お茶を飲みながらも二人の会話は自然と盛り上がる。
お互いがお互いを心の底から愛している。
そして尊敬し合っている。
見つめ合う二人。
そんな様子に店内にいる他の客からため息が漏れてしまう。
「ねえ、あの二人……とっても素敵……それに比べ…はあ」
「お、おい、酷くねえ?ため息とか。まあ、確かにあの二人、メチャクチャお似合いではあるけどさ」
思わず不貞腐れる男性。
そんな様子に向かいに座る女性はにっこりとほほ笑む。
「なあに?嫉妬しちゃった?ふふっ、可愛い♡」
「お、おい、からかうなよ……お前だって……すげー可愛いし……」
「え?……も、もう……す、少し熱くない?この店」
どうやら俊則と絵美里のオーラが周りに感染したようだ。
何故かカップルたちは急に顔を赤らめ始めてしまう。
そんなことに気づかない二人。
楽しげにおしゃべりに興じていた。
「ねえ絵美里、何か欲しい物とかある?良かったらプレゼントしたいんだ。今日の記念に」
「えっ?本当ですか?……嬉しい……じゃ、じゃあ…」
※※※※※
お茶を飲み終わり二人また仲良く手をつなぎ街の散策を始める。
特に予定を決めず、気になったお店に入る。
ただ二人でいるこの時間。
俊則も絵美里も本当に嬉しくて。
気付けばお昼を大分過ぎていた。
「絵美里、大丈夫?…疲れたでしょ?ごめんね、嬉しくて…たくさん歩いちゃったね」
「ううん。私こそ。…お腹空いたね」
「うん。あっ!あそこいいかも。絵美里、入ってみようか」
「はい」
午後1時過ぎ。
ピークを過ぎたお店は程よく空いていた。
「いらっしゃいませ」
店員さんの態度もとてもいい感じで二人は期待感が膨らんでいく。
「ふう。いいお店みたいだね」
「うん。あっこれ可愛い。センスもいいですね」
二人にとってきっと場所は関係なかった。
ただ一緒に居る。
それだけで二人は幸福感に包まれていた。
「お待ちどう様です」
程なく運ばれてきた料理。
何故かイタリアンをほうふつとさせるそれに思わず二人はニヤリと顔を緩める。
「スパゲッティ、ですよね?」
「うん。……こっちはビーフシチューだね」
まったく違う名前のその料理は味もほとんどそのままだった。
「こういうことがあると異世界に来たって実感しちゃうよね」
「ふふっ。本当にそう。……先輩?」
「うん?」
「ありがとう」
顔を染め真直ぐ俊則を見つめる絵美里。
その顔があまりに美しくて……俺は思わず返事を忘れてしまう。
「……先輩?」
「っ!?あ、ご、ごめん。……絵美里があんまりにも可愛くて……返事できなかった」
「っ!?も、もう。……嬉しい」
ああ、本当に可愛い。
もし今二人きりなら、俺は彼女を抱きしめていたと思う。
それほど彼女は可愛かったんだ。
二人の形成するラブラブ空間。
まるでピンクのオーラで包まれているような場所。
突然闖入者によりそれは破られた。
「ミリー?ああ、ミリー、やっと見つけた……お前、誰だ?どうしてミリーと一緒に居る?!」
突然二人の前で仁王立ちする男性。
絵美里の顔色が一気に悪くなる。
「…ロローニ、様……」
それはシナリオで出てきた男、ミリーと肉体関係を持ったことのある、騎士団長次男ロローニだった。
ロローニは突然絵美里の手を取り立ち上がる。
絵美里は痛そうに顔をしかめた。
「さあ、ミリー。こんな男放って置いて私と行こう。……ふう、君は美しいな……また可愛がってあげるよ?」
そう言って絵美里の肩を抱く。
俊則はすぐさま男の手を取った。
「失礼ですよ?それにミリー嬢は今僕とのデート中だ。あなたは関係ない。手を放してください」
ロローニを軽く押しのけ絵美里をかばう俊則。
その様子にロローニは激昂する。
「貴様っ!!無礼者がっ!!私は騎士団長の息子、ロローニだ。ミリー嬢は俺の女だ」
「違います。僕の大切な女性だ」
睨み合う二人。
店員はじめお客がざわめきだす。
「ここじゃ迷惑がかかる。ロローニさん?外に出ませんか」
「ふん。この臆病者が。そんなこと言って逃げるのか?」
そしてにやりと顔を歪めるロローニ。
突然とんでもない事を口走り始める。
「この女ミリーはな、激しくするのが好きなんだ。今だってきっと興奮している。……怯えたような表情もそそるな。さあミリー、気持ちよくしてやる。俺と来い!!」
そして強引に絵美里の手を掴む。
「い、いやっ、痛い、放してっ!」
「くっ、このっ、おとなしく言う事…ぐああっ?!!」
俊則から凄まじい魔力が立ち昇る。
ロローニの手を掴み、まさに握りつぶす寸前だ。
「ぐがあっ、くうっは、放せっ、き、貴様……ひぎいいっ?!」
「……絵美里、大丈夫?」
「……う、うん」
「ごめんね、いやな気持にさせて……ロローニ」
「ぐうあっ?!…な、なんだよっ?!」
「表へ出ろ」
俊則は手を掴んだまま転移する。
気が付けば周りに何もない草原に3人は立っていた。
「もう一度言います。ミリー嬢は僕の恋人です。過去の事は知りません。でも今はもう彼女は僕の大切な人です。……お引き取りを」
「だ、黙れっ!!ミリーは俺のものだ。渡さない、その女は最高の体なんだ。俺の物なんだよっ!!……さあミリー、思い出すんだ、散々よがっただろ?俺の事、忘れられないだろ?おまえの胸…」
「だまれっ!!!」
怒りの波動。
絵美里はビクリと肩を震わしてしまう。
こんなに怒った先輩。
見たことがない。
俊則はロローニに近づき、胸ぐらをつかみ上げる。
「貴様……どうしてそんな事が言える。…最低だな、お前」
「ぐうっ、な、何を……ひいっ?!!」
俊則の全力の怒りの魔力がロローニを包み込む。
むわっと嫌なアンモニア臭が立ち込める。
「分かったな。二度と僕たちの前に現れるな」
壊れたおもちゃのように頷くロローニ。
完全に心が折れていた。
手を離され蹲る。
俊則は一瞥すらせずに絵美里をそっと抱きしめた。
「ごめんね。怖がらせちゃったかな」
「……うん。ちょっと怖かった……でも」
「うん?」
「守ってくれて……嬉しかった」
そして転移していく二人。
残されたロローニはその瞳に暗いものをたぎらせていた。