目次
ブックマーク
応援する
5
コメント
シェア
通報

12.ライムントはダミアンに告白する

 ダミアンが王都に帰ってきた。

 カサンドラに挨拶した後でダミアンはカサンドラ騎士団の詰め所の裏にある訓練場に顔を出してくれた。

 人気者だったダミアンはすぐに騎士たちに囲まれてしまう。

 騎士たちをかき分けて一番近くに行くと、ライムントはダミアンに御前試合の招待券を渡そうとした。


 それより先にカサンドラが御前試合のいい席のチケットを渡していたと聞いて、やられたと思ったが、引かない。必死に受け取ってくれるように頼みこむ。


 カサンドラではなく自分の招待券を使ってほしい。


 その願いは虚しく、断られたが、しつこく受け取ってほしいといい続けると、ダミアンは両親をその招待券で連れてくるという。


 ダミアンの両親がいる前でダミアンに優勝したものがもらえる花を渡して告白だ!


 意気込んだライムントがダミアンの両親に会わせてほしいと頼み込むと、ダミアンは難色を示していたが、他の騎士たちがダミアンの両親が鍛冶屋だということを聞き付けて自分たちの武器や防具の整備を頼もうとすると、ダミアンは見事に勘違いした。


 ダミアンの両親に仕事を与えるために紹介してほしいと言っているとダミアンは思ったのだ。


 ちがーう!

 ダミアンの両親の前で告白して、付き合いを認めてもらうために決まっている。

 そんな下心に全く気付いていないダミアンが金色に煌めく目でライムントを見てくるので、ライムントは「違う! 全然違う!」と思いながらも、美麗な顔を歪めて微笑んだ。


 その上、親友と念押しのように言われてしまった。


 親友……。


 御前試合で優勝したら告白しようと思っているのに、先にとどめを刺された気がして、ライムントは頭を抱えたかった。


 御前試合の当日、ダミアンは二階の一番前の席に座っていた。一階の席はほとんどがボックス席になっていて、カサンドラ騎士団の騎士の家族の貴族たちが陣取っている。ライムントの贈った招待券の席は二階の中央くらいなので、どこにダミアンの両親がいるかはよく分からない。


 御前試合はトーナメント形式で行われる。

 ライムントが最初に当たったのはカサンドラ騎士団でも中堅の騎士だった。


「カサンドラ殿下とエーミール殿下の御前にて、恥じることなく、正々堂々と戦うことを誓う!」


 剣を持ち上げて誓いの言葉を述べると、相手の騎士も誓いの言葉を述べる。

 始まりの合図が出され、切り込んできた相手の騎士の剣を弾き、剣を突き出すと、相手の騎士は何とかそれを受け止める。

 剣同士がぶつかり合って、火花が散る。

 渾身の一撃を放つ相手の騎士の剣を下から救い上げるようにして弾き飛ばし、ライムントは相手の騎士の胸に剣を突きつけた。


「勝者、ライムント・ベルツ!」


 勝利が告げられると、ライムントは相手の騎士と握手をして闘技場の前方で試合を見守っているカサンドラとエーミールに頭を下げて一度控室に下がった。


「順調に勝ち進んでいるようだな。おれと戦うのは決勝戦になりそうだ」

「それまであなたが勝ち進めれば、の話ですけどね」

「この野郎!」


 飛び掛かってこようとするルッツを周囲の騎士が宥めて押さえ付ける。カサンドラ騎士団では私闘は許されていないので、こんなところで戦って御前試合の出場権を取り上げられたくはない。それはルッツも同じだろうが、単細胞で頭に血が上りやすい男である。

 呆れつつも冷ややかな目を背けて、ライムントは剣の調整を行った。思い切りぶつけ合ったので、歪んではいないが、微妙に傷付いていたりする。

 御前試合が終わったら、ダミアンの両親に調整を依頼するのもいいかもしれない。ダミアンに告白するのだから、お付き合いをさせてもらう挨拶もしなければいけない。


 頭の中は優勝した後のことでいっぱいだったが、ライムントは何の問題もなく順調に勝ち進んだ。

 ルッツも同じく順調に勝ち進んでいる様子である。


 決勝戦の相手は、ルッツだった。


「そのお高くとまったお綺麗な顔を地面にこすりつけてやる」

「そうされるのはどっちでしょうね」


 ルッツも順当に勝ち上がってきたのでそれなりの実力はあるのだろう。

 油断はしないで剣を抜いて誓いを述べて、始まりの合図で切り込むと、ルッツの剣が思い切りライムントの剣にぶつけられる。体格はルッツの方がいいので、純粋な腕力はルッツの方が上なのだろう。

