5階建ての古びたアパート。約2週間ぶりにここを訪れることになった。眞白とLINEのやりとりをした数日後、眞白から家に遊びにおいでと誘いがあったのだ。私は実家がある4階へと、階段を
「こんばんは……」
夕方の17時。「こんにちは」か、「こんばんは」かで少し悩んだ末、ノックをして古びた鉄の玄関を開ける。玄関と隣合わせのキッチンで、眞白と母は調理をしていた。
「いらっしゃい、悠真! お母さん、彼が悠真くん!」
「あらあら、こんばんは! 古いし、狭い家だしで、本当にごめんなさいね。階段も大変だったでしょ。はじめまして、眞白の母の
186センチの私の前で、150センチちょっとの母は丁寧に頭を下げた。
「東雲悠真といいます、お邪魔します。あ、あの……これつまらないものですが……」
そう言って、私は母の大好きな和菓子を差し出した。ただ、気を使わなくて済むよう、出来るだけ高くない品を選んだつもりだ。
「あらまあ……お若いのに気を使ってくれて……本当にありがとうございます。——そうそう、迷惑じゃなければ晩ごはん一緒に食べていかない? ちょうど今、作っているところだから。——眞白はもういいよ、あとはお母さんがするから」
私は夕食をいただく旨を伝えると、ひとまず眞白の部屋へと移動した。
「はあー……なんか凄い緊張した。自分の母親に会うのに、こんなに緊張するなんて他じゃ絶対ないだろうね」
「ハハハ、本当に。——っていうか、悠真。お母さんと挨拶した時、ちょっと泣きそうだったでしょ?」
眞白は声を抑えてそう言った。実を言えば、挨拶の時どころか玄関をくぐっただけで涙が出そうになっていた。
***
「眞白ー! ご飯出来たわよー」
襖を隔てたキッチンから、幸子の声がした。私と眞白は揃ってダイニングテーブルの椅子にかける。
私の身長が大きくなったからだろうか、それとも今住んでいる部屋が大きすぎるからだろうか。私が住んでいた時より、随分とこの部屋が小さく見える。
「わー、やった! 私の大好きなやつだ!」
「そうそう。下手なチャレンジはせずに、眞白が好きなおかずにしといたの。悠真さんの口にも合うといいんだけど。あと、おかわりは幾らでも言ってね、ご飯は沢山炊いておいたから」
私たちは「いただきます」と手を合わせ、食事を始めた。
「これこれ! このおかず、白ご飯が進んじゃうのよね!」
眞白は頬に手を当て「おいしー」と言って箸を進める。
私も、母手作りのおかずを口に運ぶ。
ああ……お母さんの味だ……
でも、いつもと少しだけ違う……ずっとこの味を食べてきたから、すぐに分かった。ありがとう、お母さん……
「——ど、どうだった悠真さん? お口に合わないようだったら残してくれて大丈夫だからね」
幸子は心配気にそう言った。一口食べて、私の箸が止まってしまったのだ。喉の奥が苦しい。涙が溢れそうで、食事が喉を通らない。
「す……すみません……永らく、家庭料理を食べていなかったので、お母さんの料理が凄く美味しくて……」
「あらあら……そうだったの……」
涙目の私を見て、幸子も目に涙を溢れさせた。
「お母さん、悠真はずっと一人暮らしなの。だからきっと、感動しちゃったんだよ。——そうだよね、悠真」
そう言って眞白は私の背中をさすってくれた。今の眞白にこうやって慰められるのは、早くも二度目になる。