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面接テクニックをどうにかして!

 うんうんと頷いて静聴していたエレノアだが、ここで唐突に口を挟んできた。

「だからこそわたしが安易に手を貸すわけにもいかない。値する人物かどうか、貴方にはテストを受けてもらうわ。――〝分身複製バイロケーション〟!」


「「「「テスト?」」」」


 客人たちが疑問を差し挟んだ直後。入口扉が勢いよく開き、誰かが入室してきた。

 トラヨシ一行が着目すると、エレノアだった。

 身なりは同じで別人を演じるつもりはなさそうだ。つまりは分身複製魔法によるエレノア2号であろう。


 彼女はほざく。

「キーーーーーーーーーーン!」

 頭がどうかしたのか、両腕を真っ直ぐ横に広げた飛行機の真似をしながら小走りで奇声を保つ。やや赤面した恥ずかしそうな笑顔のまま、部屋の中央にあるテーブルとそれを囲む客人たちを周回しだしたのだ。


「コホン」

 と咳払いをして元のデスクにいるエレノア――エレノア1号がしゃべりだす。

「出題するわ。これらは冒険者ギルド総長から聞いたもの、わたしも意味がわからないけど答えは教わってるから当ててみなさい。……ここを航空会社だと仮定します。トラヨシ、あなたは面接官だとしてそこのわたしの分身が就活生、この場合どう答える?」


「「「コウクウガイシャ?」」」


 呆気に取られる仲間たちをよそに、トラヨシは記憶を探る。

 そういえば、面接でこんな対応があったという都市伝説も聞く。そこまで含むのか、と半ば呆れながらも。


「……せ、旋回して、そのまま帰還してください」


 彼の指示通りに、「キーン」と言い続けながら最後は後ろ手にドアを閉めエレノア2号は出ていった。


「「「「……」」」」


「正解よ、いえまだ偶然かもしれない! じゃあこれはどう?」

 へんてこな出来事に言葉を失う来客たちをよそに、机のエレノアは悔しそうにさらなる問いを出す。


「えー、今度はここが〝ギルド〟という名のビール会社だとしてわたしが面接官でトラヨシが就活生、あなたは沈黙を貫いてるとします。わたしが、〝どうして黙ってるんですか?〟と聞くので、適切な解答を述べてください」


「笑点かよ」


「じゃあいくわよ。……どうして黙ってるんですか?」

「お、男は黙ってギルドビール」


「……正解、やるわね! でも総長の前で恥をかくわけにはいかない、もう一問出題させてもらうわ!!」


「なあ、おれら必要なくね?」

 この間、小声で呟くブランカイン。

「航空……って飛行艇のことでしゅかね」

 とやはり小声のマリアベル。

「ビールはビールだろうが、意味不明だぜ。昔、不良司祭の修道院からくすねて飲んだ密造酒は美味かったな」

 と現実逃避するニーナだった。


「次はここがギルドという菓子メーカーだとして、〝当社のCMソングを歌ってください〟と問われた就活生のあなたは〝チョッコレート、チョッコレート、チョッコレートは〜♪〟と歌ってしまった、続く歌詞は?」


「ギルド〜♪?」


「正解!」


「……ネタに馴染みないともはやシュールなギャグ漫画みたいになってるよ……」


 嘆くトラヨシをよそに、置いてけぼりにされた仲間たちはテーブル上に出されていた菓子類と紅茶を無遠慮に頬張って暇を潰すことにした。


「シーエムが何かは知らないけど、こっちのチョッコレートは美味いな」

「このキャンディーも初めて舐めますがおいしいでしゅよ。なに味でしゅかね」

「もうべっこう飴ってことにしとこうぜ」


「これで最後よ! 手加減せずに解答しなきゃ間違えにするから覚悟しなさい!!」

 他方、すっくとエルフは席を立つ。

 自分が飲んでいたカップのコーヒーを持ち、客人たちへと肉迫しつつしゃべる。

「あなたは複数の内定を得た就活生で、うち一社に断りに出向いたところ、企業の担当者に食事へ誘われた。注文したコーヒーが届いた瞬間!」


 エレノアはカップのコーヒーをトラヨシにぶちまける。

「あっつ……いやぬるっ!」

 長時間話していたので異世界人の悲鳴はそんなものになったが、構わずエルフはミダス紙幣をポケットから出して彼に投げつけた。

「クリーニング代だ!」


 戦士と魔女と尼僧はぽかんである。

 一方、トラヨシはどうにか立つ。そして、セクハラにならないよう細心の注意を払いながらエレノアの身体を押し飛ばした。


 たいして力を込めてないのに、演技なのか彼女は大げさに吹っ飛び、床を滑って壁に頭をぶつける。

 怯みそうになりながらも、トラヨシは紙幣を拾って丸め、逆にエレノアへと投げ返した。

「治療代だ!!」


 しーん。


 事情を把握していない三人がさすがに固まるなか、エルフの受付嬢はゆっくりと立ち上がり


「正解ー! 合格、おめでとう〜!! これで心置きなく目的地に連れていけるわーー!!」

 なぞとはしゃぎ、駆け寄ってトラヨシにひしと抱きついたのだった。


 戦士と尼僧が相変わらず硬直状態のなか、一人ムッとする魔女である。


 そのとき。


 カンカンカンカン!


 甲高い鐘の音が天井から降り注いだ。


「敵襲の警鐘? まだ何かあんのかよ?」

 指摘通りにそれは見張り塔からの警告だったが、謎のやり取りが続いたので疑うブランカイン。

「魔精避けに〝退魔のベル〟の効能を含んでやがるぜ」ニーナは別の可能性も危惧する。「さすがに芝居でここまでしねぇんじゃねぇか?」


 三人の来客がトラヨシと抱き合ったままのエルフを窺うと、実際彼女は深刻な面持ちで頭上を仰いでいた。


 途端。

 呼応するように入口扉が開き、さっきのエレノア2号が焦燥した様子で入ってきた。

「て、敵襲――あっ、失礼! ごゆっくりお楽しみください」

 男と抱き合うエレノア1号を一瞥するや、どういう勘違いか扉を閉めてしまう。


「待って誤解!」慌ててトラヨシと距離を起き、エレノア1号はドア奥に怒鳴る。「てかちゃんと報告してよ、副ギルド長!!」


 どうやら冒険者ギルドのキャメロット支部副ギルド長だったらしいエレノア2号も自らの役割を思い出したのか、即座に戻ってきて報告し直した。


「て、敵襲よ! 魔精国から国境を越えて、十一魔将精ましょうせいの一角ヴクブカキシュと、巨魔兵団きょまへいだんが攻めてきたわ!!」

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