ハーツヴンデでの戦法を選択した四人は、できるだけ融合悪魔の胸の宝石を砕くことを意識して攻撃を続けた。
「
「グ#∂≮ァ……!」
「
「&ェ∃φッ!」
「
「δオ∅¥ゥ……!」
「
「ガ@µォ¿……!」
思い切った戦法に切り替えたおかげで着実に個体を減らせてはいるが、ユダ以外は少しずつ表情に苦痛を滲ませてきている。
それに気付き始めたユダは、ペトロの顔色を見て尋ねる。
「ペトロ。この
「ずっと
「確かに。そんな負荷を感じ続けてるよね」
シモンもヨハネも、同様の負荷を感じていた。
「ユダは、気分が悪かったりしないんですか?」
「私は、今のところ大丈夫」
ユダは、
(これらの個体は悪魔が主導権を握ってるんだと思ってたけど、亡霊と深奥まで融合状態なのか? それとも、狙って攻撃しているのが亡霊が憑依する核となる宝石だから? ……どちらにしても、やはりハーツヴンデを使っていることが影響してるのか。
「ペトロ。まだ不快感には堪えられそう?」
「まだそんなに気分は悪くないから、大丈夫」
その言葉に嘘はなく、ペトロの顔色はさほど悪く見えない。しかしヨハネとシモンは、二〜三段階上の苦痛を感じていそうだった。
(私とペトロはバンデだから、精神的負荷を配分して軽減できている。シモンくんにはヤコブくんがいるけど、今は棺の中だから負荷を配分できていない。そしてバンデがいないヨハネくんは、全て一人で受け止めていることになる)
「それはキツイな……」
とにかく、この戦闘に時間は掛けられない。
一方。戦闘を観察していたビフロンスは、風向きが変わりかけている戦況を見て、懐から新たに宝石を取り出した。
「少し、
ビフロンスが持つ二つの宝石が輝くと、融合悪魔の一部に異変が起きる。
まるで吸い付くように、数十体が一つに合体する。するとそれは、五メートルはあろう
「デカッ!」
しかも一体だけではなく三体現れ、合体したぶん核の宝石も大きくなり、頭部には陰影ができて顔が認識できる。
「≮オ¥µェ&∅アッ!」
「
ペトロとヨハネが防御した。辺りは紫色の煙で充満する。
「何!? この毒々しい煙!」
「成分はわからないけど、絶対に吸い込んだらいけないやつだね」
「面倒臭いやつが増えたけど、どうする?」
「ヨハネくん、シモンくん。気分的にどう?」
「あまりいいとは言えませんね」
「ボクも。ヤコブと離れてるせいかな」
顔色からも窺える不調を、二人は正直に自己申告した。
「私とペトロはさほど負荷を感じていないから、そういうバンデ理論ということにしておこう」
「つまり。調子がいいのは、オレとユダだけってことか」
「だから。私とペトロが頑張って戦況を打破しようかな、って感じなんだけど」
「そうですね……。悔しいですけど、それがいいと思います」
「ボクも賛成」
無理をするのは得策ではないと心得ているヨハネとシモンも、悔しくもその案に同意した。
紫色の煙が次第に晴れていく。視界が完全に良好になる前に、ヨハネとシモンが攻撃を放つ。
「
「
二人の攻撃で、
「はあっ!」
二人は行く手を阻む融合悪魔たちをハーツヴンデで祓い、背後から襲い掛かって来る個体からもお互いに背中を守りながら突き進み、
「まずはこいつから!」
「はあっ!」
二人は
「§µ#!」
二人は体勢を整えて再度斬り掛かる。
「
「
「@∂∀ッ!」やられる
二人は融合悪魔に邪魔をされながらも、他と比べものにならない大きさの体躯に何度も攻撃する。
反撃で繰り出される巨大な五本の鋭利な爪を刃で受け流し、謎の紫色の煙も何度も回避しながら、ジワジワとダメージを与えていく。その反射神経や機動力は、これまでの戦闘を上回っている。
「σ∃ァ∅∌ッ!」攻撃を受け続ける
「闇より来たりし悪しき存在を、無に導かん!」
そして、核の宝石を同時に砕いた。
「グ¥@µォ∃¿ァ……ッ!」
核の消滅とともに亡霊は浄化され、器となっていた悪魔も黒い霧と化した。
「まさか。たった二人で……」
「よっしゃ、次っ!」
ユダとペトロは、息つく暇もなく二体目を倒しに掛かる。
融合悪魔を相手にしながら見ていたヨハネは、その戦いぶりに圧倒された。
「すごい。これが、バンデの戦い……」
(ユダはまだ記憶が戻ってなくて、トラウマも抱えたままだっていうのに。まるで、完全な唯一無二の二人になったようなコンビネーションだ)
「羨ましい……」
「ヨハネ! 羨む前に集中して!」
「わかってる!」
融合悪魔を任されたヨハネとシモンも、次々と
シモンはなんとか戦いに集中しているが、やけに胸騒ぎがし、棺の中のヤコブが気掛かりで堪らなかった。
(さっきから嫌な感じしか感じ取れない。ヤコブ、大丈夫だよね?)
