2学年最後の学年末試験を明日に控えているせいか、朝のSHRは、教室全体が緊張を孕んだ雰囲気に包まれている。
そんな中、俺はピリピリと苛立ち、数分後にはソワソワと落ち着きをなくし、更に数分後には、バクバクと心臓が喚いて心配へと変わる。
───どこに行った!!
出席を取る時間にいない柏木。最近は、休むことは少なくなったが、今日は遅刻だろうか。
だが、俺の心配はそれだけじゃなかった。
⋯⋯ない。何度見渡しても同じ。奈央の姿がどこにもない!
昨夜は泊まりこそしなかったが、奈央は朝になってコーヒーが飲みたいと部屋にやって来た。
無理矢理叩き起こされ、寝ぼけながらもコーヒーを淹れてやると機嫌良く美味そうに飲んだ後、俺より早く家を出たというのに。
何してんだよ。
それとも、奈央の意思に関係なく、何かに巻き込まれたとか?
事故か、事件か、まさか⋯⋯ゆ、誘拐!?
俺の思考は、悲観的なものばかりに支配される。
「珍しいわね。水野さんが連絡無しに学校に来ないなんて。何かあったのかしら?」
「ですよね。電話入れてみます」
「そうね。沢谷先生、お願いします」
「はい、分かりました」
クラスを後にし職員室へ向かいながら、福島先生と共に不安を募らせる。
職員室に入るなり、急いで自分の机に向かい受話器を握り締めた時、他の先生から福島先生に声がかかった。
「福島先生。水野さんから連絡がありまして、途中で気分が悪くなったので、一旦、自宅に戻り、落ち着いてから登校するそうです。明日は試験なので無理しないよう言っておきました」
「そうですか。分かりました、ありがとうございます」
福島先生は『大丈夫だ』と合図を送るように、俺を見て頷いた。
連絡があったことにはホッとするが、心配だけは拭えない。
奈央は、ひとりで苦しんでないだろうか。
状態を知りたくて、スマホを手に取り、人目のつかない非常階段へと向かう。
⋯⋯出ねぇ。
短時間に何度掛けても、聞こえてくるのは無機質な機械音と、留守電へと繋ぐ事務的な女の声ばかり。
お前の声は聞き飽きたんだよ!
事務的な女に向かってぼやいてみても、決められたフレーズばかりが繰り返される。
ダメだ、タイムリミットだ。
心配しながらも時間となり授業へ向かうしかなかった。
1時間目の授業が終わりクラスへ顔を出してみても、まだ奈央は姿を現さず、2時間目が終わって覗いた教室では、柏木が顔を見せていた。
やっと奈央の姿を確認できたのは、3時間目が終わってからのことだった。