「ねえ舞奈。それから絵美里とルルも。俺達ってさ、今凄く仲いいじゃん?でもさ、なんかこう『普通のお付き合い』みたいなのをすっ飛ばしちゃった気がするんだけれど。……良いのかな?」
ウッドストック侯爵家の騎士団との訓練を終え、ちょうど私の自室でお茶の準備をして待っていた私たち3人に対し俊則が問いかけてきた。
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すでに覚醒して3か月が過ぎた今、騎士団長程度では手も足も出ないため、今では騎士団全員に対し、俊則は目隠しをし無手でひたすらよけ続ける訓練を黙々とこなしていた。
元々武闘派で知られていたウッドストック騎士団。
流石に団長は思うところがあるようで最近では特に厳しい訓練を行うようになっていた。
「いくら勇者様とはいえ……我々が今までいかに温かったのか実感いたしました。ロナリアお嬢様、ありがとうございます」
何故か目に涙を浮かべた騎士団長が決意を新たに地獄の訓練を団員に課すようになり……
これをきっかけにうちの騎士団は王国きっての精鋭になるのだが……それはまた別のお話。
有事の際に頼りになる我が騎士団。
お父様はホクホク顔だが。
怪我だけはしないでね。
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「お疲れ様です先輩♡……確かに私たち、いきなり、その、えっと……あう♡」
「シュラド様♡……私、満足しています。問題ないですよ?」
顔を赤らめ返事をする絵美里とルル。
相変わらずこの二人は俊則大好き過ぎる。
確かにこの世界、意外とスチル映えする施設は数あれど、私たちはそういう場所へ行ったこともなかった。
私と俊則はそれこそ転生前でも一度しかデートをしていないし、絵美里もルルも、俊則との二人きりでのお出かけなどは皆無だ。
いきなり体を合わせてしまったため確かにお互い深く理解し合ってはいるが……
そもそもほとんどを侯爵家で過ごしてしまっていた。
「そうだね。確かに私たち、そういう事全然経験していないよね。最終決戦まであと3か月。シナリオも落ち着いたことだし、それぞれでデートしてみよっか」
うん。
私も俊則と出かけてみたい。
当然絵美里とルルもそうだと思う。
「うん。俺もそうしてみたいんだよ。舞奈も絵美里もルルも、そ、その、凄く可愛くて…俺さ、日本にいた時舞奈と一度だけデートしたけど、凄く嬉しかったんだよね。……だから3人ともっとそういう事したいんだ」
顔を赤らめる俊則。
くう、可愛すぎか!?
「あう♡」
「シュラド様♡」
絵美里とルルも目がハートになっちゃったし…
あー、でも、凄く楽しみかも。
3人が目を輝かせていると俊則は私を抱きしめる。
思わず固まってしまう。
「うあ?え、な、なに?ど、どうしたの?!」
「うん?嬉しくて。……舞奈、反対するのかなって思っていたから……ありがとう」
凄く優しい目で私を見つめる俊則。
それ、反則です。
「反対しないよ。私も楽しみ。ねえ、私は最後でいいからさ。最初は絵美里かルルと行って来たら?……私ちょっと考えたいんだよね。ほら、私もロナリアの記憶ないから、この世界の遊ぶ場所、知識はあっても実際には知らないのよね」
転生してから今まで、本当に怒涛の展開だった。
私にロナリアの記憶はない。
ゲームの情報は頭に入っているものの、せっかくの機会だ。
ちゃんと調べてから行動したい。
「えっ?良いんですかロナリアお姉さま。……だったら私、シュラド様とモルテクス精霊公園に行きたいです。お弁当作ります♡」
ルルが目を輝かせ手を上げる。
顔が上気して可愛い。
「それなら私はお買い物デートしたいです。ウッドストック領はきっと舞奈さんのおかげで世界一いろいろなものがありますから……先輩?一緒に行ってくれますか?」
「うん。是非一緒に行きたい。じゃあ3日後にルルと、それから5日後に絵美里でいいかな。舞奈は準備が出来たら教えて。……ああ、楽しみだな」
そんなやり取りをしながら私たちは楽しいお茶の時間を過ごした。
そして3日後。
※※※※※
「ふわー、ルル、めっちゃ可愛い。……ああ、俺は幸せ者だ」
今日のルルは気合が入っている。
何と昨日の夜、お母さまの侍女であるハンナがとことんルルを磨きぬいてくれていた。
「あう♡……嬉しい」
キレイな茶色の髪をハーフアップでまとめ、可愛らしいイヤリングをつけたルル。
いつも清楚形な顔立ちが、少し小悪魔っぽくお化粧を施している。
白のブラウスに若草色のスカート、ワンポイントの朱色のスカーフが可愛い。
俊則はそっとルルの手を取る。
ルルの顔が赤く染まる。
「ルル、行こうか。……レネックさん、今日はよろしくお願いします」
「へい。お任せください」
せっかくのデートだ。
転移魔法で一瞬では趣がないので馬番のレネックにお願いしていた。
「ルル、楽しんでらっしゃい。……シュラド様、ルルをお願いしますわね」
「はい。ルイラ様。じゃあ行ってくるよ」
俊則のエスコートで馬車に乗るルル。
もうすでに夢見心地なのだろう。
うっとりとしていた。
「なんか妬けちゃうわね。はあ。……でも、こういうことは必要よね。……絵美里、お茶にしよっか」
「ふふ。そうですね。はい、承知しました」
二人を見送った私と絵美里はしばらくお茶を飲みながら談笑した。
※※※※※
今日行く『モルテクス精霊公園』はウッドストック領内にある自然公園で、多くの家族連れが訪れる観光スポットだ。
中央にある『精霊の泉』には水の精霊が住むといわれており、運が良ければ彼女たちの姿を見る事が出来る。
もっとも精霊自体気まぐれなのでなかなかお目にかかる事はないのだが…
「ルル、君は行った事があるのかい?」
「はい。もうだいぶ前ですけど……まだお父様とお母さまが生きているときに一度行った事があるんです」
ルルは今15歳。
彼女の両親は4年前流行り病で儚くなってしまっていた。
「そうだったんだね。ああ、楽しみだな。……ルル、可愛い」
俊則はそっとルルを抱きしめる。
ルルの鼓動がとくんと跳ねる。
「うあ……嬉しいです……大好き♡」
そっと体を預けるルル。
彼女の柔らかい体温に、俊則の胸は高まっていく。
「ねえ、シュラド様?……その、私で良いのでしょうか?……いきなり、あんなことになっちゃいましたけど……わ、わたし、その、百合です……」
「うん?俺はルルの事大好きだよ?……ルルは凄く可愛い。俺は君の瞳が大好きなんだ。そして君の心も。……強くて、そしていつも一生懸命だ。……尊敬する」
「!?…もう。……私、幸せです♡」
二人は指を絡ませながら手をつなぎ合いイチャイチャし馬車の旅を楽しむ。
たまに馬車が揺れ、肩が触れ合うたびに見つめ合う二人。
馬車はピンクのオーラに包まれていた。