あおいは、久しぶりに市場にクレープを売りに来ていた。
「クレープいりませんか? 美味しいですよ!」
あおいの移動販売では、クレープは直ぐに売り切れてしまう。
「どうしよう、この辺りでクレープ屋さんを開けないかな?」
あおいは困って、冒険者の館に行った。
「あの、カイさん。相談なんですけど」
「どうしたの? あおい?」
「実は、街にクレープ屋を開きたいと思ってるんですけど、良い空き家とか有りませんか?」
カイはちょっと悩んだけれど、直ぐに返答した。
「ちっちゃいお店で大丈夫?」
「はい」
カイは物件の案内を持ってきた。
「この家は花屋さんだったんだけど、お店閉めてる。今は空き家になってる」
「うん、これなら大丈夫だと思います」
「月々、一ゴールドで貸し出し中だよ」
「はい、払えます」
カイはあおいの返事を聞いて、頷いた。
「それじゃ、前金の一ゴールド」
カイが手を出したので、あおいはポケットから一ゴールドをだしてカイの手にのせた。
「じゃあ、契約書はこれ。名前と住んでいるところを書いておいて」
「はい」
あおいは契約を済ませると、さっそくお店を見に行った。
「ここか。うん、市場からまあまあ近いし、悪くなさそう」
中は埃だらけだった。
「掃除して、必要な機材を運び入れなきゃね」
「おーい! あおい、居るか?」
「はーい。あ、ロイド様」
「冒険者の館で、店を借りたって聞いたから来てみたんだけど」
ロイドは先日のあおいの失態は忘れているようだった。
「なんか手伝えることあるか?」
「あります! 助かります!!」
あおいはそう言って、クレープを焼くための器具と冷蔵庫の買い出しをロイドに手伝ってもらった。
「あおいは、思いついたら直ぐ行動するんだな」
「はい、チャンスは一度きりですから」
「まあ、……ある程度は考えた方が良いぞ」
「はい……」
あおいはロイドのたしなめるような口調に、少し反省した。
「店はなんて名前にするんだ?」
「あおいのクレープ屋です」
「そのまんまだな」
ロイドは吹き出した。
「クレープ以外も売るのか?」
「はい。錬成した物を少し並べようと思います」
「そうか。王宮に許可はとってあるのか?」
「え。許可が必要なんですか?」
ロイドはため息をついた。
「街に店を構えるときは、王宮に許可書を提出しないといけないんだ」
「そうでしたか。それは、どこで手に入るんですか?」
「王宮に行けば、手に入るよ」
ロイドの言葉を聞いて、あおいは王宮に向かった。
「すいません。お店を開きたいんですが」
「はい、それならあちらの窓口に行ってください」
「はい」
あおいは王宮で、指定された窓口に行くと書面を手渡された。
「こちらに名前と住所、何屋を開くのかを記載してください」
「はい、わかりました」
あおいは言われた通りに書類を書いた。
「……クレープ屋とは何ですか? それと錬成物とは何ですか?」
「えっと、錬金術で作ったお菓子です」
「錬金術!? ちょっとお待ち下さい」
受付の人が奥にひっこんでしまった。
「錬金術って、なにかまずかったかな?」
あおいが不安になって立っていると、声を掛けられた。
「あおい、何をしているんですか?」
「アレックス様! えっと、今はお店の開店申請をしています」
「そうでしたか」
アレックスと話していると、受付の人が戻ってきた。
「残念ですが、錬金術は危険なので開店申請はお受けできません」
あおいが俯くと、その肩をアレックスが叩いた。
「僕が許そう。あおいは危険な物は作らないよ」
「アレックス様!?」
受付の人はアレックス王子の直々の許可があるのならば、と開店申請が通った。
「アレックス様、ありがとうございます」
「市場だとクレープ屋は直ぐに売り切れてしまって、なかなか食べられないからね」
アレックスはそう言って微笑んだ。
「それじゃ、準備はもう整った? 何か手伝って欲しいことはある?」
あおいは首を振った。
「ロイド様が、店の準備を手伝ってくださったので、あとは一人で大丈夫です」
「そうか、ロイドさんが手伝ったのか」
アレックスの表情が、少しつまらなそうな感じに変わった。
「あおいはロイドさんと仲が良いね」
「お世話になってばかりですけど。アレックス様にもお世話になってます」
あおいはぴょこんとお辞儀をした。
「あおいはロイドさんが好きなの?」
「はい、普通に好きですけど。いい人だし」
「そうですか」
あおいはアレックスの綺麗な横顔に笑みが戻って、少しホッとした。