あおいはドレス代を稼ぐ為、今日も店に出ていた。
「いらっしゃいませ! あおいのクレープ屋です!」
すぐに行列が出来るのは、いつものことだったがありがたかった。
「こんにちは。あおい」
あおいがチョコクレープをお客さんに渡し終わったとき、声をかけられた。
「アレックス様!」
アレックスは行列に並んでいたようだった。家に来れば待たなくてよいのに学習しないな、とあおいは思った。
「あおいはこの前、メイド長のクレアにしごかれたようですね」
「アレックス様の命令じゃなかったんですか?」
あおいは戸惑って訊ねると、アレックスは首を振った。
「クレアは真面目でちょっと怖いので、私は苦手なんですよ。きっとクレイグの指示ですね」
アレックスはそう言って両手をあげた。お手上げ、と言う意味のようだ。
あおいはアレックスにクレアから教わったことを伝えた。
「お城でのマナーとか、ダンスのマナーとか、クレア様には色々教えて頂きました」
あおいは、コルセットが苦しかったことは黙っていた。
アレックスはそれを聞いて微笑んだ。
「そうですか。それなら今度のパーティーには、あおいも参加できるかもしれませんね」
アレックスの言葉を聞いてあおいは訊ねた。
「パーティーですか?」
「はい。私の誕生日パーティーは町の皆も参加できるんですよ」
「そうなんですか!? おめでとうございます! でも、皆参加できるなら特別なマナー講座は必要なかったんじゃないですか?」
アレックスはちょっと、すねたような表情で言った。
「特に仲の良い人たちに、私からあおいを紹介することもあるでしょう?」
「何故ですか?」
あおいはきょとんとしている。
「……酷いですね、あおい。将来を誓い合った仲だというのに」
アレックスが上目遣いで言うと、あおいの顔が真っ赤になった。
「ち、誓い合っていませんよ!!」
「私のことが嫌いなんですか?」
アレックスが意地の悪い顔で、微笑んだ。
あおいは真っ赤な顔で、アレックスに抗議した。
「アレックス様、私をからかわないで下さい!!」
そのとき、後ろのお客さんから声をかけられた。
「おい、ねえちゃん、いちゃついてないで早く注文取ってくれよ」
「いちゃついてません! アレックス様、注文して下さい!!」
「チョコクレープを一つお願いします」
「はい!」
あおいはチョコクレープを一つ作り、アレックスに乱暴に渡した。
「あおい、それではまた今度ゆっくりお話ししましょう」
「うう、なんかごまかされたような気がする……」
あおいはアレックスが帰っていくと、次々と新しいお客さんをさばいて行った。