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SS―9.ドレスト侯爵のミッション

モルテクス精霊公園に着くと、公園内にはいくつかの屋台が出ており、どうやらちょうどいま『精霊祭』なるものが開かれているようだ。


季節の花々が咲き誇り、多くの家族連れがその光景に顔をほころばせていた。


「はあー、キレイ。シュラド様、お祭りやっていますね」

「うん、そうみたいだね。……!?精霊?……ルル、精霊がたくさんいるよ」


覚醒した俊則は今通常の感覚ではなくなっていた。

公園内で優雅に過ごしている精霊を感知していた。


「えっ?本当ですか?……見てみたいです」


目を輝かせるルル。

凄く可愛い。


「ふう。俺は精霊よりも可愛いルルを見たいかな。……今のルル、めっちゃ可愛い」


言うが早く俊則はルルをそっと抱き寄せる。

柔らかい彼女の体と優しい匂いに鼓動が跳ねてしまう。


「あう♡……もう、みんな見てます……恥ずかしい」

「あ、う、うん、ごめんね?……はあ、ルル、可愛すぎる……」


抱きしめた時にすごくいい匂いがしてドキドキする。

今まででは考えられないようなことをしてしまった自分に俊則は驚いていた。


(いつもと違うルルが、本当に愛おしくなったんだ。……やっぱりデートだと感動が違う……はあ、本当に可愛い……)


そんなことを考えているとルルの可愛らしい手が俊則の手をそっと握り歩き出す。


「シュラド様?向こうに精霊の泉があるんですよ。行きましょう」

「う、うん」


ルルは華奢だ。

身長も145cmくらいしかない。

きっと体重も40キロもないのだろう。


でもすごく元気で愛くるしい女の子だ。

見ているだけで癒される。


キレイな茶色の髪を丁寧に編み込み、鳶色の瞳によく似合う。

まだ15歳。


異世界だし舞奈が言う通りゲームの世界なのだろう。

凄く美形だし整った顔をしている。

スタイルだってやや控えめではあるものの出るところはしっかりと出ているし腰なんかは驚くほどしまっている。


アイドルなんて目じゃないほど可愛い。


こんなに可愛い子とデートしているなんて日本では考えられない事だ。

俊則は繋がっている手から溢れてくる想いに、好きな気持ちがどんどん増していく事を実感していた。


※※※※※


俊則とルルがイチャイチャしている一方。

幸せ溢れる会場で一人不穏な空気を纏っている若者がいた。


眉間にしわを寄せ、横柄な態度で毒づきながら歩いているのは宰相の長男であるアントニオ。

彼はつい先ほど無理やり馬車でこの会場へと連れてこられていた。


※※※※※


「ふむ、どうやらお前は心に余裕が無いようだな。せっかく優秀な血筋だというのに、心が曇っている。……そうだな、精霊の加護をもらうといい。ちょうどいまモルテクス精霊公園では精霊祭が開かれておる。最上位とは言わぬ。せめて中級の精霊に会ってくるのだな」


そう言われ拒絶する暇もなく馬車に押し込められてしまっていた。

ドレスト侯爵の言葉は絶対だった。


「くそっ、何が『心を清める修行』だよ。精霊なんか見えるわけないのによっ!」


宰相の長男であるアントニオはドレスト侯爵の指示でモルテクス精霊公園に来ていたが、侯爵様のミッションに対し不満をあらわにしていた。


「しかも見つけるまで帰ってくるなだと!?……なんで俺がこんな目に……これもあの女、ロナリアが出しゃばったせいだ」


※※※※※


あの王国に大激震を引き起こした『ドレスト侯爵家長女エリス誘拐未遂事件』


一般的にはカイザーがやらかし、ウッドストック侯爵家のレイナルドが解決したことになっているが、一部の高位の貴族家にはまことしやかにささやかれている噂があった。


ウッドストック侯爵家の長女ロナリア。

彼女の手引きによってすべてが覆されていたという事を。


あの断罪の日、確かにアントニオはロローニとエスベリオとともにエリス嬢を押さえた。

しかしそれもすべてはカイザー第2王子殿下の指示だった。


そしてその後公式にはお咎めはないものの何故かドレスト侯爵に目をつけられて現在に至っていた。


※※※※※


『……反抗的な態度……マイナス1ポイントですね』

「っ!?ちょっ、ちょっとまてよ、少し文句言っただけだろ?やるよ、ちゃんとやるから……」


どこからともなく声が聞こえる。

当然だがドレスト侯爵はアントニオのことなど1ミリも信用していない。

ゆえに侯爵家の諜報部隊が常に必ず見張っていた。


あの断罪の日から、いや、計画がとん挫した日からアントニオはついていない。

それまでは見た目の良さと優秀な頭脳から、多くの女性から言い寄られる日々を送っていた。


いくら出来が悪いとはいえカイザーは第2王子。

宰相の息子であり、さらには王子の側近ともなれば将来は約束されていたはずだった。


そして実はカイザーが傾倒していた女性『ミリー嬢』も実は数度体の関係を持っていた。

当然バレていたわけだがとうの本人は全く分かっていなかった。

ミリー嬢、いや絵美里の誘惑はすでに解除済みだ。

だがアントニオはいまだにミリーの事を想っていたのだ。

まあ主に『肉欲』なのだが……


「くそっ、カイザーの阿呆が自爆したおかげで最悪だ。……ああ、ミリー、君はどこへ行ってしまったんだ?……愛しているのは君ひとりなのに……あの体、ああ、また君を感じたいよ……っ!?…あいつ!?……確か勇者だ……女連れ?」


そんな彼の目に仲睦まじく歩く男女が目に入る。

そして悍ましくも歪む顔。


「くくくっ、良いご身分だなあ。あいつ確かロナリアといい関係のはずだ。……あの女…確かロナリア付きのメイドだったはず……勇者とはいえ火遊びが好きなのか?くくくっ、精霊なんかよりももっといいものを見つけた」


独り言ち、俊則たちの後をつけ始めるアントニオ。

欲に心が濁った3馬鹿の一人が勇者と対峙する。


そしてこの出会いが、この世界のシナリオを完全に打ち砕くきっかけとなる。

超お人よしの俊則のチートが炸裂するのだが……


この時まだアントニオは気づいていなかった。


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