「さっきはすみません、食事中なのにあんな感じになっちゃって……」
私たちは食事を終え、食後のコーヒーを飲んでいた。
「何言ってるの。これに懲りずに、いつでも来てちょうだいね。眞白のお友達が来てくれるなんて、本当に珍しいんだから」
私が家に友達を呼ぶなんて、小学生の時以来だろうか。友人が少なかったということもあるが、この古いアパートを知られるのが恥ずかしいという気持ちもあった。
「あとね……こんな話して、悠真さんが困らないといいんだけど。最近の眞白、本当に元気になったの。小学生の時のように、学校のこととか色々と話してくれるようになって。——でもね、それまでの眞白は正直ちょっと心配だった。もしかしたら私の元を離れて、遠くへ行っちゃうんじゃないかって思うくらい。なのに、仕事が忙しくて、眞白と話す時間が全然取れなくって。だから私ね、掛け持ちのパート一つ辞めたのよ」
「えっ!? そんな話、私も聞いてないよ! どっちのパート?」
「レジ打ちの方。だから、週末の夕方はこれから一緒にご飯食べられるよ」
幸子は眞白にニコッと笑ってそう言った。
「でも、最近の眞白見てたら、辞めるのちょっと早かったかなって。こんな元気になれたのは、きっと悠真さんのおかげなんでしょうけどね。ありがとうね、悠真さん」
「そっ、そんな……眞白本人が色々と頑張ってるおかげですよ。最近、アルバイトまで始めたっていうし」
「そうそう、そうなの! 私は絶対、アルバイトはさせないつもりだったのに。でも眞白は、私を信じてって。学校にも家の事情を言って、承認してもらうからって。眞白が自分のやりたいことを本気で言ってくれたのって、本当に初めてで。——実はね、少し嬉しかったんだ、お母さん」
幸子は目尻を拭いながらそう言った。
***
「今日はお邪魔しました、晩ごはん本当に美味しかったです」
「いえいえ、大したもの出せなくてごめんね。よかったら、また遊びに来てちょうだいね」
「じゃ、駅まで悠真を送ってくる。お母さん、先にお風呂は入ってていいからね」
私たちがアパートを出てからも、幸子は4階から私たちに手を振っていた。私は徒歩、眞白は自転車を押しながら駅へと向かう。
「お母さん、本当に嬉しそうだったね。これからも友達呼ばなきゃ」
「眞白、それは程々にしておいた方がいいかも。今日のおかず、いつもと少し違うって気づいてた?」
「え……? いつもどおり美味しかったけど?」
「普段より全然良いお肉買ってくれてたよ、お母さん。友達のためにって奮発してくれたんだと思う」
眞白は「そっか……」と呟いた。
「——い、いや、やっぱり眞白の思う通りにやっていい。今となっては、お母さんは眞白のお母さんだ。それに、眞白が決めたことの方が全部上手く行ってる」
「悠真……」
「実を言えば、今の眞白に嫉妬してるんだ。お母さんも春人も千尋も、あの彩奈だって、今の眞白とは上手に付き合えてるし。物事が上手く行かないのは、環境や他人のせいだとずっと思ってた。だけど、本当は全部自分自身のせいだったんだよね。——ハハハ、なんか自分が恥ずかしくなってきたよ」
「恥ずかしく思うことなんてないよ。私だって、幼少から同じ環境で育ってたら、悠真と同じ感じだったかもしれないし。——それにしてもさ。私たち、眞白と悠真が板についてきたと思わない? なんだか、今となっては「僕」って言う方が違和感ある気がするし」
眞白はフフフと笑ってそう言った。
上げた前髪に、外してしまったメガネ。私には作れなかった、とびきりの笑顔。
今の眞白は本当に素敵になった。