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第43話

 2学年最後の学年末試験を明日に控えているせいか、朝のSHRは、教室全体が緊張を孕んだ雰囲気に包まれている。


 そんな中、俺はピリピリと苛立ち、数分後にはソワソワと落ち着きをなくし、更に数分後には、バクバクと心臓が喚いて心配へと変わる。


 ───どこに行った!!


 出席を取る時間にいない柏木。最近は、休むことは少なくなったが、今日は遅刻だろうか。


 だが、俺の心配はそれだけじゃなかった。


 ⋯⋯ない。何度見渡しても同じ。奈央の姿がどこにもない!


 昨夜は泊まりこそしなかったが、奈央は朝になってコーヒーが飲みたいと部屋にやって来た。

 無理矢理叩き起こされ、寝ぼけながらもコーヒーを淹れてやると機嫌良く美味そうに飲んだ後、俺より早く家を出たというのに。


 何してんだよ。

 それとも、奈央の意思に関係なく、何かに巻き込まれたとか?

 事故か、事件か、まさか⋯⋯ゆ、誘拐!?


 俺の思考は、悲観的なものばかりに支配される。


「珍しいわね。水野さんが連絡無しに学校に来ないなんて。何かあったのかしら?」


「ですよね。電話入れてみます」


「そうね。沢谷先生、お願いします」


「はい、分かりました」


 クラスを後にし職員室へ向かいながら、福島先生と共に不安を募らせる。


 職員室に入るなり、急いで自分の机に向かい受話器を握り締めた時、他の先生から福島先生に声がかかった。


「福島先生。水野さんから連絡がありまして、途中で気分が悪くなったので、一旦、自宅に戻り、落ち着いてから登校するそうです。明日は試験なので無理しないよう言っておきました」


「そうですか。分かりました、ありがとうございます」


 福島先生は『大丈夫だ』と合図を送るように、俺を見て頷いた。


 連絡があったことにはホッとするが、心配だけは拭えない。


 奈央は、ひとりで苦しんでないだろうか。


 状態を知りたくて、スマホを手に取り、人目のつかない非常階段へと向かう。


 ⋯⋯出ねぇ。


 短時間に何度掛けても、聞こえてくるのは無機質な機械音と、留守電へと繋ぐ事務的な女の声ばかり。


 お前の声は聞き飽きたんだよ!


 事務的な女に向かってぼやいてみても、決められたフレーズばかりが繰り返される。


 ダメだ、タイムリミットだ。


 心配しながらも時間となり授業へ向かうしかなかった。




 1時間目の授業が終わりクラスへ顔を出してみても、まだ奈央は姿を現さず、2時間目が終わって覗いた教室では、柏木が顔を見せていた。


 やっと奈央の姿を確認できたのは、3時間目が終わってからのことだった。

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