 じりじりとつばぜり合いをしていると不利になると悟ったライムントは、一度下がって剣を引いた。そこにルッツが攻め入ってくる。

 力任せに切り込んでくるルッツの剣は、試合だというのに怪我をしそうなくらい際どい場所を攻めてきていた。


「試合に熱が入りすぎて、うっかりきれいな顔を傷付けても、仕方がないよなぁ?」


 嫌な笑みを浮かべて切り込んでくるルッツに、ライムントは呆れ返る。

 試合は寸止めで相手を傷付けないようにするのが決まりなのだ。その決まりすら守らないルッツのやり方にため息をつきつつ、ライムントは素早くルッツの懐に飛び込んだ。

 早い動きには対応できないルッツが何とか剣でライムントの剣を受け止めた瞬間、ライムントはルッツの剣を横凪ぎに弾き飛ばしていた。

 剣を失ってルッツは降伏するかと思ったら、ライムントの腰にタックルしてきて、ライムントをどうしても倒そうとしてくる。


「もう終わりだ! 負けを認めろ!」

「騎士らしくないぞ!」

「正々堂々の誓いはどうした!」


 カサンドラ騎士団の騎士から怒号が飛んでくるが、ルッツは構わずライムントを地面に倒そうとしてくる。ライムントはルッツの腕を振り払い、ルッツの首に剣を突きつけた。


「勝者、ライムント・ベルツ!」

「まだ終わってない!」

「誰か、ルッツを引きずり出せ!」


 審判役のラルスから命じられて、ルッツは騎士たちに羽交い絞めにされて連れ出された。

 ライムントは剣を腰の鞘に戻し、カサンドラとエーミールに膝を突いて頭を下げる。

 カサンドラが歩み出て、ライムントにカサンドラの髪のような真っ赤な薔薇の花を渡した。


「カサンドラ騎士団の騎士たちよ、よく戦った。今回の勝者はライムントだが、来年は違う勝者が出ることを願っている。ライムント、これまでカサンドラ騎士団でよく仕えてくれた。辺境へ行っても元気で」

「ありがとうございます、カサンドラ殿下」


 深く頭を下げ、薔薇の花を受け取ったライムントに闘技場中から拍手が送られた。


 優勝の後でライムントは客席に上がってダミアンを探していた。ダミアンは褐色の肌のダミアンよりも小柄な男女と話している。

 ライムントに気付くと、ダミアンは手を上げてライムントに声をかけてくれた。


「優勝おめでとう、ライムント。彼がおれの騎士学校時代からの親友のライムント。ライムント、こっちがおれの両親だ」

「ダミアンの父です」

「ダミアンの母です。ダミアンと仲良くしてくださってありがとうございます」


 挨拶をされてダミアンは姿勢を正す。


「ライムント・ベルツです。ダミアンとは騎士学校でも寮で同じ部屋で、カサンドラ騎士団に入ってからもずっと仲良くさせてもらってきました」

「わたしたちに仕事を斡旋してくださるというお話聞きました」

「カサンドラ騎士団のお仕事がいただけたら、助かります」


 そういう風にダミアンはライムントのことを紹介していたのか。

 これから、きっちりと新しい関係を紹介してもらわなくてはならない。


 ライムントはダミアンの前に赤い薔薇の花を差し出した。


「ダミアン、あなたが好きです。この花を捧げる意味が分かるでしょう?」


 御前試合の優勝者がもらえる花を捧げるのは、その騎士が慕っている相手だけ。

 これならばダミアンもライムントの気持ちに気付いてくれる。

 差し出した花をじっと見つめて、ダミアンが口を開いた。


「なんだよ、大袈裟だな。おれもライムントが好きだよ」


 ライムントの頭の中でウエディングベルが鳴り響いた。

 ダミアンもライムントのことが好き。

 それを両親の前ではっきりと宣言してくれている。


「花を捧げるなんてしなくても、おれとライムントは一番の親友じゃないか」

「親友?」

「そうだよ。花なんてなくても、ずっと親友だっただろう」


 嘘!?

 今、好きだって言ってくれたのに!

 それは親友って意味だったのですか!?


 浮かれ切っていたライムントの心がどん底まで落ち込む。

 両親の前で告白をして、告白を受け入れてもらったと思い込んでいたが、ダミアンは優勝者が花を捧げる意味を全く理解していなかった。


「びっくりした。ライムント様はダミアンの親友なのですね」

「花を捧げるなんて仰ったから、ダミアンとそういう仲なのかと思いました」

「ないない。ライムントはおれの一番の親友なんだ」


 追い打ちとばかりに完全否定されて、ライムントは心の中で膝から崩れ落ちていた。


 やっぱり、ダミアンに勝たなければ告白は受け取ってもらえないのか。

 ダミアンの鈍さが憎いライムントだった。


この作品に、最初のコメントを書いてみませんか?