数日後。アレンたちのバンドグループ「BY YOUR SIDE BOYS」のシングル、『pride of a timid person』が発売された。
ヤコブが出演したMVは、先行してグループのSNSと動画配信サービスで公開され、使徒のヤコブが出ていると一部で話題となった。
ヤコブとシモンも先行公開されたMVを観ていて、発売までにもう八回は視聴していた。
「なぁ、シモン。もうよくね?」
「えー。もっと観たい。ヤコブがかっこいいんだもん」
ヤコブはもうお腹いっぱいで飽きたが、観たがるシモンに付き合っていた。
「ここ! この雨に濡れるシーンが超かっこいい! このヤコブ好きだなぁ」
「そう言ってくれるのは嬉しいけどよ。飽きねぇの?」
「なんで? 大好きなヤコブしか出てない動画だよ? しかも初めてのMV! 何度も観ちゃうのわからない?」
「まぁ……。逆の立場だったら、わからなくはないかな」
「でしょ? それに。これをたくさんの人が観てるんだと思うと、めちゃくちゃ嬉しいんだ」
見飽きたヤコブだが、ポップコーンのように飛び出す気持ちの一つ一つが嬉しくて堪らない。言われるたびに自尊心が喜び、タブレット端末に釘付けになっているぷにぷにほっぺに吸い付きたいくらいだ。
MVには、ヤコブがギターを弾いている風のシーンもある。それを観たシモンは、ヤコブの顔を覗いて言ってきた。
「ねぇ、ヤコブ。ボクの誕生日に『ハッピーバースデー』弾いてよ」
「シモンの誕生日に?」
「ね?」と、シモンは上目遣いでおねだりする。
(「ね?」じゃねぇよ! クソかわいいな、このやろう!)
胸を撃たれ吐血で瀕死になりそうだったが、なんとか自我を保つヤコブ。
「ヤコブのかっこいいギターで、誕生日迎えたいな。そしたらボク、幸せだよ」
「うーん……」
「今年じゃなくてもいいから、ボクのために弾いてほしい」
かわいい年下の恋人からのおねだりに、ヤコブも断り切れない。特別な贈り物をしてやりたいと思うのも、正直なところだ。
「……そうだな」
いつかそのお願いを聞いてやりたいと、ヤコブはシモンに約束の頭ポンポンをした。
「えへへ。やったー!」
シモンは嬉しそうにヤコブに寄り掛かる。その仕草も表情も全てが愛おしくて、理性をこれでもかとがんじがらめにするヤコブ。
(だいぶシモンに弱くなったな、俺……。誕生日に、理性ぶち壊れるようなことがなければいいけど)