずに前へ向き直ると、二度と林田の方へ視線を向けることはなかった。
「じゃ、俺たち行くから。柏木、風邪引かないように体温めろよ。林田もまたな」
アクセルを踏み込み車を発進させると、直ぐ様、説教を始める。
「お前な、なに調子に乗って煙草吸おうとしてんだよ!」
叱られても全く堪えない奈央は、かったるそうにサングラスを外し、帽子を取って乱れた髪の毛を整えている。
「それより林田、奈央だって気付いたんかな? えらく見られてたよな?」
「心配ない」
「何を根拠にそんなことを。ま、バレたらバレたで、そん時考えるか。にしても柏木の奴、大丈夫なんかなぁ」
「⋯⋯」
無反応なのはいつものこと。そんな奈央を気にせず、大分遠回りはしたが、予定通り買い物を済ませ家路に着いた。