あおいはドアをノックする音で目を覚ました。
「はーい、どちら様ですか?」
「宮廷魔術師のクレイグです」
「え!? クレイグ様!? ちょっとお待ちください」
あおいは慌ててパジャマから普段着に着替えると、ドアを開けた。
「お待たせ致しました。あの、なにかご用でしょうか?」
クレイグは銀髪のボブヘアーを掻き上げながら、物憂げに言った。
「アレックス様から、あおい様に魔法の訓練をするよう申し使った物ですから」
クレイグの青い目が、あおいを見つめている。
「そうですか……。ありがとうございます!!」
あおいは少し緊張しながらもお礼を言った。
「それでは、訓練は始められますか?」
クレイグが言うと、あおいは答えた。
「あの、朝食を取ってからでもよいですか?」
そのとき、あおいのお腹がぐぅっとなった。
「ああ、そうですね。すこしおじゃまするのが早すぎましたね。どうぞ、朝食をお召し上がりください」
あおいはそれを聞いて言った。
「クレイグ様、ではお部屋でお待ちください」
あおいはクレイグをダイニングのテーブル席に案内した。
「あの、よかったら一緒に食べませんか?」
「そうですね、すこしなら食べられます」
クレイグの答えに、あおいは台所に立った。
「じゃあ、トーストと紅茶を用意します」
あおいはベーコンエッグ一人分と、トーストと紅茶二人分を用意した。
「どうぞ、お口に合うと良いんですけど」
「いただきます」
クレイグとあおいは、もぐもぐと朝食を食べた。
「美味しいです」
「よかった」
あおいはやや急いで朝食を取ると、クレイグはトーストを食べ終え紅茶を飲んでいた。
「ごちそうさまでした」
「お粗末様でした」
クレイグは言った。
「今日は基礎の攻撃魔法と、防御魔法を教えます」
「はい、よろしくお願いします」
二人は外に出ると、クレイグが持っていた杖を庭に刺した。
「炎をイメージをして、ファイアと唱えてみてください」
「はい。ファイア!」
あおいは手を伸ばして、杖に向かって呪文を唱えた。するとあおいの手元に、小さな炎が現れて消えた。
「はい、分かりました。次は氷をイメージして、ブリザードと唱えて見てください」
「ブリザード!!」
あおいの手元に小さな氷の粒が現れて地面に落ちた。
「ありがとうございました。あおい様、申し訳ないのですが魔法の適正能力はごくわずかのようです」
「そうですか……そんな気はしてました」
あおいはがっかりした。
「あおい様、アレックス様には私から申し伝えておきます。魔法使いとして戦いに行くには、やや心許ないと」
「はい、クレイグ様」
あおいは力なくうなだれていた。
「元気を出してください。アレックス様はあおい様の錬成した食べ物でずいぶん活躍していますよ」
あおいは、クレイグが慰めてくれるとは思わなかったので驚いた。
「それでは今まで通り、錬成物をアレックス様に用意して頂けますか?」
「はい、それならご心配なく! 新しい物も作ってみます」
「あ、そうそう、姿が消せるミルクキャラメルはアレックス様に渡さないで下さい」
クレイグの青い目が冷たく光り、あおいはギクリとした。
「アレックス様は暇さえ有れば、町の様子とあおい様の様子を見に、すぐに王宮から逃げ出してしまうので困惑しております」
「……分かりました」
「それでは、今日はこれで失礼致します」
クレイグは礼儀正しく、別れの挨拶をした。
「今日はありがとうございました」
あおいも頭を下げた。
去って行くクレイグを見ながら、あおいは呟いた。
「あーあ。魔法の才能は無いのか。アレックス様と戦えると思ったんだけどな」
あおいは一人ため息をついた。