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08.ラブラブカップル

「いってらっしゃーい」


 翌朝。

 ミサキに見送られてチェビルとオーガイは小学校へ登校する。

 まだ知り合いと呼べる知り合いもいないチェビルと違い、先に潜入していたオーガイには友人が多い。

 エルフが珍しいというのもある。

 小中一貫校でそれなりの生徒数がいるにもかかわらず、エルフの生徒はオーガイだけという有り様だ。


 ……これで潜入任務になるのか?


 確実に目立っているはずだ。

 しかしオーガイは小学生になりきっていた。

 怪しまれる点はない、らしい。

 むしろ年齢の割りに尖った印象のあるチェビルの方が、小学生らしからぬと言えるほどに、オーガイは小学生をやっている。


 ……確か脳内のチップで人格を入れ替えているんだったな。


 自然と小学生らしい振る舞いを行うオーガイ、その実は人格を機械で切り替えているからだ。

 チェビルも同じようにしてくれれば、と思わなくもないが、それはできない相談らしい。

 脳内チップで人格を制御するのには向き不向きがあるそうで、チェビルの場合は人格制御の訓練に数年以上を要すると試算が出ている。

 つまり向いていないのだ。


 長い溜息を吐く。

 初等部の校門前で、昨日校内を案内してくれた女子に会った。


「あ、おはよ……う?」


「おはよう。どうかした?」


「あの……チェビルくん。オーガイさんとは仲がいいの?」


「え?」


 横を向くと、オーガイが笑顔で立っていた。

 友人は多いオーガイだが、深い付き合いはしない。

 仕事柄そういう風に振る舞っているからだが、チェビルは例外だった。

 周囲の生徒たちも、固唾をのんでチェビルの答えを待っている。


 チェビルには理解できなかったが、実はオーガイはかなりモテるのだ。

 男子にはもちろん、女子からも可愛がられている。

 エルフというのはそもそも美形に生まれてくる種族であり、幼さのある顔立ちのオーガイの可愛らしさときたら天使もかくやというものであり、その人気は中等部にまで轟いている。


 そしてチェビルにはもっと理解できなかったが、実はチェビルの顔もかなり良かった。

 本人に自覚はないが、ミサキが髪のセットを指導したり、制服の着崩し方を指導したりしていて、オシャレで清潔感もある、つまりモテる要素をたっぷりと持っているのである。

 だから昨日、女子から学校の案内を、と声がかかったのだが、当の本人はまるで気づいていない。


 だからここでの回答は、


「ああ、仲はいいと思う」


 そういうことになった。


     ◆


 転校初日に初等部のアイドルであるオーガイを射落としたプレイボーイ、チェビル。

 はっきり言って、目立った。

 中等部にもその日のうちに噂が流れるほどに。


「……どうしてこうなったんだ?」


「チェビルくんは社会勉強が足りませんね」


 放課後の屋上。

 オーガイがジト目でチェビルをたしなめる。


「待ってください。俺だけが悪いんですか? 俺の横にしれっと立っていたオーガイさんは悪くないんですか?」


「堂々と答え方を間違えたチェビルくんが悪いです。しかしまあ、確かに私も油断していたと言えなくもないですね」


「ですよね。俺だけの責任じゃないですよね」


「責任の一端を押し付けて満足ですか? それで状況は変わりますか?」


「……いえ、変わりませんけど」


「そうです。この調査がしにくくなった状況で、チェビルくんが果たしてどう動くのか。ここからが腕の見せ所ですよ」


「あ、結局のところ、丸投げは変わらないんですか」


「OJT……実務を通じて経験を積んでください。私は帰ります」


「待ってください。オーガイさん、ひとりで帰るんですか? それって逆に目立ちませんか?」


 チェビルの言葉に、首を傾げるオーガイ。


「今日いきなりですが俺とオーガイさんは相思相愛のラブラブカップルという噂が立っています。それがいきなりオーガイさんがひとりで帰宅するとなると、さらなる噂が噂を呼ぶのではないですか?」


「ほう。ではどうしろと?」


「一緒に校内デートしましょう。今の俺たちは、一緒にいる方が自然なんです」


「…………ぷ」


 オーガイは失笑した。

 ともあれ、チェビルの言うことにも一理ある。


「いいでしょう。調査に同行します」


 かくしてチェビルはオーガイを横に校内を練り歩くことになったのである。

 チェビルとしては先輩であるオーガイの助力を得て、調査を進めたい。

 ガワはともかく、状況は願ったりであった。

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