あおいが目を覚ますと、目の前にアレックスの顔があった。
「あおい、扉の鍵が開いていましたよ」
「きゃあっ! アレックス様!?」
「呼んでも返事がなかったので、勝手に入ったことはお許しください」
アレックスは困った表情であおいを見ていた。
「はい、差し入れのパンとチーズです。二日酔いはもう直りましたか?」
「え!? どうしてそれをご存じなんですか?」
アレックスはため息をついた。
「冒険者の館で、カイとロイドさんから聞きました」
「……あのおしゃべりめ。言わないって言ったのに……」
アレックスの視線は厳しかった。
「あおい、あなたも年頃の女性なのですから、一人で酒場などに行ってはいけませんよ」
「はい、アレックス様」
あおいはアレックスの顔を見るのが怖かった。
「一緒にロイドさんがいたから良いようなものの」
アレックスはもう一度ため息をついた。
あおいは身を小さくして俯いた。
「もう、抱きついたりしません……」
「抱きつく!? なにをしたんですか? あおい」
アレックスの声が大きくなった。だれも、あおいがロイドに抱きついた話はしていなかったらしい。
「え、あの、その」
「あおいはよっぱらって、ロイドさんに抱きついたのですか?」
「……はい」
アレックスの目が冷たい。あおいは布団の中に潜りたくなった。
「あおい、つぎからお酒を飲むときは私も誘ってください。ひとりで飲ませるのは危険すぎます」
「はい、わかりました」
あおいはアレックスに、お酒の注意をされるとは思っていなかった。
「ところで、今日は何の用事で家にきたのですか?」
あおいの問いかけにアレックスは目をそらした。
「市場にも、図書館にもあおいが現れないので、何かあったのではないかと思ったのです」
「アレックス様……。ありがとうございます」
あおいは、ただの二日酔いだったことが恥ずかしかった。
「もう、ロイドさんと二人きりで飲んだり、一人で飲んだりしません」
「そうしてくださると安心です。ロイドさんも人が良くて助かりました」
「はい」
アレックスは、持ってきたパンとチーズを台所において、あおいの家を後にした。
「ああ私、ほんとに、何やってるんだろう」
あおいはアレックスの持ってきてくれたパンにチーズを挟んで食べた。
「アレックス様、優しいなあ……」