───どうなったとしても、戻って来たら笑顔で迎えてくれ。
(ヤコブは覚悟を決めてた。でもその覚悟は、正しい方の覚悟なんだよね? ボクは諦めないよ。ヤコブが
ユダとペトロの活躍により、戦況は使徒側が有利となり始めた。ビフロンスは融合悪魔を追加で喚び出すが、その数は第一陣と比べるとかなり少ない。眷属の消耗を躊躇していた。
(自分もゴエティアの一人とは言え、グラシャ=ラボラスやガープ程、眷属を従えてはいません。
ビフロンスが増援を喚ぶのをためらったため、悪魔は確実に数を減らしていく。その選択により、三体いた
「
「
「&¥ォφ∀!」
ユダとペトロは、
「闇より来たりし悪しき存在を、無に導かん!」
「#¿∃ォ∅ア……ッ!」
そしてとうとう、最後の一体が
ユダとペトロの力で戦況は完全に逆転し、融合悪魔も残り僅かとなり、焦るビフロンス。
「くっ……!」
(主殿は、まだ終わらないのですか!?)
大物三体を倒したユダとペトロは、軍勢の親玉ビフロンスに迫る。
「もうネタは尽きたのかな、ビフロンス。まだ、あと三体は倒せるよ?」
「いや。それはちょっと勘弁。やる気なら一人でよろしく」
「え。ペトロ、それはちょっと酷くない?」
二人は、冗談を言える余裕すら残っている。
ビフロンスは、バルトロマイが戻って来るまで時間稼ぎのために取り入ろうとする。
「……いやいや。誠に恐れ入りました。使徒の皆様が、此れ程の力を隠し持っていたとは露知らず……」
「褒めたって見逃さないぞ」
「不問にして頂きたいなんて、とんでも御座いません。
「ユダ! ペトロ!」
後ろからヨハネの叫び声がして振り向くと、残党が二人に襲い掛かろうとしていた。が、シモンがそれらを光の矢で祓い、大事なかった。
「猶予を、ねぇ……」
ユダはメガネを光らせ、強めの視線をビフロンスに刺した。
「くっ……!」
ビフロンスは、惜しんでいた援軍を十数体喚んだ。しかし。
「
「
「
「
「ア∀µ§ォ%ッ!」四人に一瞬で全て祓われた。
「さすが悪魔。テッパンの卑怯なやり方だね!」
「ぐうっ!?」
ビフロンスは、ユダが振るった〈
「シモンくん」
シモンは光の矢を放ち、ビフロンスを地面に拘束した。
人間ごときに負かされ、地面を這う屈辱を味わうビフロンスは、いやらしい笑みを浮かべることすら忘れ歯噛みする。
「さあ。お前の主が戻って来るまでこのままか。それとも度肝を抜かせるか。どっちがいいかな、シモンくん?」
「ヤコブのことは信じてるけど、人質にしよう」
これでひとまず、対ビフロンス戦は決着となった。あとは、ヤコブが無事に戻って来るのを祈って待つだけだ。